第57話 <16ガッオ
文字数 2,301文字
猫実ヌコが気付くと路面に仰向けに倒れていて、見たことのない女がしゃがみこんで自分の顔を覗き込んでいた。
髪にピンクのメッシュが入ったその女は、猫実ヌコが目を開けたのに気づくと、
「くるみさん、起きたみたいです」
と言った。
くるみ?
「おい、ヌコ。お前さ、戦ってるとき何で手をにぎにぎしてたんだ?」
聞き覚えのある声だ。
そうだ自分は手をにぎにぎした。
今までに経験したことのないスピードとパワーのピンク髪をした戦闘吸血鬼に恐怖して、出したこともないラダーをひり出そうとして、
「にぎにぎした」
でも出せなかった。
というのも係累母の松月院えのきの特殊技の壁系については、まだ伝授されていなかったのだった。
「教えてもらってないから」
すると、ピンクメッシュの女が、
「学生か!? ガッコじゃねーのよ笑」
と言ったのだった。
「立てるか?」
メッシュ髪の女の後ろに先ほどのピンク髪の戦闘吸血鬼が現れて言った。
一瞬逃げ場を探したが、この期に及んでな感じはわかったので、言われた通り自分の状態を確認した。
少し手足を動かしてみたが損傷はないようだった。
「はい」
と応えると、
「手を貸してやれ」
と言われてメッシュ髪の女が猫実ヌコの手を取って立たせてくれた。
肩を抱かれて側のベンチに座らされて周囲を見回して、ようやくそこがマツノ湯の駐車場だと気づいた。
シン・ナカヤマ競馬場からマツノ湯に帰って来ると道路に面した駐車場に目障りな輩がいた。
せっかく馬の湯舟でいつものイライラが解消していたのに、ちゃらいピンク髪が目に入ってイライラがいや増しになって全力で襲いかかった。
その時の猫実ヌコにマツノ湯の末路がどうなろうと眼中になかった。それくらい性急な襲撃だった。
猫実ヌコにしてみれば、一撃で殲滅できるはずった。
たとえ相手が戦闘吸血鬼だろうと、ここらに敵などいないのだ。
自分の力は、ネオキャピタルでは松月院えのきに次ぐという自負があった。
しかし、最大の力でぶつかったはずのなのに喉に激痛が走って戦意喪失。
デコ木刀をキラキラさせて攻撃を畳みかけて来るピンク髪に恐怖して、知りもしないラダーを出そうとして一巻の終わりだった。
「あんたがネーネー?」
「狂暴凶悪ネコにネーネー呼ばわりされる覚えはないが、お前がミャーならそれでいい」
と言ってピンク髪のバカ強い戦闘吸血鬼、京藤くるみは微笑んだのだった。
その時猫実ヌコは、宿狼ヌコとなってから長い間、ずっと探し求めていた「家族」にようやく巡り合会えたのだと思い、涙が止まらなかった。
「ちげーって。そうじゃねーのよ」
確かガッコじゃないって言われたはずなのに、猫実ヌコは如月ののか姉さんからラダーを教わっていた。
「こうやって、デコ木刀を後ろ手に持ってだな」
くるみから渡された木刀にはスワロフスキがちりばめられていて、お昼の太陽の日を受けて周囲に七色の光をまき散らしている。
後ろ手に持って、
「切り裂く!」
何を? 後ろは空間しかないのだけれど。
「それをだ!」
如月ののかが自分のデコ木刀を後ろ手にして横に引くと、その空間が切り裂かれて黒い一筋が入った。
「で、ここから何を出すかは、お前次第」
「ののか姉さんは何を出せるの?」
「思案中」
だそうだ。
マツノ湯系のラダーは勿論、猫実サキママからの継承で2系統あるという。
一つはくるみ系。
空間を切り裂いてそこから攻撃体を出す。
もう一つはまひる系。
そっちはくるみもよく分かっていないので説明できないそうだ。
今猫実ヌコはくるみ系を磨くことになって、ののか姉さんに教えてもらっているのだった。
松月院えのきが係累母のはずの猫実ヌコが、何故マツノ湯系ラダーを学ぶのかと言えば、それはくるみから説明があった。
「お前、ミャーの時一旦死んだの覚えているか?」
猫実サキが松月院えのきの壁系ラダーに激突した時だ。
「なんとなく」
人から聞かされた話だけれど。
「その時、ママがお前を助ける代わりに神の火柱を受け入れることになった」
それも後から聞いた。
「お前はずっとママに守られてたの」
つまり、松月院えのきの体内に吸収されていた間にもママの加護のもとにあったのだという。
「だから、えのきの体内を潜り抜けてママの力で戦闘吸血鬼になったの」
つまり本当の係累母はママだったのだ。
宿狼で半世紀を彷徨い、苦しみぬいて最後には天に見放されたと思っていたけれど、ちゃんと神の火柱は猫実ヌコのことを見捨てはしなかったのだ。
想いは必ず遂げられる。
猫実ヌコは、くるみの手をとり頭にのせて、
「ニャー」
と言った。
「いや。ネコに返らなくていいから。ウチと一緒に松月院えのきを倒すの手伝ってくれ」
「松月院えのきを?」
「お前がここら荒らしまわってたのは、あいつの仕業だからね」
そういうと、くるみはヌコの喉をナデナデしたのだった。
ゴロゴロゴロ。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
肩透かしでした。
くるみとヌコの激闘はくるみ圧勝で終わったみたいです。
そして、ヌコの係累母は猫実サキだったということが分かりました。
それでは松月院えのきの壁系ラダーは身に付かないはずです。
これから猫実ヌコはどんなラダーを身に着けて行くのでしょうか? 楽しみです。
ちなみに、くるみは首なしスケ番オプションを呼び出す「グラディウス」の他に、とんでもないものを召還する最強ラダーを持っています。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル
髪にピンクのメッシュが入ったその女は、猫実ヌコが目を開けたのに気づくと、
「くるみさん、起きたみたいです」
と言った。
くるみ?
