私の知らない彼(12)

文字数 465文字

 突然スマホが鳴り出して現実に呼び戻された。勇輝だった。

「寝てたよ、ゴメン。今どこ?まだ家?」

「下。」

「下?下って俺ん家?」

「うん。」

「何やってんの?上がって来いよ。」

「開けてくれる?」

「え?」

「エントランス。」

「鍵は?」

「鍵・・・そうだね。鍵で開ければいいのか・・・」

「大丈夫かよ?まだ寝ぼけてるの?起きてる?」

「今行く。切るね。」

「うぃ。」

 電話を切りながらバッグから鍵を取り出して開けた。階段を一段ずつ上がりながらまだぐずぐずと引きずっていた。

 そんな簡単に気持ちの切り替えなんて出来ない。やっぱり今あったことを全部話してわだかまりを解いたほうがいいのか。

 ドアホンを鳴らす時もまだ迷っていた。決心のつかないまま立っていた。勇輝に会うのが怖い。

 ガチャッと音がして目の前のドアが開いた。ぶつかりそうになって慌ててよけた。

「ああ・・・」

 びっくりして思わず声が出た。

「遅いから見に行こうかと。何やってんの?入れよ。」

「うん。」

 勇輝は私をいぶかしむように見ながら玄関に招き入れドアを閉めた。私は黙って靴を脱ぎリビングに入った。
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