帰り道(5)

文字数 566文字

「なんとかセーフかな?」

 成沢は「23:02」というデジタル表示を見ながら言った。うちのマンションのエントランスの脇だった。

「大丈夫だよ。全然。」

 私は言った。今朝ここを出発したのは半日以上前だ。ずいぶん密度の濃い1日だった気がする。

「ありがとう。運転疲れたでしょ。すごく楽しかった。」

 実際疲れたけれど楽しかったのは本音だ。

「クルマ好きだから運転は苦にならないよ。渋滞もなかったし。」

 成沢は後ろを向いてバックシートから紙袋を取って私に寄越した。次兄の店で渡された土産だった。

「はい、これ。」

「ありがとう。」

 私はシートベルトを外してドアに手をかけた。

「本当に今日はありがとう。また・・・」

 また来年、と言おうとした。

「あのさ、初詣行かない?」

 成沢が私を遮って言った。

「え?」

「初詣。」

「いいけど・・・」

 正直若干戸惑っていた。成沢は何故私を誘うのだろう。

「家族で行くとか?それかなんか予定あるとか?」

 私の歯切れの悪さを感じたらしく成沢が聞いた。

「ううん、予定はない。いいよ。行こう。」

 成沢と初詣に行くのに異存があるわけではない。もちろん2つ返事でOKだ。

「じゃあ大晦日の夜から行こう。電話する。」

「うん。わかった。じゃあね。ありがとう。」

 車を下りて小さく手を振った。

「おやすみなさい。」

 成沢も軽く手を振って走り去った。
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