「おい、ヌコ。お前さ、戦ってるとき何で手をにぎにぎしてたんだ?」
聞き覚えのある声だ。
そうだ自分は手をにぎにぎした。
今までに経験したことのないスピードとパワーのピンク髪をした戦闘吸血鬼に恐怖して、出したこともないラダーをひり出そうとして、
「にぎにぎした」
でも出せなかった。
というのも係累母の松月院えのきの特殊技の壁系については、まだ伝授されていなかったのだった。
「教えてもらってないから」
すると、ピンクメッシュの女が、
「学生か!? ガッコじゃねーのよ笑」
と言ったのだった。
「立てるか?」
メッシュ髪の女の後ろに先ほどのピンク髪の戦闘吸血鬼が現れて言った。
一瞬逃げ場を探したが、この期に及んでな感じはわかったので、言われた通り自分の状態を確認した。
少し手足を動かしてみたが損傷はないようだった。
「はい」
と応えると、
「手を貸してやれ」
と言われてメッシュ髪の女が猫実ヌコの手を取って立たせてくれた。
肩を抱かれて側のベンチに座らされて周囲を見回して、ようやくそこがマツノ湯の駐車場だと気づいた。
シン・ナカヤマ競馬場からマツノ湯に帰って来ると道路に面した駐車場に目障りな輩がいた。
せっかく馬の湯舟でいつものイライラが解消していたのに、ちゃらいピンク髪が目に入ってイライラがいや増しになって全力で襲いかかった。
その時の猫実ヌコにマツノ湯の末路がどうなろうと眼中になかった。それくらい性急な襲撃だった。
猫実ヌコにしてみれば、一撃で殲滅できるはずった。
たとえ相手が戦闘吸血鬼だろうと、ここらに敵などいないのだ。
自分の力は、ネオキャピタルでは松月院えのきに次ぐという自負があった。
しかし、最大の力でぶつかったはずのなのに喉に激痛が走って戦意喪失。
デコ木刀をキラキラさせて攻撃を畳みかけて来るピンク髪に恐怖して、知りもしないラダーを出そうとして一巻の終わりだった。
「あんたがネーネー?」
「狂暴凶悪ネコにネーネー呼ばわりされる覚えはないが、お前がミャーならそれでいい」
と言ってピンク髪のバカ強い戦闘吸血鬼、京藤くるみは微笑んだのだった。
その時猫実ヌコは、宿狼ヌコとなってから長い間、ずっと探し求めていた「家族」にようやく巡り合会えたのだと思い、涙が止まらなかった。
「ちげーって。そうじゃねーのよ」
確かガッコじゃないって言われたはずなのに、猫実ヌコは如月ののか姉さんからラダーを教わっていた。
「こうやって、デコ木刀を後ろ手に持ってだな」
くるみから渡された木刀にはスワロフスキがちりばめられていて、お昼の太陽の日を受けて周囲に七色の光をまき散らしている。
後ろ手に持って、
「切り裂く!」
何を? 後ろは空間しかないのだけれど。
「それをだ!」
如月ののかが自分のデコ木刀を後ろ手にして横に引くと、その空間が切り裂かれて黒い一筋が入った。
「で、ここから何を出すかは、お前次第」
「ののか姉さんは何を出せるの?」
「思案中」
だそうだ。
マツノ湯系のラダーは勿論、猫実サキママからの継承で2系統あるという。
一つはくるみ系。
空間を切り裂いてそこから攻撃体を出す。
もう一つはまひる系。
そっちはくるみもよく分かっていないので説明できないそうだ。
今猫実ヌコはくるみ系を磨くことになって、ののか姉さんに教えてもらっているのだった。
松月院えのきが係累母のはずの猫実ヌコが、何故マツノ湯系ラダーを学ぶのかと言えば、それはくるみから説明があった。
「お前、ミャーの時一旦死んだの覚えているか?」
猫実サキが松月院えのきの壁系ラダーに激突した時だ。
「なんとなく」
人から聞かされた話だけれど。
「その時、ママがお前を助ける代わりに神の火柱を受け入れることになった」
それも後から聞いた。
「お前はずっとママに守られてたの」
つまり、松月院えのきの体内に吸収されていた間にもママの加護のもとにあったのだという。
「だから、えのきの体内を潜り抜けてママの力で戦闘吸血鬼になったの」
つまり本当の係累母はママだったのだ。
宿狼で半世紀を彷徨い、苦しみぬいて最後には天に見放されたと思っていたけれど、ちゃんと神の火柱は猫実ヌコのことを見捨てはしなかったのだ。
想いは必ず遂げられる。
猫実ヌコは、くるみの手をとり頭にのせて、
「ニャー」
と言った。
「いや。ネコに返らなくていいから。ウチと一緒に松月院えのきを倒すの手伝ってくれ」
「松月院えのきを?」
「お前がここら荒らしまわってたのは、あいつの仕業だからね」
そういうと、くるみはヌコの喉をナデナデしたのだった。
ゴロゴロゴロ。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
肩透かしでした。
くるみとヌコの激闘はくるみ圧勝で終わったみたいです。
そして、ヌコの係累母は猫実サキだったということが分かりました。
それでは松月院えのきの壁系ラダーは身に付かないはずです。
これから猫実ヌコはどんなラダーを身に着けて行くのでしょうか? 楽しみです。
ちなみに、くるみは首なしスケ番オプションを呼び出す「グラディウス」の他に、とんでもないものを召還する最強ラダーを持っています。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル