第53話 <12ガッオ
文字数 2,578文字
「それはウチのママの話だろ」
くるみは、ネコの話に出てくる猫実サキが自分のママだと言ったのだった。
そういえば、この場に同伴している如月ののかを成敗した時、ママが有名なので名前を変えてると言っていた。
なるほどネオ・カントーを制覇したマツノ湯一派の猫実サキほどの有名人が母親だとしたら、変名する気持ちも分からないではない。
ということは京藤くるみの本名は猫実くるみ。
さらに双子の姉の夜野まひるは猫実まひる。
猫実サキが命を助けたミャーが転生して猫実ヌコ。
さらに如月ののかは今や血統的にはくるみの娘だから猫実ののか。
もう猫実姓のドミノ倒しだ。
ネコは、くるみが言うことがあまり分かっていないようだった。
なんなら、くるみがそこにいたことまで忘れてしまっていた。
「だから、てめーは誰だ? 死神なら終わるまで待ってちゃくれねーか?」
と言って、ネコはくるみを無視して続きを話し始めたのだった。
神の柱が降って来て、平和が訪れていたネオ・カントーは再び戦乱の地となった。
八房フセ以外の5人の天に選ばれた者たちが再び覇を争い出したからだ。
その中の一人、猫実サキは神の柱を受け入れてから大きく変わった。
まず、炎を背負うようになった。不動明王のように。
炎熱で人が近寄れないほどだった。
次いで、ぶん回すデコ木刀から火炎を吹くようになった。
ひと薙ぎで、族の一団を殲滅できるほどの威力があった。
そして一番変わったのは、敵に対する態度だった。
それまでは倒した族に最大限の慈悲の心を見せていた。
めっちゃ強い、しかしとてつもなく優しい。
そんなところにマツノ湯一派は惹きつけられていたのだった。
それがである。猫実サキは神の柱を受け入れた後、やたら残忍になった。
あろうことか、倒した敵を喰らうようになったのだ。
死屍累々、猫実サキのデコ木刃に切り伏せられた族の山から、一番強そうなものを選り出し頭から丸呑みする。
それこそ、アニメだったら影絵で表現されるような激グロシーンに、それまで猫実サキのことをカリスマと崇めて来たマツノ湯一派もドン引きした。
そして、あるものは恐怖から、あるものは嫌悪から、あるものはあきらめから、猫実サキの元を去って行ったのだった。
結果、マツノ湯一派は数か月で雲散霧消してしまう。
残ったのは、それでも猫実サキのことを尊敬してやまない弁天ナナミと、先代の猫実文男からの参謀富岡ツル、それと命を助けて貰ったミャーだけとなっていた。
「ナナミ、風呂は沸いているか?」
「はい、サキさん。十分に」
戦いを終えてマツノ湯に帰った猫実サキは一番に風呂を所望した。
これまでもそうだったが、違うことが一つあった。
それはお湯の温度だ。
100度。
一度も下がってはいけなかった。
どんな時も常に100度に保っておかねばならなかった。
猫実サキはライダースーツを脱いで裸になると、ミャーを番台の富岡ツルに預け、洗い場に入って行く。(え?炎熱で人も近寄れないんじゃ、ミャーは平気なの?ってのは無し)
湯煙がもうもうと立ち上がる洗い場に消えたあと、3時間ほどそこで過ごし、脱衣場に出て来た時には、つるつるの肌になっているのだった。
中で何をしているか、弁天ナナミと富岡ツルには分からなかった。
100度のお湯を絶やさぬように厳命されていた。
「ただの長風呂だろ」
富岡ツルは興味を示さなかったが、弁天ナナミは細かいことが気になる性格なので、探求心が強く調べてみることにした。
猫実サキが単騎戦闘に出かけた時(常時だったが)、弁天ナナミは風呂場探索を決行した。
「よしときな、ろくなもんないよ、きっと」
と富岡ツルが制したが、弁天ナナミは意に止めず洗い場の扉を開く。
扉を開くと中から湯煙がもうもうと出て来てその勢いに気圧されるも、弁天ナナミはそんなものでは諦めない。
湯煙が充満した洗い場を身を低くしてガタイのでかい弁天ナナミが進んでゆく。
やっとたどり着いた湯舟の縁に手を掛けて中を覗くと、
「あち!」
まずお約束で顔をのけぞらせてから、もう一度。
ぐつぐつとたぎる湯は、青みがあって透明で少し潮くさかった。
その底に白い何かが沈んでいる。
熱気に用心しながら顔を近づけて覗くと、それは人だった。
しかも、2体。
