第1話 <ガオ?
文字数 4,459文字
「べっ!」
乳白色の月明かりに照らされた公園のベンチに、高校生風の男女が座っていて、それまで何やら睦みあっているように見えていたのだったが、
女子高生の方がいきなり顔をあげて、血唾を吐いた。
「まっず。なんだって昨今のDKの血はこうもまっずいのかな?」
そう言うと、自分にのしかかっていた男子高校生の体を押しのけて立ち上がり、
「なんかこう、生活臭がさ、滲み出てんの。勤勉なのはいいよ。でもさ、程度ってあるじゃん。お前、就職先決まったって言ってたな。どこ?
市役所だったけか? 夢がかなったってか? はあ?
他に
と言って、ベンチの上でぐったりとなった男子高校生の体をローファーの踵でぐりぐりと踏みつけにした。
男子高校生の首のあたりは真っ赤な血でそまり、その辺りからボトボトと音がするほど血がしたたり落ちている。
「ニキビ面のアホ顔しやがって。ジャン・コクトー様に申し訳ないぞ。知らないのか? かのお方は日本の男子高校生が世界で一番美しいって言ったんだ。恥を知れや! あれ? コクトー様でなかったかも。まあ、いいか」
そういうと、ベンチの男子高校生の首根っこを掴み、そのまま引きずりながら公園の遊歩道を歩き出した。
実は男子高校生は死んでいない、まだ息をしている。
生殺しと言う言葉がある。
『広辞苑』を調べるとこうある。
「ほとんど死ぬばかりの状態にしておくこと。半殺し」
つまり半殺しの状態なのだ。また、もう一つの日常で使われる意味、
「結末を付けずに、相手が困り苦しむのをほうっておくこと。中途半端にしておくこと」
この女子高生は、日常的にもこの男子高校生を生殺しの目にあわせていた。
「だーめ、海斗の夢がかなうまで、お・あ・ず・け」
と言って、男子高校生が体を求めるのを拒否って来た。
それも、おいしい血を頂くための、女子高生なりのガマンだった。
もうお気づきのことと思うが、この女子高生、吸血鬼である。
吸血鬼には独特の血のレシピがある。
単に血を頂くのではなく、獲物のメンタルに働きかけて、血に味変を促す。
この女子高生吸血鬼のレシピは「生殺し」だった。
血は欲望を最大限溜め込むことで、より生々しくも濃厚になるといわれている。
その濃厚な血を作るために女子高生吸血鬼は、この男子高校生を散々じらして、じらして、そのくせいつも体を擦り寄せてこのころの男子にはたまらない
女子独特の芳香を鼻先でかがせてその気にさせ続けてきたのだった。
そして、今日この日、11月の冴えた月が輝く夜、ついに女子高生吸血鬼は決行した。
もう、男子高校生はその日一日、鼻血が吹き出す勢いで夜が来るのを待っていた。
昼の業間休みに二人で階段の下に隠れて。
「でさ、その…、ホテルなんだけど」
「だめ。人に見られたくない」
「じゃあ、俺んちに来る? 誰もいないから」
「それも、なんだか」
「じゃあ、どうする。まさか青姦?」
男子高校生は悔いた。それを見すぎたことを。スマフォの検索履歴に(女子高生&青姦)がなんと多いことか。
例えそれが当の女子高生によって猛烈に抑圧された性欲を解消するためだったとしても、いまのセリフはあまりにもあからさますぎた。
男子高校生の脳内は暴風が吹き荒れ、とめどなく襲い来る自責と後悔の念に苛まれた。
もう二度とこの子と会えなくなるんじゃ。というか、やらずに別れることに? 今までの俺の忍苦は何だったの? ボク泣きそう。
だが、女子高生の反応はこうだった。
「いいね。じゃあ、今晩10半に、ふれあいすぎ公園のいつもの場所で」
女子高生が振り返る時、巻き上げスカートの裾が翻り、その太もものぎりまでが露わになった。
ぶーーーーーーーー!
で、今ここ。
「しゃーない。餌にはなる」
さんざん生殺しにして、半殺しにしたまま餌として持ち帰る。
男子高校生の青ざめた唇がよまいごとをつぶやいているようで哀れだった。
月は相変わらず冴えていて、遊歩道を乳白色に染めあげる。
二人で歩くのは血が滴るミルキーウェイ。
遊歩道のその先の夜空に、冬の銀河が続いていた。
「ちょい、待ち」
鈴懸の木の梢に冬月を背にした人影らしきものが見えた。
「やばいの出たよ」
女子高生吸血鬼はその人影を見上げて、一瞬であたりを見通した。
ここは公園である。すなわち遮るものは何もない。
「逃げらんなさげだな」
女子高生吸血鬼はそう独り言つと、男子高校生をその人影目掛けてぶん投げ、猛烈な勢いで公園の北側に広がる森に駆け出した。
空をひと型ブーメランのように舞う男子高校生。
梢の人影はそれを苦も無く片手で受け止めると、男子高校生の足を掴んだまま楓の木の上から、ひと飛びで地面に降り立った。
この人影もまた女子高生風に見える。
そして、手にしたものを根元のベンチに寝かせると、逃げて行った女子高生を追いかけて猛ダッシュする。
土煙を挙げて公園の野球場をつっきると、女子高生の前に回って両手を広げる。
「待てって言ったのきこえなかったか?」
「はあ? お前、ちっと顔知られてるからって人に命令すんな」
「そう、ウチ超有名人。名乗りでも聞いとく? 死ぬ前に」
「死ぬとかw、なんで吸血鬼のあたしが死ななきゃなんない? 死ぬってのは人間の義務と責任だ、あたしらには関係ない」
「でーーも、掟破った場合はどうだったかな? 300才の女子高生さん」
女子高生の恰好はしているが実年齢は300才ということは、オババ女子高生パブよりひどい詐欺。
「人間の血を喰らうのが吸血鬼の義務と責任だ。それのどこが掟破りだ。ひよっこ」
「2月、4月、6月、9月、11月は人を襲っちゃダメ。って知らないかな」
「そんな掟がどうした? たかだかカレンダーの縛りにすぎない」
「あのー、言葉遣いがJKでなくなってきてますけどー」
たしかに、女子高生吸血鬼はさきほどからJKっぽくないしゃべり方になってきていた。
しかし、変化しているのはそれだけではなかった。
体がだんだんと大きくなってきている。それにつれ着ていたセーラー服が千切れ、中からめきめきと音を立てて骨ばって土気色の地肌が露わになりつつあった。
ぶわさ!
ゆうに4メートルはあろうかという羽をひろげ、その完全体が顕現すると身の丈数メートルの怪物が出現し、辺りに波動が押し寄せた。
「本性などお前なんぞに見せるものではないが、こましゃくれたガキを仕置きするためにはしかたない」
と言って、天へ届くほどの咆哮を挙げる。それにつれて地響きが押し寄せる中、
「たっく、仰々しいバーさんだな。なら冥途の土産にいいのも見せてやるか」
と追いかけてきた女子高生風が言った。
「っとその前に、名乗らせてもらおうか」
「勝手にしろ。雑魚ほどよくしゃべるというからな」
「じゃあ、遠慮なく」
雲が流れ、月光がその人影を明るく照らす。
ピンクアッシュ髪とパールピンクの瞳、純白の超ミニセーラー服にニーハイソックス、真っ赤なピンヒールを履いている。
右手には刀身をスワロフスキでめっちゃデコった木刀が握られ、左腕には星型のタトゥーが刻まれている。
その数31スター。これまでに倒した戦闘吸血鬼の数と言われている。
「史上最強にして最高の美少女吸血鬼、デコ木刀の京藤くるみちゃんとはウチのことだ!」
デコ木刀を一振りすると、
キラキラキラーーン。パラパラパラ。
スワロフスキが周囲に飛び散った。
それをしゃがんで一つずつ拾い集める京藤くるみ。
「やっぱ、みいがデコったのじゃないとダメだな」
なにやってんの? という表情で見つめるオババ女子高生吸血鬼。
「はあ? 史上最強はあのお方だからな。お前が足元にも及ばない至高の存在」
