第130話 雨と子猫

文字数 789文字

 あの日は雨やった。確か小学校3年の時やったか学校の帰り歩いてると、歩道の脇に段ボール箱が置いてあって中にはまだ体の小さな子猫がおった。その子は捨てられとった。

 あたしは猫がびしょびしょなのがかわいそうでその子に雨が当たらんようにそこで傘を差しとった。その時のあたしにはそれしかできんくて、そうやって自分も半分濡れながらその子と雨が止むんを待っとった。

 動物は好きやったし何よりもその子がまだ子供やったからパパやママはどうしたんやろ、なんでこんな所に1人でおんのやろ、そんな風に思ってしまって放っとけへんかった。

 あたしは家でお父さんもお母さんも働いとるから小さい時から1人でおることが少なくなかった。だから1人でおることの寂しさはよく知っとった。

 しばらくして叶泰が通った。叶泰んちは叶泰んちで両親共旅館にいっぱなしやから叶泰もあたしと同じようにいっつも1人やった。

 だから家がすぐそこやからあたしも叶泰も1人で寂しかったりつまらなかったりするとお互いに家を行ったり来たりしとった。

『なんや咲、どないしたんや。おっ、子猫やないか』

『この子1人でここにおってな。濡れてまうからかわいそうやと思って』

『あーあ、その箱びっしょびしょやないか。ちょっと待っとれよ!』

 そう言って叶泰は走ってどこかへ行ってしまったと思ったら新しい段ボール箱にタオルを何枚か持ってきてくれ、その子を拭いてやると新しい段ボールに入れ直してあげた。

『これでえぇやろ』

 叶泰は猫に笑いかけていた。

 その後あたしたちは雨が止むまでずっとそこにおった。

『なぁ叶泰。この子明日一緒に花火連れてってあげよ?』

『せやな。こいつ子供のくせに元気ないから花火見せたら喜ぶで』

 だけど次の日にはもうその猫はいなくなってしまっていた。

 あれ?…あたし、なんで今こんなこと思い出しとんのやろ…

 あぁ…あの時の猫、どーなったんやろ…
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