私の知らない彼(10)

文字数 764文字

「知らないと思うけど、勇輝もモテるから、あれで結構浮気者よ。今回が初めてじゃない。でもあなたみたいな・・・なんというか、格下?そういうのは初めてかも。笑える。」

 これ以上我慢出来なかった。ひっぱたこうとしても手が震えて出来なかった。
 私はがたんと立ち上がった。

「まだ話は終わってない。」

 彼女は私の腕を乱暴に引いて私を強引に座らせた。隣の席のカップルがちらちらとこちらを見ていた。

「私のこと勇輝から聞いてる?」

 何でもない知り合いみたいな言い方だった。

「勇輝が言うわけないか。自ら傷に触れるわけないか。」

 自問自答のように言って笑った。

「そうだよね。勇輝もショックでどうかしちゃったのかも。私のせいだわ。目を覚まさせなきゃ。」

「何言ってるの?」

 やっとのことでそう言った。

「知ってる?知るわけないか。かっこ悪いもん、勇輝が言うはずない。勇輝、私がほかの男に取られるんじゃないかって心配して、会えないと頭がどうかなっちゃいそうとか言ってわざわざ今の家に引っ越してきたの。私の家の近くにね。」

 彼女は近所に住んでいるらしい。ゾッとした。動揺が顔に出るのを隠せない気がした。

「知らなかった?私も近所なの。駅の反対側。」

 方向を指でさしながら彼女は笑った。

「私がほかの男に取られると思って焦ったんじゃないかな?わざわざ引っ越して来るなんて。」

 楽しくて仕方ないみたいに笑った。

「あの時はちょっと冷た過ぎたみたい。彼、可哀相だった。反省。」

 官能的な唇から真っ赤な舌をチロリと出して言った。

「でも彼許してくれるわ。私から逃れられるはずないの。彼は私が全てなんだから。あんたとのことはきっと私へのあてつけ。そうとしか考えられない。そうじゃなかったらあんたみたいな女、勇輝が相手にするわけない。」

 私は今度こそ彼女の頬を思いきりひっぱたいた。
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