「ウチのママのことだろ?」
「ママ? あなたのお母さんってことですか?」
「そだよ。しばらく会ってないけど」
オババ女子高生吸血鬼に明らかな動揺が走る。
「もう、ママのこというと、みんなそんなだから名前も変えてデビューしたのにさ。やんなるよ」
自分から言い出しててこうだ。
「いやいやいや、お前のようなガキがあのお方の娘であるはずはない。ってか吸血鬼で血縁なんてないし」
「お、JK言葉に戻ったじゃん。やっぱキャラは安定させないと」
「うるさい! 300才も年取ると流行りを追っかけるの大変で、すぐキャラぶれしちゃうんだ」
「まあ、わからなにでもないけど。掟は掟だから、死んでもらうね」
くるみはデコ木刀を斜に構え一歩踏み込むと、体ごとオババ女子高生吸血鬼に向かって突進した。
オババがその猛烈な攻撃に両手の鋭く伸びた爪で応戦するも、
デコ木刀を薙ぐ速さが一瞬早く、懐に潜ったくるみによって右乳首から左の脇腹に通る断傷を負い、地面に大量の血を迸らせた。
オババの背後に回ったくるみは、間髪を入れず体を返して飛び出すと空中で逆さになりながら、オババの背中を切り裂いた。
月影に鮮烈な血煙が立ち昇る。
自慢の片羽が地面にドウと落ちる。
京藤くるみは着地すると振り返り、今度はデコ木刀を逆手に持ち換え、
その逆手刃で背後の虚空を切り裂いた。
圧倒的な暴力とはこのことを言うのだろう、
発動された京藤くるみの最強ラダー(特殊技)は、一瞬でオババ女子高生吸血鬼を雲散霧消に帰した。
かろうじて聞えたオババの断末魔はこうだ。
「なんで吸血鬼が十字架背負ってんの(笑)」
笑っていられたのも束の間だった。
出合った相手が運の尽きだったのだ。
くるみは鈴懸の木の下に戻ると、男子高校生の横に立った。
「おい、起きろ」
といって、デコ木刀の先で勃起したままの若枝を突っついた。
すると、男子高校生の口から、
「うっ」
と吐息が漏れて、一瞬こわばった体の力がゆっくりと抜けていった。
季節でもないのにニセアカシアの花の匂いが漂ってくる。
「ったく、ジャガイモの精液まぶしとはよく言ったもんだ」
男子高校生はとろんとした目をくるみにむけたが、すかさず起き上がると、
「ガオー」
と言って歯をむき出しにした。
「はあ? お前吸血鬼にでもなったつもりか?」
「ガオ?」
「ならねーよ。血を吸われたくらいじゃ」
「ガーオ」
「血が足りてねーから病院行って輸血してもらえ。吸血鬼にやられたって言ったら保険効くから」
「ガオ」
「ガオはやめろ。一人で立てるか?」
「はい、なんとか」
「じゃあ、気を付けて帰れ。ここらは他にもおっかないおねぃさんがいっぱいいるから」
「ありがとうございました。あの、お名前は?」
「もう名乗ったから言わない。しかしまー、最近の人間は耐性が付いて、これくらいの吸血じゃ死なんのね」
「ガオ」
「めっちゃドヤ顔するやん」
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
美少女吸血鬼の京藤くるみちゃんとガオくんこと佐々木海斗くんの出会いです。
今後、この二人が戦闘力極大の敵を相手に暴れまくります。
今後も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。
真毒丸タケル
乳白色の月明かりに照らされた公園のベンチに、高校生風の男女が座っていて、それまで何やら睦みあっているように見えていたのだったが、
女子高生の方がいきなり顔をあげて、血唾を吐いた。
「まっず。なんだって昨今のDKの血はこうもまっずいのかな?」
そう言うと、自分にのしかかっていた男子高校生の体を押しのけて立ち上がり、
「なんかこう、生活臭がさ、滲み出てんの。勤勉なのはいいよ。でもさ、程度ってあるじゃん。お前、就職先決まったって言ってたな。どこ?
