第14話 <4ガオー

文字数 2,759文字

 坂倉アイルが「マンハン」を主催しているということが、ずっとくるみには気になっていた。

くるみが知ってるアイルは残虐無比だが、派手なことに一切目を向けない地味系女子だからだ。

普通、戦闘吸血鬼がラーメン屋なんてするか?

くるみはそう思いながらも、アイルの一途な生き方にリスペを抱いてもいた。

「なんか変だな」

アイルが主催なら(戦闘覚悟で)直接話してガオくんのスター設定を取り消させようと思ったが、裏がありそうなので、他をあたることにした。

それに「マンハン」の主催者は非公表で、あくまでも噂としてしか伝わってこないものだ。

まず、その噂を確かめるためくるみが出かけたのが、「マンハン」を仕切っているらしい吸血鬼邂逅協会だった。

これもあくまでも噂なのだが。

 

 シンウラヤスにはシンウラヤス市役所がある。

10階建ての立派な近未来的庁舎だが、新しいのはそれだけであたりは大災疫後放置されたままになっている。

くるみは、海砂が吹き流される道を役場の裏手にある廃墟ビル目指して歩いている。

向かいの歩道を見ると知っている男が歩いていた。

アイルの真夫(まぶ)のゆたかだった。

くるみはゆたかのことを以前から知っていた。

もちろんどうやってアイルの真夫になったのかも全てだ。

ラーメン屋も、アイルが留守の時に一度のぞいたことがあった。

その時、一言二言しゃべってもいる。

今は丁度お昼時でラーメン屋も忙しいはずだが。

気になってつけてみると、入って行ったのはくるみの目的と同じ廃墟ビルだった。

階段を昇り協会扉の前まで行くと、ゆたかが難儀しているようだった。

「どうした?」

と声を掛けると、ゆたかは

「ひ!」

と言って、しゃがんで頭を押さえた。

「くるみだ。久しぶり」

くるみが言うと、腕の間から覗き見て、

「よかった。くるみさんか」

とほっとした表情で立ち上がる。

「アイルは?」

中にアイルがいるとなれば、ちょっとまずいことになる。

「あ、店です。店です。店です」

何故か慌てている。

「どうした?」

「扉が開かなくって」

くるみが質したかったのはその慌てぶりだったのだが、ゆたかは今の窮状を訴えた。

くるみが扉に手を掛けて開けると、さほどの力を要せずに開く。

「さすが。人間にはこれ無理ですよ」

当然だ。ここは吸血鬼が出入りする場所だから。

 中に入ると、受付の吸血鬼がゆたかに予め用意していた茶封筒を渡し、

「よい結果があるといいですね」

と言った。

ゆたかはそれを受け取ると、また扉の所で難儀しているので、くるみが開けてやると、

「助かります」

と言った。

「よく来るんだろ? いつもどうしてたんだ?」

と聞くと、受付の吸血鬼をちらっと見て、

「あの方に」

と答えた。

すると、ゆたかが人間だと分かった上で出入りさせているということになる。

くるみはゆたかを見送ると、受付の吸血鬼に、

「あいつが誰か知ってるか?」

と聞いた。

「お答えできません」

当たり前の答えが返ってきた。

「ご用件をどうぞ」

くるみは用件を考えて来ていなかった。

星形みいのことが頭に浮かんだ。

家出してもう3か月が経ってしまった。

「人探しを」

「出会いを求められてのご来会ですね。こちらにどうぞ」

そうではないが、とりあえず中に入れそうだから良しとした。

 申込書を書いて最初に通されたのは医務室のような小部屋だった。

「まず検査をうけていただきます」

と言って血を取られた。

「検査結果をお待ちください」

控室で待っていると、

「お客様こちらへどうぞ」

と言って連れて行かれたのは、「VIPルーム」という札が貼ってある扉の中だった。

中に入ると煌びやかな電飾と黒で統一された豪華な調度の部屋だった。

壁一面に深紅のベルベットのカーテンが張り巡らされている。

部屋いっぱいに異国の楽園を思わせるような高雅な香りがしていた。

くるみは正直困惑した。

何か勘違いをされたと思った。

「しばしお待ちください」

と言って案内の吸血鬼は部屋を出て行った。

扉が閉まる重い音。

ソファーに座ると、目の前のテーブルには高級そうな酒類とキラキラのグラスが置いてある。

「勝手に飲んでいいのかな」

とくるみも慣れない場所にとまどいつつ部屋の中を見回した。

「なるほどね」

監視カメラが部屋のいたるところに隠してあったのだ。

ベルベットのカーテンの向こうは全面コンクリート壁で窓もなさそうだった。

その時、くるみの脳裏を(よぎ)ったのは協会のもう一つの噂だ。

それは、協会が召還の窓口だということ。

召還。大本の吸血鬼が何らかの理由で自分から派生した吸血鬼を吸収すること。

ごくごく稀なことであるため、都市伝説ともいわれる儀式だ。

その出先機関がここ、吸血鬼邂逅教会。

ママがそんなことをするとは思えなかったが、ありえないことではない。

くるみは何食わぬ顔をしながら、警戒レベルを最大まで上げる。

いつでもデコ木刀を取り出し攻撃姿勢になれるようソファに軽く腰かけなおした。

そこで、

ガチャ。

扉が施錠される音がした。

それとともに入口横のベルベットのカーテンがするすると上って行った。

壁に今ではあまり見かけない液晶モニターがあった。

ジジジと音がして女が映し出される。

「くるみ、何しに来た」

紺青の髪は腰のあたりまで真っ直ぐのび、透き通るような肌に切れ長の目、ウルトラマリンブルーの瞳をした女が言った。

「かあさんの差し金か?」

ママをかあさんと言えるのは一人、くるみと同じ時期にママから派生した戦闘吸血鬼、

夜野まひるだけだ。

くるみとは双子の姉妹になるが戦闘吸血鬼同士は近しくとも会えば必ず戦うことになる。

それゆえの”VIPルーム”での液晶お出迎えなのだった。

「人探しだ」

「ホントか?」

「おまえに嘘ついて笑」

「まあ、いい。かあさんがらみでないなら用はない」

と言って、液晶画面は切れたのだった。

そしてすぐさま施錠が解除される音がした。

カーテンがスルスルと下りてきて、もとのVIPルームに戻る。

「なんなのあいつ」

くるみは独り言ちた。

 しばらくしてVIPルームにスーツ姿の女が入ってきた。

くるみが座るソファーの正面に身仕舞い正しく腰かけると、

「こちらがお客様にご提案させていただくプランでございます」

と言って、問題だらけの客扱いを詫ることなくメニューの説明を始めたのだった。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

ラーメン屋のオヤジが吸血鬼邂逅協会に。
いったい何の用なのか?
アイルが手渡された書類にも関係がありそうです。

夜野まひる。
くるみの双子の姉妹登場です。
ただし、人間とは違ってかなり危険な接近遭遇だったようです。

今後も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。

真毒丸タケル

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