21話 受験

文字数 965文字

 私は推薦受験を受けた。

 受験は私だけではなく、はーちゃんもだったが……はーちゃんは高校のレベルを下げて受験することに決めた。
 それまで兄弟で比べられてウンザリしたせいだと、後から聞いた。
 ただ、はーちゃんの中学生活は優等生とは程遠く、どちらかと言えば先生の印象の良くない不良系だった。
 親が学校に呼び出されたのは、小学と中学で1回ずつ。
 大したことではないとはいえ、親の呼び出しがあったのは兄弟の中ではーちゃんだけだった。
 成績だけなら兄弟間で差はないけれども、素行だけを見るならはーちゃんは一番悪かった。
 もっとも、はーちゃんから見たら『皆、まじめすぎ』なのかもしれない。

 そんなわけもあってか、家族は私の受験を中心的に応援してくれた。
 はーちゃんは高校のレベルを下げた事で、合格はほぼ確実だという事もあったかもしれない。
 私はと言えば、県外のよく分からない専門学校を選んだのだから、親は不安しかなかったと思う。

 ともかく、推薦受験の日は家族で県外まで送ってくれることになった。
 行きは前日から車を走らせ、帰りは受験日の夜遅くに家に辿(たど)り着いて、皆、泥のように眠った。
 次の日は連休明けだった。疲れていたせいか、母が寝坊して、家族みんなの目も重かった。
 朝はバタバタとして、過ぎて行った。家族の誰も新聞もテレビも見ていなかった。


 学校に着くと、いつもと明らかに違ったものが見えた。
 校門の前にカメラを構えた人やテレビのリポーターのような人がいる。
 学校に入って行く人に話を聞こうとしているのが分かった。
 どこかの部活が優勝か何かでもしたのかな?と思ったが、それでも、今までこんな事はなかった。
 何より、そんな事なら正式な取材を申し込めばいいだけで、こんな校門の前で張るような事はない。

 校門の前で張るような出来事で思いつくのは、『悪い事が起きた』時だけという結論に達した。
 けれども、その『悪い事』が何なのか分からない。
 少なくとも、受験出発前の新聞やテレビには何もなかった。
 という事は、今日か、もしくは受験日の昨日の新聞に何かあったわけだ。
 このくらいまでは予測できても、それ以上はさっぱり分からない。
 放課後ではないので、相談室に行って聞くことも出来ない。
 とりあえず、私はこの問題を一旦(いったん)脇に置こうと思って、教室に入った。
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