雨上がりの海(8)

文字数 561文字

「違うよ。」

 勇輝は私の手を取って自分の手を重ねた。そのまま立ち上がった。

「ちょっと歩こう。」

 勇輝に手を引かれるまま砂浜を歩き出した。足が砂にはまって歩きにくい。

 波打際の近くまで下りていって歩いた。

「裸足の方が気持ちいいかな。まだ冷たいかな。」

 勇輝は独り言みたいに言った。水平線の彼方の方はきらきらと太陽があたって輝いて見える。

 切ないくらいに綺麗な空と高い波。胸が苦しい。

「ちょっと気持ちが揺れただけだよ。」

 半歩前を歩く勇輝が立ち止まった。

「でも悪かったと思ってる。辛い思いをさせたって。」

「うん。」

 勇輝が振り向いて私を見た。

「俺達このまま付き合ってていいのかな?」

 一番恐れていた言葉だった。心臓が杭を打たれたようにズキンと痛んだ。

「どうして?どうしてそんなこと言うの?」

 私は勇輝の手を離した。

「勇輝は・・・終わりにしたいの?勇輝は平気なの?私がいなくても平気なの?」

 勇輝は私の目をじっと見つめた。

「そうじゃない。」

 ゆっくりと勇輝は言った。

「ならどうして・・・どうしてそんなこと言うの?」

「優を苦しめる気がする。ボロボロにしそうな気がするんだよ。」

「苦しんでもいい。ボロボロになってもいい。勇輝と別れたくない。」

 勇輝の胸に飛び込んだ。

「別れるなんて言わないで。お願い。勇輝がいなかったら私、私・・・」
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