第15話 <5ガオー
文字数 2,586文字
吸血鬼邂逅協会は、吸血鬼同士の出会いをプロヂュースするがデート場所も提供するということだった。
このVIPルームの頑強な造りもそれが理由で、事務所に来た吸血鬼同士を不用意に近接させてしまって、いきなり戦闘などということにならないための用心だった。
先ほどの大袈裟な処置も、双子の姉妹とは言え戦闘吸血鬼同士の二人なるが故だ。
戦闘吸血鬼同士を一緒にしようものなら、半径数キロが戦闘による破壊に見舞われかねないからだ。
くるみは一通りプランの説明を受けたが、そもそも出会いを求めて来たわけではないので、話半分に聞いていた。
どれも興味を示さないのを見て、スーツ姿の女は、
「そうしますと、お客様のプランはこちらになるかと」
と言って別のパンフレットを差し出してきた。
くるみが見るとそれには、
「極秘」
と判が押されてある。
くるみはパンフを手に取り中を確かめる。
「ManStarHunter申込書」
といきなり目に飛び込んできた。
「お客様には資格がございますので」
くるみが戦闘吸血鬼なので、開催の資格があると言っているのだ。
パンフの内容は噂との大きな違いはなかった。
新しい情報は、スター認定が主催者選定だけでなく推薦もあるということだった。
ということは海斗をスター認定したのは、最終的に坂倉アイルかもしれないが、推挙した者が他にいるかもしれないということが予想された。
まあ、アイルが本当に主催者だったとしての話だが。
くるみは今は「マンハン」開催のつもりはないと伝え、
「資料は貰っとくよ」
とパンフを手元に引き取った。
「協会へご連絡いただければいつでも担当が対応いたしますので」
とスーツの女は表情を変えずに答えた。
「マンハン」の仕切りが協会だということは、ずっと噂としてしか耳に届かなかった。
しかし、こうして門を叩いたら意外とあっさり情報が手に入ってしまった。
くるみは拍子抜けしたが、
「なんでこんなにオープンなんだ?」
気がかりなことが無くなったわけではなかった。
帰り際、ロビーを通ると見知った顔があった。
でっかい鼻にちっさい目、丸っこい体をさらに丸めてロビーのソファに座っていた。
「お前、何でこんなとこ出入りしてる?」
くるみは背後から近づき声を掛ける。
「え? あ、くるみさん」
と振り向いて慌てた様子で答えたのは、オオカミの所のマレーバクだった。
この女もまた、直近の前世がマレーバクの宿狼だ。
「まさか、お前も出会いを求めてってんじゃないだろうな。それともオオカミがいよいよ嫁探しか?」
マレーバクには同じ前世マレーバクの仲のいい連れがいる。
「いいえ、私がそんな。イボイノシシさんがちょっと見て来てくれって。自分で行くの恥ずかしいからって」
くるみはイボイノシシとは面識がなかったが、おそらくジャンクヤードの宿狼仲間だろう。
今でこそ、こうして宿狼と親しく話すことが出来るようになったが、以前は旧ネズ男爵リゾートの資材を盗りに来る宿狼とことある毎にぶつかったものだった。
くるみが本気を出したら宿狼など根絶やしにしてしまうから、通常は適当にあしらっていたが、一度だけ大きな戦闘があった。
それは、オオカミの右腕、クイーン・ヌーが一族郎党のヌーたちをかき集めて、大群でゲート前広場に押し寄せた時だ。
もともと孤高の性質を持つ吸血鬼が、大群を忌み嫌うことを心理的に突いた作戦で、この時ばかりはあまりの敵の多さに、くるみは本気の「グラディウス」で、星形みいもエグいラダー(特殊技)で対抗した。
結果、ゲート付近を一部焼亡させてしまったが、クイーン・ヌー一族に大打撃を加え、くるみらの大勝利で終わった。
それ以降、オオカミは旧ネズ男爵リゾートに手をださなくなったのだった。
「そもそも宿狼がなんで協会に出入りできるんだ?」
くるみは、マレーバクに聞いた。
「あれ、知らないんですか? ここ、種別制限なくなったんですよ」
つまり、もはや吸血鬼邂逅協会でなく「何でも」邂逅協会になったということだ。
なるほど、それでゆたかが出入りしていたのか。
くるみはようやく最初の疑問の答えに行きついたのだった。
しかし、真夫のゆたかがこんなところに出入りしてるのをアイルが許すわけもないがな。
くるみはそうは思ったが、アイルがゆたかをお払い箱にしようとしていることなど、知る由もなかった。
そしてその後釜に海斗を据えようとしていることも。
もしくるみがそれを知っていたなら、海斗をスター設定したのがアイルでないことに気付いたことだろう。
なぜなら、新しい真夫をスターにして危険に晒すことなどしなかろうからだ。
さらに言えば、今回の「マンハン」の主催者がアイルでないことも一気に知れたはずだった。
ただ、アイル主催という噂が流れたというからには、血のないところに血煙は立たないわけで、裏で画策している血に飢えた輩がいるのは確かなのだった。
だが、くるみがそれらを全て知るのはもう少し後になる。
マレーバクに別れを告げて、くるみが出口へ向かうと、
「あの、お客様」
と受付の吸血鬼に呼び止められた。
見ると手に茶封筒を持っている。
手渡された中身は、一枚の紙きれだった。
そこに六角形が描かれてあり、右上の一角に×が記されてあった。
「これは?」
「お渡しするよう申し付かりました」
「誰に?」
「申し上げられません」
「……」
夜野まひるだ。
六角形が意味することを知るものは少ない。
世代の早い戦闘吸血鬼の中ですら少数だ。
さらにこの右上の×が表す意味となると、ごくごく限られるのだった。
夜野まひるが、星形みいの居場所を伝えてきた。
善意なのか、何か企んでいるのか?
いずれにしてもこれは重い事態を想定しなければならないことだけははっきりしていた。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
吸血鬼邂逅協会。もはや制限なしの出会い系サークルです。
でも、その裏は何でもやってる魔窟のようでもあります。
夜野まひるが示した図に星形みいの居場所のヒントが描かれていました。
行方知れずになって3か月。
星形みいはくるみのもとにいつ戻って来てくれるのでしょうか?
今後も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。
真毒丸タケル
このVIPルームの頑強な造りもそれが理由で、事務所に来た吸血鬼同士を不用意に近接させてしまって、いきなり戦闘などということにならないための用心だった。
先ほどの大袈裟な処置も、双子の姉妹とは言え戦闘吸血鬼同士の二人なるが故だ。
戦闘吸血鬼同士を一緒にしようものなら、半径数キロが戦闘による破壊に見舞われかねないからだ。
くるみは一通りプランの説明を受けたが、そもそも出会いを求めて来たわけではないので、話半分に聞いていた。
どれも興味を示さないのを見て、スーツ姿の女は、
「そうしますと、お客様のプランはこちらになるかと」
と言って別のパンフレットを差し出してきた。
くるみが見るとそれには、
「極秘」
と判が押されてある。
くるみはパンフを手に取り中を確かめる。
「ManStarHunter申込書」
といきなり目に飛び込んできた。
「お客様には資格がございますので」
くるみが戦闘吸血鬼なので、開催の資格があると言っているのだ。
パンフの内容は噂との大きな違いはなかった。
新しい情報は、スター認定が主催者選定だけでなく推薦もあるということだった。
ということは海斗をスター認定したのは、最終的に坂倉アイルかもしれないが、推挙した者が他にいるかもしれないということが予想された。
まあ、アイルが本当に主催者だったとしての話だが。
くるみは今は「マンハン」開催のつもりはないと伝え、
「資料は貰っとくよ」
とパンフを手元に引き取った。
「協会へご連絡いただければいつでも担当が対応いたしますので」
とスーツの女は表情を変えずに答えた。
「マンハン」の仕切りが協会だということは、ずっと噂としてしか耳に届かなかった。
しかし、こうして門を叩いたら意外とあっさり情報が手に入ってしまった。
くるみは拍子抜けしたが、
「なんでこんなにオープンなんだ?」
気がかりなことが無くなったわけではなかった。
帰り際、ロビーを通ると見知った顔があった。
でっかい鼻にちっさい目、丸っこい体をさらに丸めてロビーのソファに座っていた。
「お前、何でこんなとこ出入りしてる?」
くるみは背後から近づき声を掛ける。
「え? あ、くるみさん」
と振り向いて慌てた様子で答えたのは、オオカミの所のマレーバクだった。
この女もまた、直近の前世がマレーバクの宿狼だ。
「まさか、お前も出会いを求めてってんじゃないだろうな。それともオオカミがいよいよ嫁探しか?」
マレーバクには同じ前世マレーバクの仲のいい連れがいる。
「いいえ、私がそんな。イボイノシシさんがちょっと見て来てくれって。自分で行くの恥ずかしいからって」
くるみはイボイノシシとは面識がなかったが、おそらくジャンクヤードの宿狼仲間だろう。
今でこそ、こうして宿狼と親しく話すことが出来るようになったが、以前は旧ネズ男爵リゾートの資材を盗りに来る宿狼とことある毎にぶつかったものだった。
くるみが本気を出したら宿狼など根絶やしにしてしまうから、通常は適当にあしらっていたが、一度だけ大きな戦闘があった。
それは、オオカミの右腕、クイーン・ヌーが一族郎党のヌーたちをかき集めて、大群でゲート前広場に押し寄せた時だ。
もともと孤高の性質を持つ吸血鬼が、大群を忌み嫌うことを心理的に突いた作戦で、この時ばかりはあまりの敵の多さに、くるみは本気の「グラディウス」で、星形みいもエグいラダー(特殊技)で対抗した。
結果、ゲート付近を一部焼亡させてしまったが、クイーン・ヌー一族に大打撃を加え、くるみらの大勝利で終わった。
それ以降、オオカミは旧ネズ男爵リゾートに手をださなくなったのだった。
「そもそも宿狼がなんで協会に出入りできるんだ?」
くるみは、マレーバクに聞いた。
「あれ、知らないんですか? ここ、種別制限なくなったんですよ」
つまり、もはや吸血鬼邂逅協会でなく「何でも」邂逅協会になったということだ。
なるほど、それでゆたかが出入りしていたのか。
くるみはようやく最初の疑問の答えに行きついたのだった。
しかし、真夫のゆたかがこんなところに出入りしてるのをアイルが許すわけもないがな。
くるみはそうは思ったが、アイルがゆたかをお払い箱にしようとしていることなど、知る由もなかった。
そしてその後釜に海斗を据えようとしていることも。
もしくるみがそれを知っていたなら、海斗をスター設定したのがアイルでないことに気付いたことだろう。
なぜなら、新しい真夫をスターにして危険に晒すことなどしなかろうからだ。
さらに言えば、今回の「マンハン」の主催者がアイルでないことも一気に知れたはずだった。
ただ、アイル主催という噂が流れたというからには、血のないところに血煙は立たないわけで、裏で画策している血に飢えた輩がいるのは確かなのだった。
だが、くるみがそれらを全て知るのはもう少し後になる。
マレーバクに別れを告げて、くるみが出口へ向かうと、
「あの、お客様」
と受付の吸血鬼に呼び止められた。
見ると手に茶封筒を持っている。
手渡された中身は、一枚の紙きれだった。
そこに六角形が描かれてあり、右上の一角に×が記されてあった。
「これは?」
「お渡しするよう申し付かりました」
「誰に?」
「申し上げられません」
「……」
夜野まひるだ。
六角形が意味することを知るものは少ない。
世代の早い戦闘吸血鬼の中ですら少数だ。
さらにこの右上の×が表す意味となると、ごくごく限られるのだった。
夜野まひるが、星形みいの居場所を伝えてきた。
善意なのか、何か企んでいるのか?
いずれにしてもこれは重い事態を想定しなければならないことだけははっきりしていた。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
吸血鬼邂逅協会。もはや制限なしの出会い系サークルです。
でも、その裏は何でもやってる魔窟のようでもあります。
夜野まひるが示した図に星形みいの居場所のヒントが描かれていました。
行方知れずになって3か月。
星形みいはくるみのもとにいつ戻って来てくれるのでしょうか?
今後も『血のないところに血煙は立たない』をどうかよろしくおねがいします。
真毒丸タケル