第69話 <8ガオン 

文字数 2,821文字

 ジュンギがアオチとニシマキに謝って、ヌマオに飲み込まれた小学男子の怒りを静めてもらった。

一番いきまいていたのはやはりトッカンだった。

「おいノンカ。てめーのせいで俺はゲロジのゲロまみれだ! トッカーン」

タックルを食らわそうと踏み込んだが、アオチに首根っこを掴まれて手足で空を掻いた。

「アオチ、後生だ。あいつに一発食らわさせてくれ」

「トッカン、落ち着け。あとはジュンギにまかせて俺たちは引く」

そういうとアオチはわめきちらすトッカンを引きずりながら竹藪を後にした。

「じゃあ、俺たちも」

と言ったのはニシマキだ。

「ブル。おまえはどうする?」

とアオチたちの後についていくか考えあぐねていたブルに聞いた。

「そうだな。やっぱりニュータウン勢に残ることにするよ。またスカンポも食べたいしな」

スカンポとは田んぼのあぜ道や道路脇に生える雑草で、最近よく耳にする人もいると思うがイタドリのことだ。

成長すると茎が堅くてとてもではないが食べられないが、若芽のうちなら根元からポキッと折り取ることができ、皮を剥いて食べるとレモンのような味がしてうまい。

そのスカンポを帰り道にみんなで食べるのがニュータウン勢の習わしだった。

ただ、スカンポはえぐみがあって食べ過ぎると腹を壊す。

なので胃腸が繊細なカッチャンとナオキは食べるのを嫌がった。

「そうか、じゃあ明日からまたシン・死神十字路で待ち合わせだ」

とニシマキがいうと、ブルは大きく頷いたのだった。

 ニシマキたちニュータウン勢が去った竹藪には、ジュンギとノンカ、そして地面にはもぬけの殻のようにへたったヌマオの姿があった。

「聞かせてもらおうか」

ジュンギが涙で顔がグチャグチャになったノンカに聞いた。

涼やかな風が竹の間を通り過ぎてゆく。空には満月。と思ったら神の光柱がふりそそいでいた。

「夏休み前だったんだ。いつものようにママに閉め出されたから家の雨樋を伝って自分の部屋に侵入しようとしてた」

「ちょっと待て、少し整理させろ。つまりノンカはかーちゃんに閉め出されても、部屋に入る術はあったということか?」

「そうだよ。冬なんかに倉庫で寝たら凍え死ぬだろ。だから、家を出るときは必ず自分の部屋の窓の鍵を開けておくんだ。それで閉め出されたら雨樋つたって中に入って知らないふりして寝るんだ」

とノンカは言った。

「かーちゃんは怒るだろ」

「朝になったら、僕のことなんかすっかり忘れてるよ」

案外したたかな男だった。

「で?」

「そうそう。そしたら急に僕にスポットライトがあたってさ」

「スポットライト?」

「ルパン三世のアニメのさ、壁伝いに逃げ回るシーンみたいな」

とてもわかりやすい説明だった。

「こう言われたんだ。『最強か?』って」

「最強? ノンカがか?」

「そうだよ。笑っちゃうだろ。アオチやニシマキならまだしも。僕なんかに」

たしかにその通りだった。ノンカに最強の要素など微塵もなかった。

「その後もことあるごとに、スポットライトに照らされて『最強か?』だろ。いくら僕だって考えるよ」

ジュンギは腕を組む。ノンカはなんと結論付けたのか?

「最強になれってことなんだって」

「いやいや、そこは『違います』だろ」

とジュンギはそう言ったが、この小柄な大嘘つきには得体の知れない何かがあるとも感じていた。

だからこそ漫画雑誌を作ろうと言ってきたとき、ジュンギは躊躇なく乗ったのだった。

「なら最強にならなきゃって思ってさ。キャラを作った。それがヌマオ」

ノンカはしらっとして言ったが、ヌマオは絶対にジュンギの発案だった。

「でも作ったらあんまり強くなかったんだよね」

とノンカは「てへぺろ」をした。

ジュンギはさもありなんと思う。

パクりなんて、よく見えても自分で作ってないから中身がスッカラカンなのだ。

「中身ないからさ、補充したんだよ」

ジュンギはなるほどと思った。

「それでみんなを襲わせたのか」

「そう。みんなの力を取り込めば最強になるって思ったんだ」

ヌマオは食らったものの能力を吸収して自分のものとしながら成長する。

ジュンギの最初の設定からそうだった。

「うまく行ったと思ったんだけどね。僕まで飲まれちゃってさ」

「それで俺をノンカの家に呼んだのか?」

「そういうこと。ジュンギならなんとかしてくれると思って」

あざといというか甘えん坊というか。

いずれにしても他力本願なところはまだまだ子供なノンカなのだった。

「で、どうする。もうヌマオになんか誰も飲まれちゃくれないぞ」

それはトッカンだけではなさそうだった。

ピロやヨージ、ゲロジにパヤやブルといったすでに飲まれた連中はなおさらだし、

ノンカはあわよくばアオチとニシマキも飲み込もうとしていたがそれはどだい無理な話だった。

それを許す二人ではないし、二人がいなければ最強とはほど遠い。

「諦めるか?」

とジュンギは言ったが本心はそうではなかった。

ジュンギも自分が作ったヌマオで最強を目指したかったのだ。

「それでジュンギに相談したかったんだよ」

とノンカが言ったのには即答で、

「分かった。任せろ」

と答えたジュンギだった。

 ジュンギには案があった。

ヌマオ最強化計画。

ヌマオを元に巨大化ロボットを作ってみんなに乗ってもらう。

それならば神の火柱に対して胸を張って答えられるはずだ。

「最強だ」

と。

 その日からジュンギはメカ・ヌマオの制作に取りかかった。

ジュンギは、ネオ・チシロ小学校の校庭をメカ・ヌマオ製造基地にした。

校庭の真ん中のケヤキの大木を巨大な仕切りで囲ったのだ。

校長先生以下大人たちが猛烈に抗議したが、マッドサイエンシストと化したジュンギを止められる人間はもういなかった。

来る日も来る日もジュンギは巨大ロボットの製作に打ち込んだ。

小学男子はアオチ勢もニュータウン勢もなく全員でそれを手伝った。

 そしてジュンギがノンカに任せろと言ってからちょうど100日目、ケヤキの大木の目隠しが取り払われた。

そこに立っていたのは、銀色に輝く巨大なヌマオ。

メカ・ヌマオだった。

そこにすかさず神の火柱が降り注ぐ。

「最強か?」

天からの声が響き渡ると、その場にいた小学男子たちが肩を組んだ。

ジュンギ、ノンカ、アオチ、ニシマキ、ピロ、ヨージ、ゲロジ、パヤ、ブル、カッチャン、ナオキ、キーチャン、オサムくんが一斉に叫ぶ。

「「「「「「「「「「「「最強だ!」」」」」」」」」」」」

天からの光が全員に降り注ぐ。

今、ネオ・チシロ小学校の男子たちはまばゆい光の中で、一つになったのだった。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

最強か? あの言葉をノンカに突きつけてきた神の火柱。

それに対して、ジュンギのロボットキャラと小学男子全員で答えます。



今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。

真毒丸タケル
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