第72話 <11ガオン
文字数 3,272文字
平和公園と泉自然公園は、ネオ・若葉区の郊外にあって住人たちに憩いの空間を提供している。
泉自然公園が子供たちがあふれる活気ある公園なら、平和公園はお年寄りたちが集う落ち着いた雰囲気の公園だ。
近隣の小中学校の遠足はそのどちらかを利用する慣例なので、ほとんどの人が一度は言ったことがある場所だった。
そして平和公園は墓地公園でもある。
一基10万円のデザイン墓石が整然と並ぶ平和公園墓地。
その平和な日常に異変が起きた。
突如、怪獣ハカバドロボーが現れたのだ。
この怪獣はいつもは地中深くに潜んでいるが、腹が空くと地上に出てくる。
自分で狩りをすることはせず、動物の死骸や残飯をあさるのを得意とするスカベンジャーだ。
そのためお供え物が常時置いてある墓場に好んで出現するのだった。
しかし、ネオ・平和公園の墓地は、増え続けるカラス被害のため、ずいぶん前からお供え物を禁止している。
せっかくおなかを満たそうと地上に出てきたのに怪獣ハカバドロボーの食べるものがない。
こうして怒った怪獣ハカバドロボーは、夕飯のいい匂いがする方角に向かって移動することとなった。
行き着いたのはネオ・オーミヤ団地。ノンカやブルの家のあるノースタウンの隣の団地だった。
怪獣ハカバドロボーは、ネオ・オーミヤ団地に踏み込むと、家々の屋根を剥ぎ取り、出来たばかりの暖かい夕食を食べまくった。
総武線に揺られ、市営バスにを乗り継いで遠方から帰ってくるお父さんたちの晩酌のおつまみまですべて食べ尽くす悪逆非道な行為に、町のおかーさんたちの堪忍袋もついにその緒が切れた。
そして町のおかーさんたちは、ネオ・チシロ小学校の校庭のど真ん中に屹立する、正義の味方メカ・ヌマオに退治を要請したのだった。
メカ・ヌマオならきっと、怪獣ユウハンドロボーを退治してくれるに違いない。
ちなみにこの怪獣はしでかしたことによって逐次名前が変わる。
要請を受け、いや、最近皆の期待をその身にひしひしと感じる正義の味方メカ・ヌマオは、言われるまでもなく出動した。
「メカ・ヌマオ発進!」
ジュンギの号令が掛る。
「「「「「「ラジャー」」」」」」
こういうときは必ず言う台詞で全員で呼応する。
ズシーーーン。
一歩目の足音が校庭の隅の希望ヶ丘に反響して校庭に響き渡る。
この一歩目が難儀だった。
まずパイルダーのジュンギが前に進むのを想像する。
すると頭ごと少しだけ前に動いて姿勢が前傾する。
次に右足のパヤが倒れないようにと想像する。
右足が前に出て足が一歩踏み出される。
同時に左手のナオキが、姿勢を保とうと想像すると、
左手が前に振られる。
そして……。
気の遠くなるような連続動作を繰り返して、怪獣アサメシドロボーの前に立ち塞がったのは、
ジュンギの号令から2日後の昼だった。
「よし、みんな攻撃開始だ! 覚悟しろアサメシドロボー!」
「あーあたしのお昼ご飯がー!」
怪獣アサメシドロボーは、ちょうどそのとき民家の屋根に手を突っ込んで、レトルトパックのボンゴレソーススパゲッティーをすすっていたのだった。
「もとい! ヒルメシドロボー!」
敵の名前を間違えるなんて、なんかかっこ悪い。
と思ったのはジュンギだけではなかった。
「今度からもう少し早く歩けるようにしようよ」
肛門担当のうんこヨージが言った。
「肛門の締め付けが悪いから遅いんだ!」
と言ったのは、臍に乗ってベルトパッチンを繰りださんと想像していたピロだった。
それは搭乗する小学男子全員の思いだったが、みんな自分の持ち場の想像で忙しく声に出して言うことは出来なかった。
確かにメカ・ヌマオは一歩前進するたびに屁をこいた。
ドシーーーン、ブーーーー。
力が抜けて様にならなかった。
なぜ屁をこくか。
それはヨージがそうだったからだ。
ヨージは緊張するとお腹がいたくなる子だった。
きゅるきゅる鳴ってやたらおならが出る。
最悪の時はうんこを漏らす。
それが小学校の入学式に起こってしまったのはすでに述べた。
出動の時のヨージはいつも極度の緊張をしていて、
「お腹いたーい。おなら止まらなーい」
と想像していた。
だからメカ・ヌマオは歩くたびに屁をこいたのだった。
そんなヨージを肛門に配置したのはジュンギだった。
みんなのように前向きの搭乗位置ではヨージの緊張が極限に来てしまう。
そうなったらメカ・ヌマオは歩くたびに○○○○○○○(自粛)だろう。
それを懸念したのだった。
「キーチャン。キックだ」
ジュンギの指令が飛ぶ。
キーチャンは素早く反応して、左足を前に突き出す想像をする。
それに伴って全員で平行を保つための想像をしてメカ・ヌマオが倒れないように腐心する。
1発目が怪獣ヒルメシドロボーの顔面を捉えた。
ボンゴレスパを口から激しく吐き出しながら上体をのけぞらせている。
次の攻撃のチャンスと思ったが、みんなの想像が勢い余ってメカ・ヌマオは後ろを向いてしまっていた。
ジュンギの次の号令は、
「アオチとニシマキ、下を見ろ!」
言われるままに二人は地面を見るための想像をする。
全員がそれに従うのはさすがネオ・チシロ小学校の両首領だ。
メカ・ヌマオは瞬時に前掲した。
その時、乳首の穴から地面を見たノンカが何かを見つけた。
「あれはなんだ?」
もう片方の乳首のブルがその声に反応する。
「エロ本の山だぞ。お宝発見!」
当時のバーチー郊外の草むらには、中学生のお兄さんたちが、お母さんに見つかって捨てさせられたエロ本がいたるところにあったのだ。
「ネオ・ゴローだ」
「おい、あれは洋物のネオ・ペントハウスじゃないか?」
夢中で地面をのぞき込む小学男子たち。
さらにメカ・ヌマオの上半身が下を向いてゆく。
そうするうち怪獣ヒルメシドロボーが体勢を立て直した。
メカ・ヌマオを敵と認識してすごい形相でにらみつけてくる。
そしてその真っ赤に充血した悪魔のような眼に晒されたのは、唯一正面をむいている肛門担当のうんこヨージだった。
メカ・ヌマオの上半身が下向きになって尻を突き出す形になったからだった。
ヨージの緊張が最高潮に達した。
次の瞬間それは起こった。
メカ・ヌマオの○○から○○○が大量噴射! (お昼どきなので自粛)
怪獣ヒルメシドロボーの顔面が○○○だらけになったのだった。(お昼どきなので自粛)
そしてあれだけ勢いのあった怪獣ヒルメシドロボーは悲鳴を上げながら地中に逃げていった。
「「「「「よっしゃー! また勝利ーーーー!」」」」」
小学男子全員が歓声を上げた。
あの怪獣ヒルメシドロボーを一瞬で撃退したのだった。
今回の決め技もまた小学男子たちの連携がますます磨きが掛かってきていることを証明した。
「見たか! 俺たちのコンヴィネーション!」
最近はそんな難しい台詞も言えるようになった。
ネオ・チシロ小学校の校庭に戻ったメカ・ヌマオ。
小学生男子たちはそれぞれでくつろぎの時間を過ごしていた。
そんな中、ジュンギだけはパイルダーに乗ったまま作戦記録をつけていた。
そこにノンカが現れて話しかける。
「ジュンギ。やっと王選手のホームラン記録に並んだね」
「これで868勝か。よく戦ったよ、俺たち」
「僕たちさ、そろそろ世界の救世主って言っていいよね」
「ああ、いいと思う。いや、とうの昔にそうなってる」
「長かったね」
「ああ、長かった」
「でもこれ、いつまで続くのかな」
「俺たちの頭の中から怪獣がいなくなるまでだ」
「本当にいなくなるのかな」
「いつかな」
メカ・ヌマオが起動してからすでに60年が過ぎようとしていた。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
まいど汚い話で申し訳ございません。
でもこれは小学生男子の想像の世界の中なのです。
あたたかい目でみていただけるとありがたいです。
メカ・ヌマオが起動してから60年。
その間、ずっと中に閉じ込められたままの小学男子たち。
悪夢は続きます。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル
泉自然公園が子供たちがあふれる活気ある公園なら、平和公園はお年寄りたちが集う落ち着いた雰囲気の公園だ。
近隣の小中学校の遠足はそのどちらかを利用する慣例なので、ほとんどの人が一度は言ったことがある場所だった。
そして平和公園は墓地公園でもある。
一基10万円のデザイン墓石が整然と並ぶ平和公園墓地。
その平和な日常に異変が起きた。
突如、怪獣ハカバドロボーが現れたのだ。
この怪獣はいつもは地中深くに潜んでいるが、腹が空くと地上に出てくる。
自分で狩りをすることはせず、動物の死骸や残飯をあさるのを得意とするスカベンジャーだ。
そのためお供え物が常時置いてある墓場に好んで出現するのだった。
しかし、ネオ・平和公園の墓地は、増え続けるカラス被害のため、ずいぶん前からお供え物を禁止している。
せっかくおなかを満たそうと地上に出てきたのに怪獣ハカバドロボーの食べるものがない。
こうして怒った怪獣ハカバドロボーは、夕飯のいい匂いがする方角に向かって移動することとなった。
行き着いたのはネオ・オーミヤ団地。ノンカやブルの家のあるノースタウンの隣の団地だった。
怪獣ハカバドロボーは、ネオ・オーミヤ団地に踏み込むと、家々の屋根を剥ぎ取り、出来たばかりの暖かい夕食を食べまくった。
総武線に揺られ、市営バスにを乗り継いで遠方から帰ってくるお父さんたちの晩酌のおつまみまですべて食べ尽くす悪逆非道な行為に、町のおかーさんたちの堪忍袋もついにその緒が切れた。
そして町のおかーさんたちは、ネオ・チシロ小学校の校庭のど真ん中に屹立する、正義の味方メカ・ヌマオに退治を要請したのだった。
メカ・ヌマオならきっと、怪獣ユウハンドロボーを退治してくれるに違いない。
ちなみにこの怪獣はしでかしたことによって逐次名前が変わる。
要請を受け、いや、最近皆の期待をその身にひしひしと感じる正義の味方メカ・ヌマオは、言われるまでもなく出動した。
「メカ・ヌマオ発進!」
ジュンギの号令が掛る。
「「「「「「ラジャー」」」」」」
こういうときは必ず言う台詞で全員で呼応する。
ズシーーーン。
一歩目の足音が校庭の隅の希望ヶ丘に反響して校庭に響き渡る。
この一歩目が難儀だった。
まずパイルダーのジュンギが前に進むのを想像する。
すると頭ごと少しだけ前に動いて姿勢が前傾する。
次に右足のパヤが倒れないようにと想像する。
右足が前に出て足が一歩踏み出される。
同時に左手のナオキが、姿勢を保とうと想像すると、
左手が前に振られる。
そして……。
気の遠くなるような連続動作を繰り返して、怪獣アサメシドロボーの前に立ち塞がったのは、
ジュンギの号令から2日後の昼だった。
「よし、みんな攻撃開始だ! 覚悟しろアサメシドロボー!」
「あーあたしのお昼ご飯がー!」
怪獣アサメシドロボーは、ちょうどそのとき民家の屋根に手を突っ込んで、レトルトパックのボンゴレソーススパゲッティーをすすっていたのだった。
「もとい! ヒルメシドロボー!」
敵の名前を間違えるなんて、なんかかっこ悪い。
と思ったのはジュンギだけではなかった。
「今度からもう少し早く歩けるようにしようよ」
肛門担当のうんこヨージが言った。
「肛門の締め付けが悪いから遅いんだ!」
と言ったのは、臍に乗ってベルトパッチンを繰りださんと想像していたピロだった。
それは搭乗する小学男子全員の思いだったが、みんな自分の持ち場の想像で忙しく声に出して言うことは出来なかった。
確かにメカ・ヌマオは一歩前進するたびに屁をこいた。
ドシーーーン、ブーーーー。
力が抜けて様にならなかった。
なぜ屁をこくか。
それはヨージがそうだったからだ。
ヨージは緊張するとお腹がいたくなる子だった。
きゅるきゅる鳴ってやたらおならが出る。
最悪の時はうんこを漏らす。
それが小学校の入学式に起こってしまったのはすでに述べた。
出動の時のヨージはいつも極度の緊張をしていて、
「お腹いたーい。おなら止まらなーい」
と想像していた。
だからメカ・ヌマオは歩くたびに屁をこいたのだった。
そんなヨージを肛門に配置したのはジュンギだった。
みんなのように前向きの搭乗位置ではヨージの緊張が極限に来てしまう。
そうなったらメカ・ヌマオは歩くたびに○○○○○○○(自粛)だろう。
それを懸念したのだった。
「キーチャン。キックだ」
ジュンギの指令が飛ぶ。
キーチャンは素早く反応して、左足を前に突き出す想像をする。
それに伴って全員で平行を保つための想像をしてメカ・ヌマオが倒れないように腐心する。
1発目が怪獣ヒルメシドロボーの顔面を捉えた。
ボンゴレスパを口から激しく吐き出しながら上体をのけぞらせている。
次の攻撃のチャンスと思ったが、みんなの想像が勢い余ってメカ・ヌマオは後ろを向いてしまっていた。
ジュンギの次の号令は、
「アオチとニシマキ、下を見ろ!」
言われるままに二人は地面を見るための想像をする。
全員がそれに従うのはさすがネオ・チシロ小学校の両首領だ。
メカ・ヌマオは瞬時に前掲した。
その時、乳首の穴から地面を見たノンカが何かを見つけた。
「あれはなんだ?」
もう片方の乳首のブルがその声に反応する。
「エロ本の山だぞ。お宝発見!」
当時のバーチー郊外の草むらには、中学生のお兄さんたちが、お母さんに見つかって捨てさせられたエロ本がいたるところにあったのだ。
「ネオ・ゴローだ」
「おい、あれは洋物のネオ・ペントハウスじゃないか?」
夢中で地面をのぞき込む小学男子たち。
さらにメカ・ヌマオの上半身が下を向いてゆく。
そうするうち怪獣ヒルメシドロボーが体勢を立て直した。
メカ・ヌマオを敵と認識してすごい形相でにらみつけてくる。
そしてその真っ赤に充血した悪魔のような眼に晒されたのは、唯一正面をむいている肛門担当のうんこヨージだった。
メカ・ヌマオの上半身が下向きになって尻を突き出す形になったからだった。
ヨージの緊張が最高潮に達した。
次の瞬間それは起こった。
メカ・ヌマオの○○から○○○が大量噴射! (お昼どきなので自粛)
怪獣ヒルメシドロボーの顔面が○○○だらけになったのだった。(お昼どきなので自粛)
そしてあれだけ勢いのあった怪獣ヒルメシドロボーは悲鳴を上げながら地中に逃げていった。
「「「「「よっしゃー! また勝利ーーーー!」」」」」
小学男子全員が歓声を上げた。
あの怪獣ヒルメシドロボーを一瞬で撃退したのだった。
今回の決め技もまた小学男子たちの連携がますます磨きが掛かってきていることを証明した。
「見たか! 俺たちのコンヴィネーション!」
最近はそんな難しい台詞も言えるようになった。
ネオ・チシロ小学校の校庭に戻ったメカ・ヌマオ。
小学生男子たちはそれぞれでくつろぎの時間を過ごしていた。
そんな中、ジュンギだけはパイルダーに乗ったまま作戦記録をつけていた。
そこにノンカが現れて話しかける。
「ジュンギ。やっと王選手のホームラン記録に並んだね」
「これで868勝か。よく戦ったよ、俺たち」
「僕たちさ、そろそろ世界の救世主って言っていいよね」
「ああ、いいと思う。いや、とうの昔にそうなってる」
「長かったね」
「ああ、長かった」
「でもこれ、いつまで続くのかな」
「俺たちの頭の中から怪獣がいなくなるまでだ」
「本当にいなくなるのかな」
「いつかな」
メカ・ヌマオが起動してからすでに60年が過ぎようとしていた。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
まいど汚い話で申し訳ございません。
でもこれは小学生男子の想像の世界の中なのです。
あたたかい目でみていただけるとありがたいです。
メカ・ヌマオが起動してから60年。
その間、ずっと中に閉じ込められたままの小学男子たち。
悪夢は続きます。
今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。
真毒丸タケル