第54話 <13ガッオ
文字数 2,604文字
「で、何の話が聞きてーって?」
そろそろオオカミもネコの態度が気に障りだしたが、肝心の猫実ヌコの情報が採れていないので、
「ヌコの話をそろそろ頼む」
と頭を下げたのだった。
「まあ、オオカミの親方に頼むって言われちゃしかたねーがよ。その前におらー腹減った。何か、こう、気の利いたもんは出しちゃくれねーかい」
それを聞いたオオカミの右腕、クイーン・ヌーは肩をふるわせながら立ち上がった。
オオカミはそれを右腕を出して制すると、果物かごを載っている小テーブルごと引き寄せる。
そして沢山盛られた果物のなかから、ほどよい大きさ、ちょうどいい堅さ、きれいな色のリンゴを選りすぐって、
それをネコに向かって、
ぶん投げた。
見事、ネコの顔面に命中。
ネコは後方までぶっ飛んで昏倒した。
鼻血を出して、フガフガと何か言っているが、だれも聞き取れる者はいなかった。
「そいつを、家までお送りして看病してさしあげろ。マレーバク」
「あたしが?」
名指しされたマレーバクは7房目のベビーバナナで口の中をいっぱいにしながら答えた。
しかし、オオカミの命令には逆らえない。
しぶしぶ、くるみたちの前からネコを連れ出したのだった。
「ふがふがー、ふがふがふっがー」
(やっぱりオオカミの親方は、おれのことが好きじゃねーんだ)
「しかたないだろ。あっちは犬派、あんたは猫派なんだから」
二人の声がジャンクヤードに響きながら遠ざかっていった。
「くるみ、すまないな。こんなていたらくで」
「いいよ。オオカミ。猫実ヌコがミャーだったってことが知れただけで十分だ」
くるみはオオカミのもとを辞して、ネオワンガン道を如月ののかとともに歩いている。
もう夜空には月が出て、ネオワンガンの海からは冷たい風が吹き始めていた。
くるみは旧ウラヤス市街のマツノ湯あたりを遠望しながら、ミャーがいなくなった時のことを思い出そうとしていた。
「いや、全然知らねーし」
くるみはママの猫実サキがいなくなった時のことすら、ずっと後になって乳母役の弁天サキから聞いたくらいだった。
その飼いネコの行方なんて知るはずもない。
「じいさんがボケてから、ミャーがどうたらって言ってたような」
くるみはため息をつくと、
「ののか、実家帰るぞ」
と言ったのだった。
ののかはそれを聞いて、とんでもないことが起こると思った。
今、くるみが実家のマツノ湯に帰るということは、当然、そこに巣食っている猫実ヌコと鉢合わせするということだからだ。
「兵隊集めましょうか?」
オオカミの元で聞いた銭湯族の話で、ののかもすっかり族の気分になっていた。
とはいうものの、今のくるみ一派の兵隊はガオくんこと海斗と素魂喰いの高梨ダイゴのみ。
どちらも頼りにならなさそうだった。
「お前ひとりいれば十分」
めちゃくそ強いくるみにそう言われて、ちょっと気分のいい如月ののかだった。
そろそろ、あたしも猫実ののかに改名しようかな(ハート)。
ネオワンガン最強の京藤くるみ。
対するは凶暴凶悪でご近所から恐れられる戦闘吸血鬼、猫実ヌコ。
飼い主の娘VSママの飼いネコ。
まさに因縁の対決。
それをまじかで観られるなんて。
「血沸き肉躍るとはこういうことを言うんだよ」
如月ののかは、ふれあいすぎ公園でクッソつまんない夢を語った海斗に言ってやりたかった。
「ビグショイ!」
くしゃみをしたのは、なぜか高梨ダイゴだった。
海斗と二人でシンデルカモ城のお堀で一緒に釣り糸を垂れているところだった。
高梨ダイゴはウバガメ由来の素魂喰いで、海斗とは第二ワンガン計画道路の戦いの時、素魂を喰いつ喰われつした関係だ。
「風邪でもひいた?」
「ううん。多分、姉さんがボクのこと恨んでる」
ダイゴの姉、高梨うた。こちらも素魂喰いだが、ダイゴを利用するため姉のふりをしていたが、太刀魚由来でまったくつながりはなかった。
それがダイゴにバレて、やはり第二ワンガン計画道路の戦いで、ダイゴに太刀魚状のしっぽと人体状の胴体を分断され、シンマイハマ橋の下の海底に沈んだのだった。
「出てくるの?」
「うん」
「じゃあ、またやっつけてやればいいじゃない」
ダイゴはそれを聞いてうかない顔をしたのだった。
「そう簡単にはいかないよ。きっと、こんどの姉さんは僕より強いかもだから」
素魂喰いは、一度死ぬほどのダメージを受けると、さらに強力な生物を由来とし再生復活をする。
「ボクだって、もともとはミドリガメ由来だったのが、姉さんにやられまくってるうちにウバガメになったのだもの」
高梨うたのダイゴいびりが死ぬほどのものだったということを知って、海斗の震えが止まらない。
ミドリガメからウバガメになるまで何回死ぬほどの目を見なければならなかったのか?
海斗には想像もつかなかった。
「じゃあ、ダイゴくんのお姉さんが次現れる時は?」
「ウツボ由来とか」
磯のギャングと言われる、あの強力アゴの蛇みたいなやつ。
食らいついたら死ぬまではなさない。
高梨うたなら十分ありそうな属性だった。
「だからあの時、姉さんの素魂を喰っておけばと思うよ」
「何で喰わなかったの? やっぱり姉さんだから?」
と聞いたけれど、さすがにそれはなさそうだと海斗も思う。
「いや、君がお腹にいたから。素魂で」
さすがの大食いのダイゴも、二人分の素魂までは面倒見切れないということらしかった。
「もし喰えてたなら?」
「しっかり飲み込んでたよ」
素魂は呑み込めば取り込んだ主の栄養になってそれまでだ。
しかし素魂喰いも吸血鬼同様に、吸収した素魂を吐き出して海に流せば係累に加えることが出来た。
「まっぴらだね。姉さんがカメ類になってボクの娘なんて」
側で常時ギャンギャン言ってくるカメ。
それは海斗も勘弁したいと思ったのだった。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
いい加減いじやけてしまったオオカミはネコを根城からたたき出してしまいました。
結局、猫実ヌコのネコ時代の話は聞かれずじまい。
しかたなく、自分で会いに行くくるみです。
高梨ダイゴ。それと高梨うた。
久しぶりの登場です。
素魂喰いの復活再生が、某「竜玉」漫画に似てるって言いふらしたらだめです。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル
そろそろオオカミもネコの態度が気に障りだしたが、肝心の猫実ヌコの情報が採れていないので、
「ヌコの話をそろそろ頼む」
と頭を下げたのだった。
「まあ、オオカミの親方に頼むって言われちゃしかたねーがよ。その前におらー腹減った。何か、こう、気の利いたもんは出しちゃくれねーかい」
それを聞いたオオカミの右腕、クイーン・ヌーは肩をふるわせながら立ち上がった。
オオカミはそれを右腕を出して制すると、果物かごを載っている小テーブルごと引き寄せる。
そして沢山盛られた果物のなかから、ほどよい大きさ、ちょうどいい堅さ、きれいな色のリンゴを選りすぐって、
それをネコに向かって、
ぶん投げた。
見事、ネコの顔面に命中。
ネコは後方までぶっ飛んで昏倒した。
鼻血を出して、フガフガと何か言っているが、だれも聞き取れる者はいなかった。
「そいつを、家までお送りして看病してさしあげろ。マレーバク」
「あたしが?」
名指しされたマレーバクは7房目のベビーバナナで口の中をいっぱいにしながら答えた。
しかし、オオカミの命令には逆らえない。
しぶしぶ、くるみたちの前からネコを連れ出したのだった。
「ふがふがー、ふがふがふっがー」
(やっぱりオオカミの親方は、おれのことが好きじゃねーんだ)
「しかたないだろ。あっちは犬派、あんたは猫派なんだから」
二人の声がジャンクヤードに響きながら遠ざかっていった。
「くるみ、すまないな。こんなていたらくで」
「いいよ。オオカミ。猫実ヌコがミャーだったってことが知れただけで十分だ」
くるみはオオカミのもとを辞して、ネオワンガン道を如月ののかとともに歩いている。
もう夜空には月が出て、ネオワンガンの海からは冷たい風が吹き始めていた。
くるみは旧ウラヤス市街のマツノ湯あたりを遠望しながら、ミャーがいなくなった時のことを思い出そうとしていた。
「いや、全然知らねーし」
くるみはママの猫実サキがいなくなった時のことすら、ずっと後になって乳母役の弁天サキから聞いたくらいだった。
その飼いネコの行方なんて知るはずもない。
「じいさんがボケてから、ミャーがどうたらって言ってたような」
くるみはため息をつくと、
「ののか、実家帰るぞ」
と言ったのだった。
ののかはそれを聞いて、とんでもないことが起こると思った。
今、くるみが実家のマツノ湯に帰るということは、当然、そこに巣食っている猫実ヌコと鉢合わせするということだからだ。
「兵隊集めましょうか?」
オオカミの元で聞いた銭湯族の話で、ののかもすっかり族の気分になっていた。
とはいうものの、今のくるみ一派の兵隊はガオくんこと海斗と素魂喰いの高梨ダイゴのみ。
どちらも頼りにならなさそうだった。
「お前ひとりいれば十分」
めちゃくそ強いくるみにそう言われて、ちょっと気分のいい如月ののかだった。
そろそろ、あたしも猫実ののかに改名しようかな(ハート)。
ネオワンガン最強の京藤くるみ。
対するは凶暴凶悪でご近所から恐れられる戦闘吸血鬼、猫実ヌコ。
飼い主の娘VSママの飼いネコ。
まさに因縁の対決。
それをまじかで観られるなんて。
「血沸き肉躍るとはこういうことを言うんだよ」
如月ののかは、ふれあいすぎ公園でクッソつまんない夢を語った海斗に言ってやりたかった。
「ビグショイ!」
くしゃみをしたのは、なぜか高梨ダイゴだった。
海斗と二人でシンデルカモ城のお堀で一緒に釣り糸を垂れているところだった。
高梨ダイゴはウバガメ由来の素魂喰いで、海斗とは第二ワンガン計画道路の戦いの時、素魂を喰いつ喰われつした関係だ。
「風邪でもひいた?」
「ううん。多分、姉さんがボクのこと恨んでる」
ダイゴの姉、高梨うた。こちらも素魂喰いだが、ダイゴを利用するため姉のふりをしていたが、太刀魚由来でまったくつながりはなかった。
それがダイゴにバレて、やはり第二ワンガン計画道路の戦いで、ダイゴに太刀魚状のしっぽと人体状の胴体を分断され、シンマイハマ橋の下の海底に沈んだのだった。
「出てくるの?」
「うん」
「じゃあ、またやっつけてやればいいじゃない」
ダイゴはそれを聞いてうかない顔をしたのだった。
「そう簡単にはいかないよ。きっと、こんどの姉さんは僕より強いかもだから」
素魂喰いは、一度死ぬほどのダメージを受けると、さらに強力な生物を由来とし再生復活をする。
「ボクだって、もともとはミドリガメ由来だったのが、姉さんにやられまくってるうちにウバガメになったのだもの」
高梨うたのダイゴいびりが死ぬほどのものだったということを知って、海斗の震えが止まらない。
ミドリガメからウバガメになるまで何回死ぬほどの目を見なければならなかったのか?
海斗には想像もつかなかった。
「じゃあ、ダイゴくんのお姉さんが次現れる時は?」
「ウツボ由来とか」
磯のギャングと言われる、あの強力アゴの蛇みたいなやつ。
食らいついたら死ぬまではなさない。
高梨うたなら十分ありそうな属性だった。
「だからあの時、姉さんの素魂を喰っておけばと思うよ」
「何で喰わなかったの? やっぱり姉さんだから?」
と聞いたけれど、さすがにそれはなさそうだと海斗も思う。
「いや、君がお腹にいたから。素魂で」
さすがの大食いのダイゴも、二人分の素魂までは面倒見切れないということらしかった。
「もし喰えてたなら?」
「しっかり飲み込んでたよ」
素魂は呑み込めば取り込んだ主の栄養になってそれまでだ。
しかし素魂喰いも吸血鬼同様に、吸収した素魂を吐き出して海に流せば係累に加えることが出来た。
「まっぴらだね。姉さんがカメ類になってボクの娘なんて」
側で常時ギャンギャン言ってくるカメ。
それは海斗も勘弁したいと思ったのだった。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
いい加減いじやけてしまったオオカミはネコを根城からたたき出してしまいました。
結局、猫実ヌコのネコ時代の話は聞かれずじまい。
しかたなく、自分で会いに行くくるみです。
高梨ダイゴ。それと高梨うた。
久しぶりの登場です。
素魂喰いの復活再生が、某「竜玉」漫画に似てるって言いふらしたらだめです。
次週の公開も水曜19時です。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル