第67話 <6ガオン

文字数 2,520文字

 ジュンギはノンカの家から帰ると自室に籠もって捜し物をした。

「たしか、ここにまとめて入れたはックション」

そう言って、押し入れに潜り込み奥の奥にある段ボールを引っかき回していた。

「これじゃないな。これでもない。お、懐かしーの出てきた。ガンモドキのプロトキャラックション」

と手にした画用紙を一枚一枚調べていくのだった。

「あった。『すずめのお宿』。これだックション」

ジュンギは埃アレルギーなので、いちいちくしゃみが出るのをこらえてやっと目的のものを見つけ出し押し入れから出て来た。

部屋の中は赤色灯が回転していて真っ赤な色に染まっている。

ブブーーー。

まず、鼻をかむ。

ジュンギは手にした一枚の画用紙を両手で広げて独り言つ。

「俺が小3の時に図工で作った紙芝居だ」

その絵に描かれているおばあさんの姿は、

頭はタオルケットでターバンを作り、上から下まで土で汚れた野良着に、赤い鼻緒の黒下駄を履いている。

体型はずんぐりとしていて、大きな腹ばかり目立ち、胸、腰の区別はなかった。

そして竹林でクワを抱えてスズメを追いかけ回していた。

「これをみんなの前で発表したときの反響はすごかった。とくにばあさんキャラにみんなが恐怖してなんて名前だと聞いてきた。その時咄嗟につけたのが『ヌマオ』。だからヌマオなんてもともと俺が作ったキャラなんだ。それがなんで今になってボーヤツでガキを襲いまくってる?」

ジュンギは何かがおかしいと思ったのだった。



 次の日のお昼休み、ジュンギは学校の屋上にいた。

そしてその目の前には二人の首領、アオチとニシマキだ。

二人は直接戦ったことはなかった。

お互いの力量はおおよそ見当がついているので、戦うことを避けて来たからだ。

「どっちかが死ぬ」

そう思い合っていた。

「二人に頼みたいことがある」

そっぽを向いて憮然と佇む二人にジュンギから語りかけた。

「なんだ?」

まずアオチがジュンギに顔を向けて反応した。

ニシマキはまだそっぽを向いたままだ。

「協力してヌマオを捕まえて欲しい」

それにはさすがのニシマキもジュンギに顔を向け、

「やっつけるんじゃなくて捕まえるのか?」

と聞き返してきた。

アオチにしてもニシマキと同じ気持ちだったようなのだが、ニシマキが先に言ったために黙ったままだった。

「そうだよ。捕まえてゲロをはかせる。ヌマオは喰ったものを消化せずに3ヶ月は腹の中に留め置く。その前にみんなを助けるんだよ。でもヌマオが死んだらそれもおじゃんだ」

とジュンギは言った。

「ジュンギ、なんでそんなこと知ってる?」

とアオチが聞いた。

それはもちろん自分の作ったキャラだからだが、

「なんでかな?」

としらを切るジュンギだった。

それを聞いてまだ渋っている二人にジュンギが言った。

「アオチのところは、ずいぶんとやられたよな。トッカン、ゲロジ、パヤ、ピロにウンコヨージもか。ニシマキのところは、ノンカとブル。ブルの今の所属は知らない。だがニシマキにとっては今も仲間だろ?」

名前を挙げられて改めて犠牲の多さに驚く二人だった。

二人はお互いを顔を見合っている。

そしてニシマキが言った。

「こっちはもともと小勢力だ。ノンカとブルが抜けただけで痛い。あとはカッちゃんとナオキがいるが女の子にはもててもケンカは弱い」

続いてアオチも、

「うちも兵隊といえるのはオサルとキーちゃんぐらいだ。のこりはケンカなんか出来る奴らじゃない」

それを聞いてジュンギが言った。

「もうそろそろ、大将の出番なんじゃないの?」

すると今度はアオチのほうが、

「そろそろな」

と言った。それにはニシマキもおくれじと、

「まったくだ」

と言ったのだった。

 こうして、ジュンギはアオチとニシマキ、ネオ・チシロ小学校生の2首領を引っ張り出すことに成功する。

そして今夜、アオチ&ニュータウン連合のヌマオ捕獲作戦が実行されるのだった。



 ジュンギは作戦を立てる前にヌマオの現状を考えた。

ヌマオは捕食した者の属性を我が物とする性質がある。

これはスズメを食べたばあさんが羽を生やして空から村を襲うというジュンギ版『すずめのお宿』のストーリーに則ったものだった。

そこから小学男子を捕食してその属性をため込んでいると見て取れる。

ピロのベルトバッチン。

ヨージのウンコたれ。

トッカンの突進力。

ゲロジのゲロ噴射。

パヤの俊足。

ブルの狡猾さ。

ノンカの大嘘つき。

中には役に立ちそうにないものもあるが、これらを併せ持つ現在のヌマオはほぼ無敵だった。

しかし、ジュンギは臆することはない。周到な作戦が出来上がっているからだ。



 作戦決行の日が来た。

アオチ勢とニュータウン勢の面々に対して的確に作戦指示をして行くジュンギは名軍師そのものだった。

「アオチとニシマキは手下にロープを竹藪中に張り巡らさせてくれ」

と二人に指示を与える。

「「で、俺たちは何をする?」」

ジュンギは二人を見比べて、

「ヌマオが出てきたらとにかく動きを封じてほしい」

と言ったのだった。

ヌマオは身長が2m以上ある。

アオチもニシマキもガタイがいいとは言え、まだ小学生だ。

その体格差は一目瞭然だった。

だが、そんなことにひるむ二人ではない。

「それだけか?」

訝しげにアオチが言った。

「俺は戦いに来たんだが」

息巻いたのはニシマキだ。

「まあ、それが一番ヌマオに効くんだから」

とジュンギはアオチとニシマキを宥めて配置につかせたのだった。

 時計はすでに夜の12時を回った。

竹に張り巡らされた幾本ものビニール紐。

そのビニール紐の袂で息を潜のんでヌマオの出現を待つ小学男子十数名。

ゴクリ。誰かが唾を呑む音が聞こえてくる。

そんな竹藪を満月が明るく照らし出した。

小学男子の紅潮したほっぺに生臭い風が吹き付けてくるのももう間もなくだった。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

天才少年ジュンギは気付きました。

どうやらヌマオは自分がつくったキャラクターだと。

ついでにそいつの正体も分かったようでした。


今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。

真毒丸タケル
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