9話 新校舎へ

文字数 982文字

 中学校入学時はボロボロの校舎に入って、このままこの校舎で卒業するのかと思っていた。
 中学2年の終わりには、新校舎予定地に工事車両が入った。
 新校舎は急いで作られて、中学3年の夏休みには完成した。

 残り半年ほどしかないその校舎への引っ越しの中心は、中学3年となった私たちだった。
 誰かが担うべきなのだと分かっているが、何とも言えない理不尽さを感じた。
 受験もあるのに、半年のためだけの校舎引っ越しをやらされるのである。
 夏休みは、校舎の引っ越し作業で学校に行った。

 名目上は『部活』という事になっていたが、やることは引っ越しだった。
 美術部だったので美術室の引っ越しが中心だった。それが終わったら、他の場所の引っ越しも手伝った。
 普段は物置となっているような場所で、過去の校舎の模型を見た。
 廊下のない校舎の模型はもちろん、その前の木造校舎の模型もあった。
 古い写真なんかによくあるような、昔の木造校舎そのままだった。
 一緒に作業をしていたこたみちゃんが、先生に聞いた。

「どうして、廊下を失くしたんですか?」

「……どうしてなのかは知らないけど、変わったものを作りたかったんじゃないの?」
 と、返ってきた。
 変わったものよりも、実用重視でお願いしたいと思った。

 木造校舎は火事で消滅して、その後に廊下のない校舎が出来た。
 そこからまた、廊下のある新校舎へと移る。
『木のぬくもり(あふ)れる校舎』というようなキャッチコピーがついていた気がする。
 確かに以前の校舎は廊下のないコンクリートの塊だった。それと比べると、木のぬくもりは優しい感じがする。
 そして何より、廊下がある。階段を間違えるなんて事がない。
 廊下のない校舎では別棟も合せて7つの階段があったが、新校舎は3つに減っていた。

 廊下を見渡せば一学年全てのクラスがほぼ見渡せる。隣のクラスしか見えないなんて事はない。
 さらにはよく分からない『ランチルーム』というものも、ついていた。
 他のクラスと合同で給食を食べる場所……という事だった。
 実際には、人数が多すぎて身動きが取れずに給食を食べる場所となっていた。
 さらに給食のために3階から1階に降りなければいけない。
 廊下がない不便さからは解放されたが、ランチルームと言う新たな不便さが出来た。

 ともあれ、校舎の引っ越しが終わって、やっと受験に集中できるようになった。
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