初詣(21)

文字数 574文字

 やがてエレベーターが動き出して1階につきドアが開いた。世界はごく当たり前の時空で動いていた。

 成沢は私の手を取って歩きはじめた。何も話さなかった。私も何も聞かなかった。

 駅の改札に着くまでずっとそうして歩いてきた。成沢と手をつないで歩いたことなんて今までなかった。

 ホームに上がって電車が来るのを待っていた。成沢がやっと口を開いた。

「怒ってる?」

「ううん。」

 私は首を横に振った。

「びっくりした?」

 成沢がまた聞いた。

「うん。」

 私はこくりと頷いた。

「だよな。俺もびっくりした。」

 私は成沢の顔を見た。自分からキスしておいて俺もびっくりしたって。

「これは?嫌じゃない?」

 成沢は繋いでいる手を目の前にかざした。

「嫌じゃないよ。全然。」

 私は言った。嫌なわけない。

「でもどうして・・・」

 私は言いかけて聞いてはいけない気がして急に黙り込んだ。

「うまく言えないけど。」

 成沢は言った。

「アイツの前で見せつけてやろうって思ったんだけど。止まんなくなって。」

 成沢は急にすごく真面目な顔で私を見た。

「酔った勢いじゃないよ。」

 私は頷いた。成沢は急に笑い出した。

「やっぱり酔っ払ったのかな?お前が可愛く見えるなんて。」

 私は成沢をキッと睨んだ。

「嘘。冗談。酔ってはいない。本当に始めはアイツに見せつけてやろうと思ってたんだけどいつのまにか本気になってた。」
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