12話 登校時の小さな事故

文字数 912文字

 登校班の副班長だったころ。
 一つ年下の男の子が、側溝に落ちるという事件があった。
 側溝と言っても、幅は1メートルほど深さも2メートルぐらいはあった。
 水は流れていなかったが、落ちてただで済むような場所ではなかった。
 幸い学校が近かったこともあって、学校の先生を呼んで来て助けてもらった。

 問題はこの後だった。
 その子が「後ろから、押された」と言ってきた。
 後ろに居たのは副班長だった私だけ……という事は、押したのは私という事になる。
 無言で歩いていた時だったので、ふざけ合って押し合うという事もなかった。
 私はその子を押すどころか触った記憶もない。
 狭い道でもないし、急な坂道でもないので、押す要因がない。距離を詰めて歩いて居たわけでもない。
 私は「知らない」と答えたけれど、その後はどうなったのか、わからないままだった。
 もしかしたら私は「(うそ)つき」になっていたのかもしれない。
 もしくはただの「勘違い」で終わったのかもしれない。

 どちらにしても、登校班の中に微妙な空気が出来てしまった。


 もう一つ。
 こちらは一人で登校するようになった頃。
 すでに班に合流する気力も、急ぐ気力も、なくなっていた頃。
 いつものようにマイペースに学校に向かっていた。

 ふいに道路の向こう側から声がした。
「どうしたの?遅刻じゃないの?」
 声の方を見てみると、知らないおばさんが車の中から声をかけてきていた。
 私は怪訝(けげん)な顔で(うなづ)いた。
 すると「乗っていく?」と声をかけられた。
 普通ならば乗らない事が正しい。
 私は少し考えた後、車が来ないか確かめてから道路を渡った。
 そして、車に乗り込んだ。

「寝坊しちゃったの?」
「……はい」
 気楽に話しかけてくるという事は、近所の誰かだろうと予測した。
 この道路は交通量が多い。
 そんな場所での誘拐はありえないと思った。
 通勤時間帯なのだから、誰かが必ず見ているという変な安心感もあった。

 実は長い間、この人が誰なのか全く分からなかった。
 同級生の親ではない事は確かだった。学校などで見かける人ならば、分からないハズがない。
 かなり後になって、ご近所さんだという事が分かった。
 良い子は真似(まね)をしちゃいけない事例。
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