私の知らない彼(5)

文字数 547文字

 言葉が出てこなかった。黙ったまま彼女を凝視した。目は逸らさなかった。

 彼女もまた私をじっと見つめたまましばらく口を開かなかった。綺麗だけれど気性が激しそうな強い目が燃えていた。

 紛うことない敵意。こんなふうに睨まれる筋合いはないはずだ。私と付き合うにあたって彼女とはきちんと別れているはず。

 なのにこの剥き出しの敵意はどういうことだろう。私もその強い目に怯むつもりはなかった。

「なんですか?」

 私から口をきいた。

「勇輝の家に来たのよね?」

 彼女も一歩も引く様子はない。

「勇輝って。私の彼のことですか?馴れ馴れしく呼んで欲しくないけど。何か?」

 私も負けるつもりはない。

「ちょっと話さない?」

 彼女は有無を言わさない調子で言った。

「私は話すことなんかないです。」

 私は突っぱねた。

「私にはあるの!」

 ちょっとヒステリックに声音を上げて彼女が言った。

 私は無視して部屋番号を押そうとした。私の手をまた彼女が掴んで邪魔した。

「ちょっと!止めてよ!」

 私も声を上げた。

「だから話があるって言ってるでしょ!勇輝のとこには行かせない!」

「あなたにそんなこと言われる筋合いはないけど。」

 平手打ちしたい気分だった。

「勇輝といたの。」

 彼女が勝ち誇ったように言い放った。

「私、昨日から勇輝と一緒にいたのよ。」
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