第34話 <24ガオー

文字数 2,407文字

 マレーバクはマイハマ鉄道橋を渡り、マイハマの駅頭まで海斗を連れ去った素魂喰いを追いかけて来たのだったが、そこで見失ってしまった。

「まあいいわ。このままジャンクヤードに帰って親方に報告した方が早いわね」

と言って、マイハマ駅前の大通りを駆け出した。

この大通りはネズ男爵ランドの境に沿って数百メートルの直線になっている。

ところがなかなか進まない。

マレーバクが走るのが苦手ということはもちろんある。

だがそれだけではない。

とにかく道が悪い。舗装はしてある。

その昔、南カルフォルニアをイメージしたとかで街路樹に棕櫚の木を選んだ。

棕櫚の木の皮は剥がれやすく風が吹くだけで道に落ちてくる。

掃除する者がいなくなった今、それが道を覆い尽くして足が取られて走りにくいのだ。

 ようやく突き当りまできた。

正面にオカモト爆発タロー画伯の巨大なモニュメントがデンと構えているのが目に入った。

マレーバクは思う。

「なんで、こんなのが置いてあるのかしら、だって」

白長(しろなが)ウ○チが寄り合って立ち、幾つもの緑の人型ウ○チが躍動してるからだ。

ゲージュツがわからない宿狼にはウ○チにしか見えないが、実はそれはネオカンサイ大万博公園の「タイヨーの塔」に並ぶ、オカモト画伯の代表作なのだった。

一つオカモト画伯の意図とは異なることがある。

オカモト画伯のこのアートに込めた思いは、マイハマ駅前の直線道が長大なエントランスとして機能し、すべての人の流れをその先の運動公園へ誘うゲートキーパーとなるというものであったはずだ。

ところが建設後にネズ男爵のモノレールがその直前を横切るようになって白長ウ〇チと重なり、オカモト画伯の志を超えて、あたかも純白の鳥居のようになった。

奇しくも二人の天才がここで共演を果たしたことになる。

そんなことはマレーバクに言ってもしようがないことなのだが。

 マレーバクはウ○チ、もといモニュメントを左に折れて、ジャンクヤードを目指す。

さらに行くと左手に丸い巨大なガスタンクが見えてきた。

鉄道高架橋にかすってるんじゃないかって程の近さである。

こんな街中にどうしてと思うが、もともとここら一帯は鋼鉄団地という産業オンリーの番外地だったので突然こんなものがあっても不思議でないのだ。

ここまでくれば右手にリンカイの海が望めるはずだ。

巨大倉庫群がその間口を突き出す先に、場違いなヨットハーバーがある運河。

潮が引いた川岸をカピバラさんほどもあるドブネズミがドッタドッタと走っているのを見かける、人口のどぶ川。

そして、ネズ男爵リゾートのあるマイハマ島をシンウラヤスと分断する水堀。

ミアケ川だ。

そのミアケ川に架かるデンペイ橋をマレーバクが渡ろうとした時、倉庫の向こうから爆音が響いてきた。

ちょうどそこは鋼鉄団地を割って走る幻の第二ワンガン計画道路跡地のあたりだった。

「戦いが始まったのね」

マレーバクは鉄道高架橋の下、鋼鉄団地の真ん中へ急遽舵を切ったのだった。

 マレーバクの視線の先には低い護岸が見えていた。

その向こうはススキが生い茂る空き地なのだが、地面はアスファルトで舗装してあるおかしな場所だ。

舗装してあるのはそこが道路になるはずだったからで、さらに言えば一度も使用されたことがないのでススキが生い茂っているのだった。

いや、一度だけ使われたことがある。

それは、大災疫前のまだこの国が平和であったころ。

アイドル全盛期、争いが激化する中、ウ○チをコンセプトにしたグループが誕生した。

そのアイドルグループはウ○チのポーズで活動を行っていたが、その歌や踊りのパフォーマンスは群を抜いて一等賞だった。

実は、そのアイドルたちのデビュー曲「星がまた来る夜に」のMVの撮影現場がここ、幻の第二ワンガン計画道路跡地だったのだ。

彼女たちはそのMVでもウ○チまみれ、ザーメ〇まみれで歌い踊った。

ネズ男爵リゾートの近く。

ロケーションとしてはそういう場所なのだが、MVの中では鋼鉄団地の倉庫に遮られてかろうじて見えていない。

そして、見えていないものがもう一つある。

それは彼女たちの輝ける将来だ。

そののち彼女たちが、レコ大受賞、連続コーハク出場歌手となり、米国ビルボードのランカーになるのは周知の事実である。

 あだしごとはさておき、マレーバクは護岸をよじ登ってそのススキの中を覗いてみた。

マレーバクが予想したのは、くるみVS張能サヤ&坂倉アイルの激闘だった。

しかし、そこにいたのは、アスファルトから生え出た深黒の杭に、全身を貫かれて身動きが出来なくなっている、

坂倉アイルだった。

ぐったりとうなだれ、生きているのかすら分からない状態だ。

「アイルよ。おま、乙女すぎるのよ」

横にいるのは、先日カサイリンカイ公園でマレーバクを捕えた黒髪の黒セーラー服少女、張能サヤだ。

話しかけているとしたら、やっぱりアイルは生きてるのかもしれなかった。

「仲間割れ?」

マレーバクはきょろきょろを周囲を見回した。

「くるみはどこかしら?」

と思った瞬間、目の前にキラッキラのデコ長槍が突き刺さった。

「そこのバク、覗き見してんな!」

おそるおそる視線を上げると、向かいの倉庫の上に見覚えのある恰好をした吸血鬼がいた。

「やば、あれはやばい」

吸血鬼邂逅協会で初めて夜野まひるを見かけた時と同じ反応がマレーバクの心に蘇ってきたのだった。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今回は、マレーバクの目を通したマイハマ案内でした。

マイハマはネズ男爵リゾートだけではないのです。
オカモト爆発タロー画伯のモニュメント。
「星のまた来る夜に」MVの撮影現場。
一度訪れてみられてはいかがでしょう。


今年も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。

真毒丸タケル
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