既読(4)

文字数 540文字

 1人で部屋に閉じこもっているのが嫌で買い物についていき夕食作りの手伝いをした。

 相変わらずポケットの中のスマホは沈黙したままだった。家族といるので気が紛れて平静でいるものの、静かに絶望感が押し寄せてきていた。

 久しぶりに父親と3人で食卓について乾杯した。バラエティー番組を見て笑った。デザートを食べて洗い物をした。

 そして1人になるとスマホをのぞいてみた。胸がぎゅうっと痛んだ。何も来ていない。

 体の中までふやけてしまいそうなほどゆっくりバスタブにつかった。ミルク色のお湯の中に私のもやもやも溶け出してしまえばいいと思った。

 風呂上がりに飲み物を取りにキッチンに行くと母が昼間焼いたクッキーを器から缶に移し替えていた。

「彼に持っていく?」

 さりげない問いかけ。

 返事に迷った。黙ってクッキーの缶を見ていた。

「喧嘩しちゃった?」

「ううん。別に。」

「そう。」

 母はそれ以上何も聞かなかった。

「やっぱり貰おうかな。」

 母の気遣いに心が揺れてためらいがちにそう言った。

「そう?じゃ瓶に入れてあげるわ。ジャムの瓶があるから。」

 母は空き瓶を出してきてクッキーを入れてくれた。

「ありがとう。」

「夜更かしはお肌に悪いわよ。早く寝られる時は寝なさいね。」

「うん。」

 飲み物を取って自室に戻った。
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