初詣(23)

文字数 502文字

 電車の中はすごく暖かかったのにすぐに降りなければならなかった。

「うー寒っ」

 ホームに降りるとぶるっと震えた。

「寒い。」

 成沢も言った。

 成沢は私の手を取って確かめるみたいにぎゅうっと握った。何かの合図みたいに。

 2人とも寒くて仕方がないんだけれど同時に高揚感のようなものもあって急ぎ足で歩きながら意味もなく笑いあった。

 神社への道はすでにぞろぞろと歩く人々で緩い行列が出来ていた。

 商店街のシャッターは閉まっているところも多いが初詣客目当ての飲食店には人が入っている。

 私たちもその人波の中をゆっくり進んだ。手をつなぐことで寒さが和らぐかのように指と指をしっかり組んで。

 夜が更けていくにつれどんどんと気温が下がり足元からしんしんと冷えてくる。

 屋台で温かい飲み物や食べ物で暖を取る人たちもいた。

「年越蕎麦でも食べればよかったな。寒っ。」

 成沢が湯気があがったおでんのようなものを食べている人を見て言った。

「寒いね。」

 私も首をすくめて言った。

 成沢は手を解いて私の肩を抱いた。ぴったり寄り添って寒さをしのいだ。時々私の腕をさすってくれた。

 体は芯から冷え切っているのになんだか嬉しくて心が温かかった。
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