秘密(7)

文字数 606文字

 最近ではスーツもこだわるようになってきた。

 この時期シンプルな黒のスーツに地味なヘアスタイルなんかだと新入社員に見えて嫌だ。

 今日はスーツの下に春らしい桜色のシフォンのようなシャツを着てさりげないアクセをつけた。ネイルもシャツの色に合わせて淡い桜色。

 自分で言うのもなんだけど最近の私はちょっとあか抜けてきた気がする。

 イケメンの彼氏に見劣りしないように頑張っているし、それに勇輝が精神的にも肉体的にも目一杯愛してくれるから。

 勇輝とのセックスは飽きることがなく相性抜群でホルモン分泌も良くなって肌が輝いてきたような気がしている。

 店に入る前に手鏡をちらっと覗いてチェックした。ビジネスに相応しい控えめさの中でもきちんとオシャレが効いている。よし。

「こんにちは。」

 声をかけながら入っていった。

「こんにちは。」

 平日でもあり、客はいないようでカウンターには1人、確か白井さんというチーフがいただけだ。

 白井さんの顔にほんの一瞬落胆だか油断だかの表情がよぎったがすぐにそれを引っ込めた。

 入ってきたのが客ではなく取引先だったからだろう。私は最近の動向など儀礼的な会話をし始めた。

「ああ高橋さん、こんにちは。」

 安藤さんが裏から出てきた。

「こんにちは。」

 ニッコリ笑って挨拶する。露骨に喜びが顔に出ていないことを願った。安藤さんの顔を見るなり急に態度が激変した、なんて白井さんに思われたらいい事なんてひとつもない。
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