7話 一人の空間

文字数 817文字

 寮生活も半年以上()ったころ。いろんなものが限界に達してきた。
 まず大きいのは、ずっと集団生活で気が休まる場所が、ないということだった。
 部屋は一人部屋なので、安心できる……わけではない。
 壁は薄いので、廊下の音も隣の音も筒抜け。隣はトイレだったので、トイレの音も聞こえる。

 学校も寮も友達と一緒と言うのも、私には合わなかった。
 友達が悪いわけではないが、『ずっと誰かと一緒』というのは、かなりきつい。
 行きも帰りも一人でいたいという思いが、強くなった。

 ある日、電車を降りるとカバンの中の定期が見つからなかった。
 乗る時にはあったのだから、忘れてきたわけではない。
 前をすたすたと歩く友達に一言「待って」と言おうとしたが、その気力がなかった。

 私は結局、『まぁ。いいか』と思った。
 友達とこれ以上、一緒にいる事に耐えられないのだから、ここではぐれても問題はない。
 学校への道も分かっているし、呼び止める意味がなかった。

 私が定期を見つけた頃には、人波は収まって、ゆったりとした時間が流れていた。
 私はその中を歩いて、学校へ行った。
 学校へ行っても、友達の傍に座る事はやめた。
 友達は何も言わなかった。

 しばらくは、周囲から「どうしたの?」と言われたが、「特に何もない」と答えた。
 友達が気にしているという事も人づてに聞いた、「うん。でも、何でもないから」と答えた。
 嫌いになったわけではないが、ずっと傍に居るのはつらいというのを、どう伝えたらいいのかが分からなかった。
 正直、その友達が何を思っていたのかは分からない。
 行き帰りも一緒だけれども、何も話さないという事が続いた。


 友達とずっと一緒の苦痛からは、逃れる事が出来た。
 けれども、寮の雑音はどうしようもなかった。
 外に出ればいいのかもしれないが、徐々に外に出ることさえも億劫(おっくう)になって行った。

 私は学校と寮を往復して、寮にいる時はヘッドフォンをして音楽を聞くようになっていた。
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