いや、100度の湯につかって無事でいられる人間はいない。
「人外!」
と驚いた。
実際、弁天ナナミ自身も銭湯族で人外なのだが。
銭湯族(温泉族、族)が人外である理由は、その生殖にあった。
まず酸性泉が必要だった。
適度な温度の源泉かけ流し温泉がベスト。なければ銭湯でよい。
そこに10月10日漬かる。すると子を授かることが出来た。
雌雄同体であるがゆえ、それだけで同類を増やすことが出来るのだった。
「赤ちゃん?」
弁天ナナミは歓喜した。
初めておばさんになった気がして喜んだ。
早速富岡ツルを呼んで中を見せた。
「ちょっと違うけど、そうかも」
富岡ツルも歓喜した。
二人はそれからそわそわ、湯舟の子が生まれ出るのを待った。
猫実サキが戦闘から帰り3時間湯舟ですごして出て来た時に胸になにか抱かれていないか。
そればかりを期待した。
そしてある日、念願は叶った。
裸の猫実サキの胸に、二人の赤ちゃんが抱かれていたのだった。
「こっちはまひる。こっちはくるみだ。お世話を頼む」
といって渡されたのは、
一人はマリンブルーの髪に、深紺の瞳をして、
もう一人はパッションピンクの髪に、パールピンクの瞳をした女の子。
夜野まひると京藤くるみの誕生だった。
「いい加減、ヌコの話をしろよ。今度はウチらの話になってるぞ」
とくるみが言ったが、ネコは話し終わったことに満足して毛づくろいを始めたのだった。
---------------------------------------------------------------------------
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回のお話はくるみたちの誕生秘話でした。
戦闘吸血鬼の二人は、銭湯族と吸血鬼の生殖方法をミックスした形で生まれたようです。
とにかく、彼らの生命活動にとって海水が重要なファクターであるのは確かなようです。
さらに増殖してゆく猫実姓。この渋滞はどこかで解消するのでしょうか。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル
くるみは、ネコの話に出てくる猫実サキが自分のママだと言ったのだった。
そういえば、この場に同伴している如月ののかを成敗した時、ママが有名なので名前を変えてると言っていた。
なるほどネオ・カントーを制覇したマツノ湯一派の猫実サキほどの有名人が母親だとしたら、変名する気持ちも分からないではない。
ということは京藤くるみの本名は猫実くるみ。
さらに双子の姉の夜野まひるは猫実まひる。
猫実サキが命を助けたミャーが転生して猫実ヌコ。
さらに如月ののかは今や血統的にはくるみの娘だから猫実ののか。
もう猫実姓のドミノ倒しだ。
ネコは、くるみが言うことがあまり分かっていないようだった。
なんなら、くるみがそこにいたことまで忘れてしまっていた。
「だから、てめーは誰だ? 死神なら終わるまで待ってちゃくれねーか?」
と言って、ネコはくるみを無視して続きを話し始めたのだった。
神の柱が降って来て、平和が訪れていたネオ・カントーは再び戦乱の地となった。
八房フセ以外の5人の天に選ばれた者たちが再び覇を争い出したからだ。
その中の一人、猫実サキは神の柱を受け入れてから大きく変わった。
まず、炎を背負うようになった。不動明王のように。
炎熱で人が近寄れないほどだった。
次いで、ぶん回すデコ木刀から火炎を吹くようになった。
ひと薙ぎで、族の一団を殲滅できるほどの威力があった。
そして一番変わったのは、敵に対する態度だった。
それまでは倒した族に最大限の慈悲の心を見せていた。
めっちゃ強い、しかしとてつもなく優しい。
そんなところにマツノ湯一派は惹きつけられていたのだった。
それがである。猫実サキは神の柱を受け入れた後、やたら残忍になった。
あろうことか、倒した敵を喰らうようになったのだ。
死屍累々、猫実サキのデコ木刃に切り伏せられた族の山から、一番強そうなものを選り出し頭から丸呑みする。
それこそ、アニメだったら影絵で表現されるような激グロシーンに、それまで猫実サキのことをカリスマと崇めて来たマツノ湯一派もドン引きした。