市役所だったけか? 夢がかなったってか? はあ?
血
気盛んな若者が目指す職場か?他に
血
沸き肉踊る仕事があるだろうが!」と言って、ベンチの上でぐったりとなった男子高校生の体をローファーの踵でぐりぐりと踏みつけにした。
男子高校生の首のあたりは真っ赤な血でそまり、その辺りからボトボトと音がするほど血がしたたり落ちている。
「ニキビ面のアホ顔しやがって。ジャン・コクトー様に申し訳ないぞ。知らないのか? かのお方は日本の男子高校生が世界で一番美しいって言ったんだ。恥を知れや! あれ? コクトー様でなかったかも。まあ、いいか」
そういうと、ベンチの男子高校生の首根っこを掴み、そのまま引きずりながら公園の遊歩道を歩き出した。
実は男子高校生は死んでいない、まだ息をしている。
生殺しと言う言葉がある。
『広辞苑』を調べるとこうある。
「ほとんど死ぬばかりの状態にしておくこと。半殺し」
つまり半殺しの状態なのだ。また、もう一つの日常で使われる意味、
「結末を付けずに、相手が困り苦しむのをほうっておくこと。中途半端にしておくこと」
この女子高生は、日常的にもこの男子高校生を生殺しの目にあわせていた。
「だーめ、海斗の夢がかなうまで、お・あ・ず・け」
と言って、男子高校生が体を求めるのを拒否って来た。
それも、おいしい血を頂くための、女子高生なりのガマンだった。
もうお気づきのことと思うが、この女子高生、吸血鬼である。
吸血鬼には独特の血のレシピがある。
単に血を頂くのではなく、獲物のメンタルに働きかけて、血に味変を促す。
この女子高生吸血鬼のレシピは「生殺し」だった。
血は欲望を最大限溜め込むことで、より生々しくも濃厚になるといわれている。
その濃厚な血を作るために女子高生吸血鬼は、この男子高校生を散々じらして、じらして、そのくせいつも体を擦り寄せてこのころの男子にはたまらない
女子独特の芳香を鼻先でかがせてその気にさせ続けてきたのだった。
そして、今日この日、11月の冴えた月が輝く夜、ついに女子高生吸血鬼は決行した。
もう、男子高校生はその日一日、鼻血が吹き出す勢いで夜が来るのを待っていた。
昼の業間休みに二人で階段の下に隠れて。
「でさ、その…、ホテルなんだけど」
「だめ。人に見られたくない」
「じゃあ、俺んちに来る? 誰もいないから」
「それも、なんだか」
「じゃあ、どうする。まさか青姦?」
男子高校生は悔いた。それを見すぎたことを。スマフォの検索履歴に(女子高生&青姦)がなんと多いことか。
例えそれが当の女子高生によって猛烈に抑圧された性欲を解消するためだったとしても、いまのセリフはあまりにもあからさますぎた。
男子高校生の脳内は暴風が吹き荒れ、とめどなく襲い来る自責と後悔の念に苛まれた。
もう二度とこの子と会えなくなるんじゃ。というか、やらずに別れることに? 今までの俺の忍苦は何だったの? ボク泣きそう。
だが、女子高生の反応はこうだった。
「いいね。じゃあ、今晩10半に、ふれあいすぎ公園のいつもの場所で」
女子高生が振り返る時、巻き上げスカートの裾が翻り、その太もものぎりまでが露わになった。
ぶーーーーーーーー!
