14話 家族

文字数 855文字

 家族にもバレた。
 母は「死にたかったんでしょ!!一緒に死んでやる」と、私に向かって叫んだ。

 自傷を知った親が、どんな対応をするものなのかは知らない。
「私なんかいらない」という母を、私は子供の頃から慰めてきた。
「あなたが死にそうになっても助けない。他の子がいるから、死ねない」とも、何度も言われてきた。
 今更、母が私のために死ぬなんて信じられないし、死にたいなら一人で死んで。私も一人で死ぬからとしか、思えなかった。

 父は泣いた。
 あまりにも黙って泣くので、申し訳ないなとは思った。
 けれど、父は私を一切見ていない。こうなっても、私を見ていない。
 子育てに関わることは少なく、女の事か、本家のいとこたちの事ばかりで、我が子は最後。
 私を保険の仕事に誘ったのも、「どんな仕事でもいいから、就職してほしい」と思っただけに過ぎない。
 私がどんな人間かはそこに入らない。

 父の希望が私の就職と、保険屋の女へ自分が良い人間だと示す事だっただけで、それ以外はない。
 父が泣くのは私のためではなくて、父自身が『良い人、良い父親』では、なかったからだ。
 そして私が父の理想の『良い子供』ではなかったから。
 それ以外、なにもない。


 仕事を休んで、父の仕事を手伝う事になった。
 ちょうどその日に、こたみちゃんが会いたいと言ってきた。
 メールで今の状況を話した結果だった。
 父に「友達に会いに行きたい」と言うと「仕事があるだろ」と言われた。
 その仕事は父の手伝いで、雇用契約があるわけではない。
 子どもは親の奴隷だから、親の言葉に従う。

 仕事先の家では、女性が
「うちの子、会社でストレスをためて胃潰瘍になって……今の子供は本当に弱いわね」
 という話が飛び出した。
 父は何と答えるのだろうか?と思っていたら、苦笑いで
「そうですね……」
 と短く答えていた。

 私がいたから、それ以上は言えなかっただけかもしれない。
 いつもならこんな話題には「本当にそうだ。知り合いでも、そんなのがいて、親は困っているらしい」なんて話にするはずだと思った。
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