18話 相談室と教室

文字数 972文字

 2年も半ばになったころ、こたみちゃんと再び話すようになった。
 正直、何がきっかけだったのか全く覚えていない。
 とにかく、放課後になるとこたみちゃんが来て、私を保健室に連れ出す。
 具合が悪いわけではなくて、保健委員になったから手伝えと言うのだ。
 私は毎月の『保険だより』を作るのを手伝っていた。
 『保険だより』がない時は、保健室で雑談をしたり隣の相談室へ行ったりもしていた。
 そこで、こたみちゃんや他のクラスの子と時間を(つぶ)した。

 こたみちゃんが私を「かいぬし」と呼ぶので、皆は私の名字を「カイヌシ」だと思っていた。
 それを知った時、私はこたみちゃんと笑った。
 確かに、私の本名を知らなければ、呼ばれている名前が名前だと思うのだろう。
 『カイヌシ』は本名のもじりでもなく、名前と関係のない呼び名だった。

 何の用事だったのか知らないが、彼女たちが私のクラスへ来た事がある。
 私に用事ではなく、他の誰かに用事があったようだった。
 その時、私を見つけて驚いた顔をするのを、私は少しだけ面白く眺めていた。
 『面白く』と書いたが、私は教室では表情がないので、彼女たちが私の内心を知る事はなかった。
 彼女たちが驚いたのは、『私の表情のなさ』と『ひとりきり』という事も分かっていた。
 そして、面白いと思うと同時に、気まずいとも思っていた。
 とはいえ、何かが変わるわけでもない。
 私は相変わらず、教室で無表情に過ごし、相談室では普通に過ごしていた。


 逆の時もあった。
 クラス対抗の球技大会の時。
 試合の時間までは自由に過ごしていいので、私はこたみちゃんと一緒に相談室で過ごした。
 こたみちゃんが試合の時間になって出て行く。
 私は、クラスの人がやってきても見えない場所に隠れた。
 クラスの子が呼びに来たのが分かったけれども、私は出る気はなかった。
 やがて、クラスの子が出て行って、こたみちゃんが戻ってきた。

 お(しゃべ)りが再開されて、他の子もやってきたり、試合に行ったりと入り乱れていた。
 再びクラスの子がやってきて私を見つけた。
 一瞬の驚いた顔の後で、「試合、始まるよ」と告げた。
 先ほど、私がいなかった事は特に話題には出ないが、彼女たちから苛立ちを感じた。
 私も、何も聞かないし、聞く気もない。

 負けても勝ってもどっちでもいい試合は、どうなったのか一切覚えていない。
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