ご褒美(7)

文字数 585文字

「花見はまだ来週くらいかな?」

 通勤電車の中で勇輝が言った。

「そうだね。今週末はまだでしょう。今日寒いし。」

 車内は暖かいが外はスプリングコートでは寒かった。

「どこに見に行こうか?」

「近場で穴場とかないのかな?あんまり混んでるとこは嫌だな。」

 身動きもままならないほど混んでいるところでは風情もあったものではない。

 夜中に別れてからまだ数時間。電車の程よい揺れが寝不足の私に眠気を誘う。

 桜の花は好きだが私はこの季節があまり好きではなかった。寒かったり暖かかったりで服装もなかなか決まらない。

 日中はぽかぽかしているのに夜になると急に冷え込んだりする。日が射さない日には雪が舞ったりする時もある。

 今日もそんなどんよりとした寒い日だった。天気予報でも「季節が1ヶ月位逆戻りした寒い1日になりそう」と言っていた。

「支店で花見とかやらないの?」

 勇輝に聞かれた。

「わかんない。有志でやるのかも。勇輝のとこは?」

「うちもそんな感じかなぁ。いつやるんだろ?来週かな。」

 今年の春は手を繋いで桜のドームの下を散歩出来るかもしれない。

 こんなイケメンと桜デート。自慢気にいちゃついてやる。恨めしそうに指をくわえてた去年までの私とはサヨナラ。

 (勇輝は営本でも憧れの的なんだろうな・・・)

 ふと不安が胸を刺した。

 (私みたいな平凡な女。似合わないよな。)

 彼女のことをまた思い出した。
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