第70話 <9ガオン

文字数 2,606文字

 白金に輝く高さ30mの巨大なメカ・ヌマオがネオ・チシロ小学校の校庭にそそり立っていた。

それを見上げる小学男子たち。

「これどうやって動かすんだ?」

アオチが言った。

「きっと操縦ボックスで命令するんだよ」

とトッカンが答えると、

「それじゃあ、鉄人28号だろ」

とアオチが突っ込みを入れた。

ほとんどの小学生男子がそんな鉄人のことは知らなかったので二人のやりとりは風の彼方に消えていった。

「スマフォで動かすんじゃね?」

と言ったのはブルだった。

まっとうな意見だったが当たり前すぎて誰の心にもひっかからない。

「いや、プラグスーツ着てエントリープラグに乗るんだよ」

小学男子たちは、何でも「シン」をつけて自分のもの化する監督のロボットアニメを思い浮かべた。

「エントリープラグをどこにどうやって入れるんだよ」

とニシマキが言った。

見た感じでは背中に装着用の穴も、挿入用の装置もなさそうだった。

「「「「おい、ジュンギ。おしえろよ」」」」

業を煮やしてみんながメカ・ヌマオの設計兼制作者のジュンギに聞いた。

ジュンギは後ろ手を組んでみんなの前を行ったり来たりしたあと、

「乗り込むんだ」

と言った。

「どこから?」

ノンカが目をキラキラさせて聞くと、

「かかとから」

とジュンギがメカ・ヌマオのかかとのあたりを指し示した。

一斉に小学男子の視線が注がれたメカ・ヌマオのかかとには、ちょうど小学生が通れるぐらいのドアがあった。

「よし、行こう」

と喰い気味に駆けだしたのはトッカンだった。

「待てよ」

それを声で制したジュンギは、地面にメカ・ヌマオの立面図を描き出した。

そして、

「まず、担当部署を決める。乗り込むのはそれからだ」

ジュンギは早く乗り込みたくて待ちきれない小学男子を見回して、

「右ひざ! パヤ! 足を操縦してくれ」

「左ひざ! きーちゃん! 前同」

「へそ! ピロ! 必殺ベルトバッチンは任せた」

「右ひじ! カッチャン! 左ひじ! ナオキ! そのモテテクで手懐けてくれ」

「右乳首! ブル! 左乳首! ノンカ! おまえらは心臓だ」

「首! トッカン! タックルは首が命」

「口! ゲロジ! ゲロジ噴射をたのむ」

「鼻! オサムくん! 特になし」

「右目! ニシマキ! 左目! アオチ! 敵を睥睨してくれ!」

「以上!」

すると名前を呼ばれなかった小学男子が一人、おずおずと手を上げて、

「あのー、ぼくは?」

と言った。

「あー、ヨージ。あとでこっそり言うつもりだったが、今言ってもいいか?」

「できればみんなと一緒がいい」

「そうか。なら言うぞ」

固唾を飲んで見守る小学男子たち。

そしてジュンギが叫ぶ。

「ヨージは肛門だ! うんこヨージだけに!」

やんややんやの歓声が校庭に響き渡る。

「うんこヨージ。うんこヨージ。うんこヨージ」

かくも小学男子のたった一度の失態は生涯に渡ってこびりつくのだった。

「よし!乗り込め!」

アオチの号令とともに一斉に小学男子がメカ・ヌマオに乗り込み始めた。

しかし、ジュンギだけは静かにその場を離れ体育館へ向かったのだった。

 そえぞれの配置についた小学男子たち。

「おーいジュンギ。スイッチはどこだ?」

「本当だ。スイッチがないぞ」

「座ってるだけじゃ戦えないぞ」

「操縦桿さえないじゃないか」

小学男子たちが大騒ぎし出す。

みんながよってたかってそれぞれの持ち場で騒ぐものだから、30mの白銀の巨体がぐらぐらと揺れだす始末だ。

そのときだった。

体育館の天井が二つに開いた。

校内放送が軽快な音楽を流し出す。

ダラダッダダラダラダダッダ!ダ!ダダッタ!

体育館の中からゆっくりと上昇して来たのは、銀色の一人乗りドローンだった。

ドローンの天井には警察の使う警戒灯が回転して、

操縦席にはジュンギが乗っていた。

それぞれの持ち場からそのドローンを目撃している小学生男子たち。

唯一後ろ向きのヨージだけは見られなかった。

ドローンがメカ・ヌマオの頭上に来ると

とぐろを巻いたタオルケット型の頭頂がこれまたぱっくりとふたつに割れた。

そしてドローンはその中にすっぽりと収まって、

「パイルダー・オン!」したのだった。

こうしてメカ・ヌマオはネオ・チシロの地に大本吸血鬼? の一人として立ったのだった。



 ネオ・トウガネ街道を真新しいバイクで進むのは京藤くるみ一行だ。

その左右には、ガオくんこと佐々木海斗と素魂喰いの高梨ダイゴが付き従っていた。

「なんか、向こうの方にまぶしい建物が見えますね」

ガオくんがくるみにご注進だ。

くるみが言われた方を見ると、ケヤキが生い茂る丘陵の中にひときわ目立つ銀色のものが輝いていた。

「なんだあれは?」

目をこらしてもよくわからない。

人の顔のようでもある。牛久大仏とか高崎観音とかの類いかもしれない。

しかしあんな巨大なモニュメントがこの地にあるなどくるみは聞いたことがなかった。

「行ってみよう」

さっそく好奇心をかき立てられてそばまで行ってみることにした。

しかし、ネオ・トウガネ街道からその銀色の建造物へ行く道が見当たらない。

少し戻れば小道があったかも知れないがくるみに戻る気など無かった。

となると田んぼの中を突っ切るしかなさそうだ。

くるみはバイクの車体を銀色の建造物へ向けて前ブレーキを握ると、アクセルを目一杯開けた。

狂気のごとく回転する後輪。

もうもうと煙が上がりゴムの焼ける匂いが当たりを覆い尽くす。

そしてくるみがブレーキを離すと、

ドッカーーーーン!

クルミのバイクは稲穂が首を垂らす田んぼの上面をロケットのようにすっ飛んで行ったのだった。

それに続かんとガオくんとダイゴも

ドッカーーーーン!
ドッカーーーーン!

だが、くるみほどバイクの運転がうまくない二人はすぐさま、田泥の中に突っ込んでしまった。

「くるみさーーん」

泥だらけになったガオくんが、遙か彼方を去って行くクルミのバイクに向かって叫ぶと、

「ののか呼んどけー!」

とくるみから返事が返ってきたのだった。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

メカ・ヌマオが動き出しました。

そしてようやくくるみたちとの対決の時です。

はたして、星形ミイはここにいたのか?

小学生男子たちとの関わりは?

それは次回で。



今後とも『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくお願いします。

真毒丸タケル

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