静かなスマホ(1)

文字数 460文字

 玄関のドアをそっと閉めて鍵をかけた。リビングから明かりが洩れている。誰かがまだ起きているらしい。

 誰とも口を聞きたくなかった。

「ただいま」

 ドアを開けて声をかけた。

「お帰り。なんか食べる?」

 母がテレビの画面から目を離してこちらを向いた。涙目は見られたくない。すぐにドアを閉めながら私は言った。

「いらない。お風呂入って寝る。おやすみ。」

 コートとバッグを自室に置いて浴室に向かった。今は何も考えたくなかった。シャワーを出すと湯気でむせた。

 咳込むと涙が出てきた。シャワーの音に紛れてしまうから周りを気にせず泣ける。

 (なんでいつも勇輝の周りに彼女がいるの?なんでいつも私が逃げ出さなきゃいけないの?)

 勇輝に聞きたかった。でも怖くて聞けない。もし勇輝が本当に求めているのが私じゃなくて早紀って人だと答えを出したら・・・

 自信がなかった。勇輝はリハビリって言っていた。まだ彼女の事を、彼女との別れを乗り越えられていないのかもしれない。

 そもそも2人はきちんと別れていないんじゃないのか。勇輝は別れたって言ってるけど・・・
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