そして、あるものは恐怖から、あるものは嫌悪から、あるものはあきらめから、猫実サキの元を去って行ったのだった。
結果、マツノ湯一派は数か月で雲散霧消してしまう。
残ったのは、それでも猫実サキのことを尊敬してやまない弁天ナナミと、先代の猫実文男からの参謀富岡ツル、それと命を助けて貰ったミャーだけとなっていた。
「ナナミ、風呂は沸いているか?」
「はい、サキさん。十分に」
戦いを終えてマツノ湯に帰った猫実サキは一番に風呂を所望した。
これまでもそうだったが、違うことが一つあった。
それはお湯の温度だ。
100度。
一度も下がってはいけなかった。
どんな時も常に100度に保っておかねばならなかった。
猫実サキはライダースーツを脱いで裸になると、ミャーを番台の富岡ツルに預け、洗い場に入って行く。(え?炎熱で人も近寄れないんじゃ、ミャーは平気なの?ってのは無し)
湯煙がもうもうと立ち上がる洗い場に消えたあと、3時間ほどそこで過ごし、脱衣場に出て来た時には、つるつるの肌になっているのだった。
中で何をしているか、弁天ナナミと富岡ツルには分からなかった。
100度のお湯を絶やさぬように厳命されていた。
「ただの長風呂だろ」
富岡ツルは興味を示さなかったが、弁天ナナミは細かいことが気になる性格なので、探求心が強く調べてみることにした。
猫実サキが単騎戦闘に出かけた時(常時だったが)、弁天ナナミは風呂場探索を決行した。
「よしときな、ろくなもんないよ、きっと」
と富岡ツルが制したが、弁天ナナミは意に止めず洗い場の扉を開く。
扉を開くと中から湯煙がもうもうと出て来てその勢いに気圧されるも、弁天ナナミはそんなものでは諦めない。
湯煙が充満した洗い場を身を低くしてガタイのでかい弁天ナナミが進んでゆく。
やっとたどり着いた湯舟の縁に手を掛けて中を覗くと、
「あち!」
まずお約束で顔をのけぞらせてから、もう一度。
ぐつぐつとたぎる湯は、青みがあって透明で少し潮くさかった。
その底に白い何かが沈んでいる。
熱気に用心しながら顔を近づけて覗くと、それは人だった。
しかも、2体。
いや、100度の湯につかって無事でいられる人間はいない。
「人外!」
と驚いた。
実際、弁天ナナミ自身も銭湯族で人外なのだが。
銭湯族(温泉族、族)が人外である理由は、その生殖にあった。
まず酸性泉が必要だった。
適度な温度の源泉かけ流し温泉がベスト。なければ銭湯でよい。
そこに10月10日漬かる。すると子を授かることが出来た。
雌雄同体であるがゆえ、それだけで同類を増やすことが出来るのだった。
「赤ちゃん?」
弁天ナナミは歓喜した。
初めておばさんになった気がして喜んだ。
早速富岡ツルを呼んで中を見せた。
「ちょっと違うけど、そうかも」
富岡ツルも歓喜した。
二人はそれからそわそわ、湯舟の子が生まれ出るのを待った。
猫実サキが戦闘から帰り3時間湯舟ですごして出て来た時に胸になにか抱かれていないか。
そればかりを期待した。
そしてある日、念願は叶った。
裸の猫実サキの胸に、二人の赤ちゃんが抱かれていたのだった。
「こっちはまひる。こっちはくるみだ。お世話を頼む」
といって渡されたのは、
一人はマリンブルーの髪に、深紺の瞳をして、
もう一人はパッションピンクの髪に、パールピンクの瞳をした女の子。
夜野まひると京藤くるみの誕生だった。
「いい加減、ヌコの話をしろよ。今度はウチらの話になってるぞ」
とくるみが言ったが、ネコは話し終わったことに満足して毛づくろいを始めたのだった。
---------------------------------------------------------------------------
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回のお話はくるみたちの誕生秘話でした。
戦闘吸血鬼の二人は、銭湯族と吸血鬼の生殖方法をミックスした形で生まれたようです。
とにかく、彼らの生命活動にとって海水が重要なファクターであるのは確かなようです。
さらに増殖してゆく猫実姓。この渋滞はどこかで解消するのでしょうか。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル