第75話 <14ガオン
文字数 4,141文字
如月ののかは退屈だった。
くるみに呼ばれたといって、やることはただの人探しだ。
血沸き肉躍るというわけにはいかなかったからだ。
「すみません。60年前の事件のジュンギとノンカ……」
ののかが、そう尋ねても訪問した家の住人はみんながきょとんとしていた。
人探しを始めてからすでに数十件、同じ反応だった。
「メカ・ヌマオってご存じないですか?」
小学男子たちをのみ込んだままの巨大ロボットについても聞いてみた。
「知らないよ」
「ありがとうございました」
ののかは瀟洒なアーチ形の門扉を出て、遠くネオ・チシロ小学校の方角に目をやった。
そこには巨大な欅を背にしたメカ・ヌマオが日の光を浴びて白金色に輝きながら聳え立っていた。
近くへ行くと見えないけれど遠くからは見える巨像は、ここニュータウンからも望めるのだった。
60年前からずっとそこにあって周辺住民を睥睨し続けていても、それが日常化してしまえば、もはや事件との関連を思う人などいなくなるということをののかは思い知った。
ののかは手ぶらでくるみに会いに行かなければならないと思いながら、集合場所に指定された北の公園へとバイクを向けた。
公園の垣根の外にバイクを止めると、中から錆びついたブランコが鳴らす耳障りな音がしていた。
数段しかない大谷石の階段を上ってブランコに目をやると、そこにいたのは海斗でもダイゴでもなく、一人の老婆だった。
尋ね回った家のほとんどが老人ばかりで、
「そういえばもう何年も、ここらで子供を見てないねー」
とも聞いていたので、公園でブランコに乗っているのが子供でなくても驚かないが、ののかが異様に感じたのは、その人が歌っている歌だった。
「ブルちんぽこー、宇宙までー。ブルちんぽこー、宇宙までー」
ブランコをぶらぶら揺らしながら、同じフレーズを節をつけて何度も繰り返している。
ののかはブランコに近づいて行って、しばらくその老婆を眺めていた。
口にしている歌は妙だったが、その人は年齢相応に清楚な雰囲気を持っていた。
老婆は見られていることに気づくと、
「あの事件のこと調べてるそうですね」
と聞いて来た。
「はい。ご存じなんですか?」
「知ってますよ。兄があの観音様の中にいます」
とメカ・ヌマオを指差して言った。
ののかにとって初の関係者発見だった。
「聞かせて貰えますか?」
老婆は耳障りな音をたてるブランコを止めて話し出す。
「兄は信心が足りなくて。観音様が修行をするようにって連れてお行きになりました。妹としては寂しかったですが、これで地獄に行かなくて済むんだから兄は幸せ者です」
事件の受け止め方は人それぞれだということは、ののかも理解しているのでそれについては何も言うことはなかった。
「お兄さんにあだ名はありませんでしたか?」
すると老婆は、
「兄は朴念仁で人づきあいが下手でしたから、あだ名なんてなかったと思いますよ」
と言った。
ののかには意味不明の「ボクネンジン」をスルーして、
「先ほどの歌は?」
と続けた。
「歌? ああ、あれですか? あれは兄のお友達が兄といるときいつも歌っていたものですよ。あたしは、そのお友達のことを『ほ』の字だったものですからよく一緒に歌ってたんです。その頃はまだ小娘でしたから意味なんかもわからずにですよ。お恥ずかしい」
「『ほ』の字?」
「惚れたの『ほ』ですよ。言わせないでください」
というと老婆は赤くなった顔を皺だらけの両手で覆ったのだった。
恥じらってはいるが、この人さっき「ちんぽこ」って大声で歌ってたよな、とののかかは思ったがそれは言わないで、
「そのお友達というのは?」
「その方も観音様に連れていかれました」
老婆は顔を挙げて、
「あそこがご実家でした」
と、公園から続く坂道を上ったところの鍼灸院の看板を指したのだった。
「でした? もう家族の方はいらっしゃらないんですか?」
「ええ。もう何年も前にシンウラヤスとかいうところに引っ越して」
いずれシンウラヤスへ調査に戻らねばならないと思いつつ、ののかはまずはここで出来ることを優先する。
「では、その方のあだ名をご存じですか?」
「あだ名ですか? 兄は『嘘つき』って言ってました。ひどいでしょう? あの方は想像力豊かで多才な方でしたの。今ならマルチナな才能というんでしょうけども。兄はそのことに嫉妬してたんです」
ののかは老婆に別れを告げるとバイクを押して坂道を上って行った。
「ののか、ごくろう」
鍼灸院の門前まで行くと、そこにくるみがいた。
海斗とダイゴの二人も一緒だ。
「どうしてここへ? くるみねえさんも何か情報が?」
「いや、たまたまだ。肩凝ったから針でも打ってもらおうかって話してたとこ」
そこでののかは今老婆に聞いて来たことを伝えた。
「ここがその『嘘つき』の元実家だとすると、ウチらも何かに呼ばれたのかもしれないな。もういないならあまり期待はできないが疲れは癒してくれるだろうから、とりあえず入ろう」
と言って、くるみは玄関のピンポンを鳴らした。
ところがインタホンから雑音はするものの、いつまで待っても返事がなかった。
「中まで行ってみよう」
くるみは手すりの付いた玄関へのスロープを上って行く。
ののかたちもそれについて行く。
くるみは玄関のドアノブを掴むと、
「開いてる」
と扉を開けた。
「いらっしゃい」
出迎えたのは鍼灸師とは思えない小柄な少年だった。
「返事がなかったから。勝手にごめんな」
くるみが言うと、なぜか少年は目線を合わせず、
「まあね。どうぞ」
と言って中に入れてくれた。
「こっちだよ。あ、ママが寝てるから静かにね」
と階段に足をかけて言う。
ののかが「待合」とある正面のアコーディオンカーテンの隙間から中を覗くと、ソファーに寝そべってイビキを掻いている女が見えた。
チェック柄の割烹着姿で長いプラ製の靴べらを持ったまま眠り込んでいた。
ガタ!
ダイゴが床に転がったビール瓶に蹴躓いた。
そこらじゅうに潰れた空瓶や酒瓶が転がしてあったのだ。
「静かに、ママが起きると怖いから」
と少年がおびえた様子で言った。
「怖い?」
「靴べらでひっぱたかれる」
と言って少年は半ズボンの太ももを指した。
そこには真っ赤なミミズ腫れの跡がいくつも付いていた。
「痛そうだな」
とくるみが言うと、
「痛いよ。冬なんか特にね」
「冬も半ズボンなの?」
ののかは寒い冬でも半袖半ズボンの少年を町で見かけたことがあった。
その子の肌は乾燥して真っ赤だった。それを靴ベラで叩かれたらよっぽど痛いだろうとののかは思った。
「手加減してくれないんだよ」
少年は階段を上りながら言ったのだった。
「ひっぱたかれるときは本当に殺されるって思うよ」
酷いことをする母親らしい。
「で、今日は何しに?」
部屋に入ると少年が聞いてきた。
くるみたちが中に入ると、そこは普通のシングルベッドが置いてあるプライベートスペースのような部屋だった。
どう見ても施術室ではなく寝室なのだ。
「針を打ってもらいにだが……」
この状況にくるみが警戒を強めて言った。
すると、少年が急に暗い顔をして、
「ごめん。あれダメにしちゃったんだ」
「今日は施術できないということ?」
ののかが尋ねると少年は、
「パヤに捕まってブルに鞄ごと簀巻きにされたんだけど、そこに原稿が入ってたんだよ」
と意味の分からないことを言いい出した。
「原稿? どういうことだ?」
「あるよ。でもだめなんだ」
とさらに話がかみ合わなくなって、少年は泣き出してしまった。
「泣くな。話を聞かせてくれ」
と言うくるみに少年は、
「ヌマオの腹の中だから」
と言った。
「メカ・ヌマオの中にその原稿があるのか? なら一緒に取りに行こう」
それを聞いた少年は、
「だめ。帰りが遅くなると朝まで家に入れて貰えない」
夏冬なく一晩中閉め出されるという。
「一緒が無理ならウチが取りに行ってやる。メカ・ヌマオへの入り方を教えろ」
すると少年は少し考えて、
「やっぱだめだよ。だって僕もヌマオの腹の中だもの」
と大事なことを思い出したように言うと、少年は忽然と姿を消したのだった。
気付くとくるみたちは寝室ではなく、玄関前に立っていた。
「ウチは何を見せられたんだ?」
くるみが言った。
「今のは、もしかしたらメカ・ヌマオに閉じ込められた少年の残留思念なのでは?」
海斗が言った。
「誰の?」
とダイゴ。
「メカ・ヌマオの中のノンカは漫画雑誌を出版していたようだった。少年が言っていた『原稿』が漫画原稿なら、あの少年がノンカの可能性がある」
このときくるみたちの中で「ノンカ」=「嘘つき」という図式が出来上がった。
ノンカが見つかったのは良かったが、ここはもう「嘘つき」の実家ではない。
この先どうするか?
くるみが思案していると、
「くるみねえさん、あの母親。あたし覚えがある」
ののかが言った。
「大災疫の前後、あたしはバーチーを放浪してたんだけど、そのころここらを支配してた性悪の吸血鬼がいたんだ」
「そいつか?」
「みたい」
ののかはくるみにその性悪吸血鬼のことを詳しく話した。
話が終わるとくるみが、
「やはりののかを呼んで良かった。これから頼むな」
とくるみが言うからには何かが起こるだろう。
ののかは俄然、血沸き肉躍る気持ちになったのだった。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ののかは公園でブランコに揺れる老婆の情報から
坂の上にある鍼灸院が元は「嘘つき」の実家だと知らされます。
そこへ行くと偶然くるみたちもいて……。
少しずつメカ・ヌマオの真実に近づいてゆくくるみ一派。
はたして、ののかの知っている性悪吸血鬼とヌマオの関係は?
※お気づきの方もいらっしゃると思いますが、
今回のお話の後半は「第66話 <5ガオン」でジュンギがノンカの家を訪ねた状況を
くるみたちが時空を超えて体験したという内容になっています。
くるみたちと少年の話がいまいちかみ合っていないのは、少年が相手にしているのがくるみたちでなくジュンギだからです。
ただし、くるみたちはそれには気が付いていないようですが。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル
くるみに呼ばれたといって、やることはただの人探しだ。
血沸き肉躍るというわけにはいかなかったからだ。
「すみません。60年前の事件のジュンギとノンカ……」
ののかが、そう尋ねても訪問した家の住人はみんながきょとんとしていた。
人探しを始めてからすでに数十件、同じ反応だった。
「メカ・ヌマオってご存じないですか?」
小学男子たちをのみ込んだままの巨大ロボットについても聞いてみた。
「知らないよ」
「ありがとうございました」
ののかは瀟洒なアーチ形の門扉を出て、遠くネオ・チシロ小学校の方角に目をやった。
そこには巨大な欅を背にしたメカ・ヌマオが日の光を浴びて白金色に輝きながら聳え立っていた。
近くへ行くと見えないけれど遠くからは見える巨像は、ここニュータウンからも望めるのだった。
60年前からずっとそこにあって周辺住民を睥睨し続けていても、それが日常化してしまえば、もはや事件との関連を思う人などいなくなるということをののかは思い知った。
ののかは手ぶらでくるみに会いに行かなければならないと思いながら、集合場所に指定された北の公園へとバイクを向けた。
公園の垣根の外にバイクを止めると、中から錆びついたブランコが鳴らす耳障りな音がしていた。
数段しかない大谷石の階段を上ってブランコに目をやると、そこにいたのは海斗でもダイゴでもなく、一人の老婆だった。
尋ね回った家のほとんどが老人ばかりで、
「そういえばもう何年も、ここらで子供を見てないねー」
とも聞いていたので、公園でブランコに乗っているのが子供でなくても驚かないが、ののかが異様に感じたのは、その人が歌っている歌だった。
「ブルちんぽこー、宇宙までー。ブルちんぽこー、宇宙までー」
ブランコをぶらぶら揺らしながら、同じフレーズを節をつけて何度も繰り返している。
ののかはブランコに近づいて行って、しばらくその老婆を眺めていた。
口にしている歌は妙だったが、その人は年齢相応に清楚な雰囲気を持っていた。
老婆は見られていることに気づくと、
「あの事件のこと調べてるそうですね」
と聞いて来た。
「はい。ご存じなんですか?」
「知ってますよ。兄があの観音様の中にいます」
とメカ・ヌマオを指差して言った。
ののかにとって初の関係者発見だった。
「聞かせて貰えますか?」
老婆は耳障りな音をたてるブランコを止めて話し出す。
「兄は信心が足りなくて。観音様が修行をするようにって連れてお行きになりました。妹としては寂しかったですが、これで地獄に行かなくて済むんだから兄は幸せ者です」
事件の受け止め方は人それぞれだということは、ののかも理解しているのでそれについては何も言うことはなかった。
「お兄さんにあだ名はありませんでしたか?」
すると老婆は、
「兄は朴念仁で人づきあいが下手でしたから、あだ名なんてなかったと思いますよ」
と言った。
ののかには意味不明の「ボクネンジン」をスルーして、
「先ほどの歌は?」
と続けた。
「歌? ああ、あれですか? あれは兄のお友達が兄といるときいつも歌っていたものですよ。あたしは、そのお友達のことを『ほ』の字だったものですからよく一緒に歌ってたんです。その頃はまだ小娘でしたから意味なんかもわからずにですよ。お恥ずかしい」
「『ほ』の字?」
「惚れたの『ほ』ですよ。言わせないでください」
というと老婆は赤くなった顔を皺だらけの両手で覆ったのだった。
恥じらってはいるが、この人さっき「ちんぽこ」って大声で歌ってたよな、とののかかは思ったがそれは言わないで、
「そのお友達というのは?」
「その方も観音様に連れていかれました」
老婆は顔を挙げて、
「あそこがご実家でした」
と、公園から続く坂道を上ったところの鍼灸院の看板を指したのだった。
「でした? もう家族の方はいらっしゃらないんですか?」
「ええ。もう何年も前にシンウラヤスとかいうところに引っ越して」
いずれシンウラヤスへ調査に戻らねばならないと思いつつ、ののかはまずはここで出来ることを優先する。
「では、その方のあだ名をご存じですか?」
「あだ名ですか? 兄は『嘘つき』って言ってました。ひどいでしょう? あの方は想像力豊かで多才な方でしたの。今ならマルチナな才能というんでしょうけども。兄はそのことに嫉妬してたんです」
ののかは老婆に別れを告げるとバイクを押して坂道を上って行った。
「ののか、ごくろう」
鍼灸院の門前まで行くと、そこにくるみがいた。
海斗とダイゴの二人も一緒だ。
「どうしてここへ? くるみねえさんも何か情報が?」
「いや、たまたまだ。肩凝ったから針でも打ってもらおうかって話してたとこ」
そこでののかは今老婆に聞いて来たことを伝えた。
「ここがその『嘘つき』の元実家だとすると、ウチらも何かに呼ばれたのかもしれないな。もういないならあまり期待はできないが疲れは癒してくれるだろうから、とりあえず入ろう」
と言って、くるみは玄関のピンポンを鳴らした。
ところがインタホンから雑音はするものの、いつまで待っても返事がなかった。
「中まで行ってみよう」
くるみは手すりの付いた玄関へのスロープを上って行く。
ののかたちもそれについて行く。
くるみは玄関のドアノブを掴むと、
「開いてる」
と扉を開けた。
「いらっしゃい」
出迎えたのは鍼灸師とは思えない小柄な少年だった。
「返事がなかったから。勝手にごめんな」
くるみが言うと、なぜか少年は目線を合わせず、
「まあね。どうぞ」
と言って中に入れてくれた。
「こっちだよ。あ、ママが寝てるから静かにね」
と階段に足をかけて言う。
ののかが「待合」とある正面のアコーディオンカーテンの隙間から中を覗くと、ソファーに寝そべってイビキを掻いている女が見えた。
チェック柄の割烹着姿で長いプラ製の靴べらを持ったまま眠り込んでいた。
ガタ!
ダイゴが床に転がったビール瓶に蹴躓いた。
そこらじゅうに潰れた空瓶や酒瓶が転がしてあったのだ。
「静かに、ママが起きると怖いから」
と少年がおびえた様子で言った。
「怖い?」
「靴べらでひっぱたかれる」
と言って少年は半ズボンの太ももを指した。
そこには真っ赤なミミズ腫れの跡がいくつも付いていた。
「痛そうだな」
とくるみが言うと、
「痛いよ。冬なんか特にね」
「冬も半ズボンなの?」
ののかは寒い冬でも半袖半ズボンの少年を町で見かけたことがあった。
その子の肌は乾燥して真っ赤だった。それを靴ベラで叩かれたらよっぽど痛いだろうとののかは思った。
「手加減してくれないんだよ」
少年は階段を上りながら言ったのだった。
「ひっぱたかれるときは本当に殺されるって思うよ」
酷いことをする母親らしい。
「で、今日は何しに?」
部屋に入ると少年が聞いてきた。
くるみたちが中に入ると、そこは普通のシングルベッドが置いてあるプライベートスペースのような部屋だった。
どう見ても施術室ではなく寝室なのだ。
「針を打ってもらいにだが……」
この状況にくるみが警戒を強めて言った。
すると、少年が急に暗い顔をして、
「ごめん。あれダメにしちゃったんだ」
「今日は施術できないということ?」
ののかが尋ねると少年は、
「パヤに捕まってブルに鞄ごと簀巻きにされたんだけど、そこに原稿が入ってたんだよ」
と意味の分からないことを言いい出した。
「原稿? どういうことだ?」
「あるよ。でもだめなんだ」
とさらに話がかみ合わなくなって、少年は泣き出してしまった。
「泣くな。話を聞かせてくれ」
と言うくるみに少年は、
「ヌマオの腹の中だから」
と言った。
「メカ・ヌマオの中にその原稿があるのか? なら一緒に取りに行こう」
それを聞いた少年は、
「だめ。帰りが遅くなると朝まで家に入れて貰えない」
夏冬なく一晩中閉め出されるという。
「一緒が無理ならウチが取りに行ってやる。メカ・ヌマオへの入り方を教えろ」
すると少年は少し考えて、
「やっぱだめだよ。だって僕もヌマオの腹の中だもの」
と大事なことを思い出したように言うと、少年は忽然と姿を消したのだった。
気付くとくるみたちは寝室ではなく、玄関前に立っていた。
「ウチは何を見せられたんだ?」
くるみが言った。
「今のは、もしかしたらメカ・ヌマオに閉じ込められた少年の残留思念なのでは?」
海斗が言った。
「誰の?」
とダイゴ。
「メカ・ヌマオの中のノンカは漫画雑誌を出版していたようだった。少年が言っていた『原稿』が漫画原稿なら、あの少年がノンカの可能性がある」
このときくるみたちの中で「ノンカ」=「嘘つき」という図式が出来上がった。
ノンカが見つかったのは良かったが、ここはもう「嘘つき」の実家ではない。
この先どうするか?
くるみが思案していると、
「くるみねえさん、あの母親。あたし覚えがある」
ののかが言った。
「大災疫の前後、あたしはバーチーを放浪してたんだけど、そのころここらを支配してた性悪の吸血鬼がいたんだ」
「そいつか?」
「みたい」
ののかはくるみにその性悪吸血鬼のことを詳しく話した。
話が終わるとくるみが、
「やはりののかを呼んで良かった。これから頼むな」
とくるみが言うからには何かが起こるだろう。
ののかは俄然、血沸き肉躍る気持ちになったのだった。
---------------------------------------------------------------------------
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ののかは公園でブランコに揺れる老婆の情報から
坂の上にある鍼灸院が元は「嘘つき」の実家だと知らされます。
そこへ行くと偶然くるみたちもいて……。
少しずつメカ・ヌマオの真実に近づいてゆくくるみ一派。
はたして、ののかの知っている性悪吸血鬼とヌマオの関係は?
※お気づきの方もいらっしゃると思いますが、
今回のお話の後半は「第66話 <5ガオン」でジュンギがノンカの家を訪ねた状況を
くるみたちが時空を超えて体験したという内容になっています。
くるみたちと少年の話がいまいちかみ合っていないのは、少年が相手にしているのがくるみたちでなくジュンギだからです。
ただし、くるみたちはそれには気が付いていないようですが。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル