秘密(16)

文字数 534文字

 駅を降りて家に向かって歩きはじめた。

 (勇輝はもう帰ってるかな?)

 勇輝の家の曲がり角でそう思ってちょっと立ち止まった。カーテン越しに明かりが洩れている。部屋にいるらしい。

 良心の呵責を感じた。勇輝の事が大好きなのにたった今ほかの男と会ってきた。

 (何してるんだろう?)

 今から勇輝に会うつもりはなかったけれど何となく角を曲がって勇輝の家に向かって歩き出した。

 (やっぱり帰ろう。)

 思い直して踵を返そうとした次の瞬間、勇輝のマンションの入口から人が飛び出してきた。

 びっくりして目を上げた。彼女だった。呆然としている私を見て彼女がゆっくりと表情を変えるのがわかった。

 泣いていたか怒っていたかのような表情から満足げな面白がるような表情へ。

 追いかけてきたような足音が聞こえて視線をずらすと動揺した顔の勇輝が立っていた。

「優・・・」

 勇輝が口を開いた。
 言葉が出てこなかった。彼女がなんでいるんだろう?やっぱり彼女の言う通り、まだきちんと切れてないの?

 涙がじわりと沸いてきた。何も言えないまま勇輝の顔を見ていた。耳の中でこの前の彼女の言葉が甦る。

「すごく面の皮が厚いのね。大人しそうな顔して。」

 彼女が私に言った。

「今ほかの男とホテルから帰ってきたばかりでしょ。」
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