で、今ここ。
「しゃーない。餌にはなる」
さんざん生殺しにして、半殺しにしたまま餌として持ち帰る。
男子高校生の青ざめた唇がよまいごとをつぶやいているようで哀れだった。
月は相変わらず冴えていて、遊歩道を乳白色に染めあげる。
二人で歩くのは血が滴るミルキーウェイ。
遊歩道のその先の夜空に、冬の銀河が続いていた。
「ちょい、待ち」
鈴懸の木の梢に冬月を背にした人影らしきものが見えた。
「やばいの出たよ」
女子高生吸血鬼はその人影を見上げて、一瞬であたりを見通した。
ここは公園である。すなわち遮るものは何もない。
「逃げらんなさげだな」
女子高生吸血鬼はそう独り言つと、男子高校生をその人影目掛けてぶん投げ、猛烈な勢いで公園の北側に広がる森に駆け出した。
空をひと型ブーメランのように舞う男子高校生。
梢の人影はそれを苦も無く片手で受け止めると、男子高校生の足を掴んだまま楓の木の上から、ひと飛びで地面に降り立った。
この人影もまた女子高生風に見える。
そして、手にしたものを根元のベンチに寝かせると、逃げて行った女子高生を追いかけて猛ダッシュする。
土煙を挙げて公園の野球場をつっきると、女子高生の前に回って両手を広げる。
「待てって言ったのきこえなかったか?」
「はあ? お前、ちっと顔知られてるからって人に命令すんな」
「そう、ウチ超有名人。名乗りでも聞いとく? 死ぬ前に」
「死ぬとかw、なんで吸血鬼のあたしが死ななきゃなんない? 死ぬってのは人間の義務と責任だ、あたしらには関係ない」
「でーーも、掟破った場合はどうだったかな? 300才の女子高生さん」
女子高生の恰好はしているが実年齢は300才ということは、オババ女子高生パブよりひどい詐欺。
「人間の血を喰らうのが吸血鬼の義務と責任だ。それのどこが掟破りだ。ひよっこ」
「2月、4月、6月、9月、11月は人を襲っちゃダメ。って知らないかな」
「そんな掟がどうした? たかだかカレンダーの縛りにすぎない」
「あのー、言葉遣いがJKでなくなってきてますけどー」
たしかに、女子高生吸血鬼はさきほどからJKっぽくないしゃべり方になってきていた。
しかし、変化しているのはそれだけではなかった。
体がだんだんと大きくなってきている。それにつれ着ていたセーラー服が千切れ、中からめきめきと音を立てて骨ばって土気色の地肌が露わになりつつあった。
ぶわさ!
ゆうに4メートルはあろうかという羽をひろげ、その完全体が顕現すると身の丈数メートルの怪物が出現し、辺りに波動が押し寄せた。
「本性などお前なんぞに見せるものではないが、こましゃくれたガキを仕置きするためにはしかたない」
と言って、天へ届くほどの咆哮を挙げる。それにつれて地響きが押し寄せる中、
「たっく、仰々しいバーさんだな。なら冥途の土産にいいのも見せてやるか」
と追いかけてきた女子高生風が言った。
「っとその前に、名乗らせてもらおうか」
「勝手にしろ。雑魚ほどよくしゃべるというからな」
「じゃあ、遠慮なく」
雲が流れ、月光がその人影を明るく照らす。
ピンクアッシュ髪とパールピンクの瞳、純白の超ミニセーラー服にニーハイソックス、真っ赤なピンヒールを履いている。
右手には刀身をスワロフスキでめっちゃデコった木刀が握られ、左腕には星型のタトゥーが刻まれている。
その数31スター。これまでに倒した戦闘吸血鬼の数と言われている。
「史上最強にして最高の美少女吸血鬼、デコ木刀の京藤くるみちゃんとはウチのことだ!」
デコ木刀を一振りすると、
キラキラキラーーン。パラパラパラ。
スワロフスキが周囲に飛び散った。
それをしゃがんで一つずつ拾い集める京藤くるみ。
「やっぱ、みいがデコったのじゃないとダメだな」
なにやってんの? という表情で見つめるオババ女子高生吸血鬼。
「はあ? 史上最強はあのお方だからな。お前が足元にも及ばない至高の存在」
「ウチのママのことだろ?」
「ママ? あなたのお母さんってことですか?」
「そだよ。しばらく会ってないけど」
オババ女子高生吸血鬼に明らかな動揺が走る。
「もう、ママのこというと、みんなそんなだから名前も変えてデビューしたのにさ。やんなるよ」
自分から言い出しててこうだ。
「いやいやいや、お前のようなガキがあのお方の娘であるはずはない。ってか吸血鬼で血縁なんてないし」
「お、JK言葉に戻ったじゃん。やっぱキャラは安定させないと」
「うるさい! 300才も年取ると流行りを追っかけるの大変で、すぐキャラぶれしちゃうんだ」
「まあ、わからなにでもないけど。掟は掟だから、死んでもらうね」
くるみはデコ木刀を斜に構え一歩踏み込むと、体ごとオババ女子高生吸血鬼に向かって突進した。
オババがその猛烈な攻撃に両手の鋭く伸びた爪で応戦するも、
デコ木刀を薙ぐ速さが一瞬早く、懐に潜ったくるみによって右乳首から左の脇腹に通る断傷を負い、地面に大量の血を迸らせた。
オババの背後に回ったくるみは、間髪を入れず体を返して飛び出すと空中で逆さになりながら、オババの背中を切り裂いた。
月影に鮮烈な血煙が立ち昇る。
自慢の片羽が地面にドウと落ちる。
京藤くるみは着地すると振り返り、今度はデコ木刀を逆手に持ち換え、
その逆手刃で背後の虚空を切り裂いた。
圧倒的な暴力とはこのことを言うのだろう、
発動された京藤くるみの最強ラダー(特殊技)は、一瞬でオババ女子高生吸血鬼を雲散霧消に帰した。
かろうじて聞えたオババの断末魔はこうだ。
「なんで吸血鬼が十字架背負ってんの(笑)」
笑っていられたのも束の間だった。
出合った相手が運の尽きだったのだ。
くるみは鈴懸の木の下に戻ると、男子高校生の横に立った。
「おい、起きろ」
といって、デコ木刀の先で勃起したままの若枝を突っついた。
すると、男子高校生の口から、
「うっ」
と吐息が漏れて、一瞬こわばった体の力がゆっくりと抜けていった。
季節でもないのにニセアカシアの花の匂いが漂ってくる。
「ったく、ジャガイモの精液まぶしとはよく言ったもんだ」
男子高校生はとろんとした目をくるみにむけたが、すかさず起き上がると、
「ガオー」
と言って歯をむき出しにした。
「はあ? お前吸血鬼にでもなったつもりか?」
「ガオ?」
「ならねーよ。血を吸われたくらいじゃ」
「ガーオ」
「血が足りてねーから病院行って輸血してもらえ。吸血鬼にやられたって言ったら保険効くから」
「ガオ」
「ガオはやめろ。一人で立てるか?」
「はい、なんとか」
「じゃあ、気を付けて帰れ。ここらは他にもおっかないおねぃさんがいっぱいいるから」
「ありがとうございました。あの、お名前は?」
「もう名乗ったから言わない。しかしまー、最近の人間は耐性が付いて、これくらいの吸血じゃ死なんのね」
「ガオ」
「めっちゃドヤ顔するやん」
---------------------------------------------------------------------------
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
美少女吸血鬼の京藤くるみちゃんとガオくんこと佐々木海斗くんの出会いです。
今後、この二人が戦闘力極大の敵を相手に暴れまくります。
今後も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。
真毒丸タケル