雨上がりの海(9)

文字数 523文字

 勇輝は私の背中を抱いて髪を撫でた。

「わかった。」

 そのまましばらくそうして静かに立っていた。私が落ち着くまで。

 勇輝は私の手を取ってまた歩き始めた。

「でも。」

 勇輝が口を開いた。

「優にわかってくれとは言わない。でも・・・」

「何?」

「俺と早紀とあいつ。」

「あいつ?」

「早紀の恋人。あいつとは昔からの知り合い。最初は仲良かったんだけど。みんな。」

 勇輝は顔を上げて太陽を仰いだ。懐かしむような眩しいようななんとも言えない表情。

「友達だったんだね。」

「うん。」

 過ぎた日を懐かしむようなその表情がすごく遠く感じて切なくなった。

「優にしてみればだから何?だよな。優には関係ないことだし。」

 私の気持ちを代弁してくれたつもりの台詞らしかったが私はその言葉にちょっと傷ついた。

 私には縁のない勇輝と彼女とその人の関係。私には入りこむ隙のない完結した世界。

 私は入っていけないのにその世界は確実に私と勇輝の間を侵略してきて私に脅威を与えていた。

 勇輝もそれがわかっているから私を傷つけることを恐れたんだろう。

 傷つくかもしれない・・・

 でも勇輝がいなくなることには耐えられない。

 だからこの手を離したくない。離さない。

 私は繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。
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