私の知らない彼(4)

文字数 515文字

 マンションのエントランスを出たところで勇輝に電話した。さっきメイクしながらかけた時は出なかったからLINEしておいた。

 今もまた出ない。

 (家にいないとか?まあいいか、鍵もあるし。)

 風が無くて比較的暖かい日だった。着てきたモコモコしたジャケットが暑苦しくて野暮ったく感じて早くも後悔し始めた。

 (スプリングコートで十分だったかもしれないなぁ。でも深夜は寒いし。)

 勇輝の家はすぐ近くだったから2人でいるとつい油断して遅くなってしまった。送ってくれるから危ないことはないのだけれど。

 勇輝の家に着いた時、エントランスで念のためインターホンを鳴らしてみようとした。

 合鍵は持っているものの、留守に上がるのは何となくためらわれたから。ちょっと近くに買い物にでも出ているかもしれない。

 後ろに人が待っている気配を感じたので急いで番号を入力した。

 『301』

 部屋番号を押してベルのマークを押す直前、後ろの人に腕を掴まれて制止された。

「待って!」

 びっくりして振り向いた。とっさに言葉が見つからず相手を凝視した。

「あっ・・・」

 その顔に思い当たってぎょっとした。勇輝の元カノにちがいない。忘れようにも忘れられない印象的な目。間違いない。
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