11話 推薦入試

文字数 1,036文字

 しつこいが、私はお(しゃべ)りが苦手だ。
 私が何とか最低限のお(しゃべ)りをしていたのは、こたみちゃんがいたからだ。

 受験の時、推薦入試が視野に入らなかったのは『面接』があったから。
 ホタルちゃん(母方従姉妹)が推薦入試を受けて、大変だったという話も聞いていたので、だったら一般入試でいいと思っていた。
 が、担任のつぼの妖精は、なぜか私に推薦入試を勧めてきた。
 大人のいろんな事情かなと邪推をしつつ、あまりにも推してくるので母が「やってみたら?」と言いだした。
 成績も小論文も問題はない。問題は『面接』だった。
『面接』に迷いつつも、小学生の時の作文発表を思い出して、推薦にすることにした。
 作文発表よりも目の前にいる人は少ない。だから大丈夫……と自分を奮い立たせた。

 面接の練習の日。
 自分で思うよりも、受け答えが出来たと思った。
 それは、間違ってはいなかったらしく、練習相手になってくださった先生からも「思ったよりも、出来ているじゃん」と言われた。
「本当は、もっとできないと思っていたのよね」との言葉も続いていた。
 これを言ってきたのは、母を虐めていたという隣の担任だった。
 なるほど、こんな風に率直に言うところが母は嫌いだったんだなと思った。

 もちろん何も問題がなかったわけではない。
 沈黙の時間があったり、やはりまだ声が小さかったりと修正点は多かった。
 声の大きさは練習を繰り返すことで少しずつ大きくなった。
 沈黙の時間は、一旦(いったん)「はい」と答えて、考える時間を作る事で減らすことが出来た。
 質問は決まり切っていて、それさえ覚えれば問題はなかった。
 練習の甲斐があってか、推薦入試は合格した。

 合格後に職員会議の事を知った。
 実は私を推薦するかどうかで、職員会議は荒れていたらしい。
 壺の妖精(担任)が言っていたと、母から聞いた。
 私を推す担任と、その他の先生たち……うっすらとなぜか、隣の担任を思い浮かべてしまった。
 もちろん反対理由は『面接』だ。私が面接に受かるわけがないから、推薦できないという事だったらしい。
 それを担任が、「大丈夫です。やれます」と推してくれた。
 それまで、特に可もなく不可もない壺の妖精(担任)が初めて、神様に思えた。
 人と(しゃべ)る事が少ない私を気にして、「すみません、何もできなくて」とも言っていたらしい。
 担任が推薦を勧めてきた、私に自信を持たせるためだったらしいと卒業後に知った。

 そうまでして入った高校は、別にそこまでレベルが高いわけではない。
 地元の子達が行く、普通の学校だった。
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