第79話 斬れないもの
文字数 1,778文字
風雅と千歌は玲璃たちとは駅を挟んで反対側の街中を歩いていた。
2人は少し前から誰かにつけられていることに気がついていた。
『風雅、分かるか?』
『あぁ。誰かつけてるね』
2人は人通りの少ない方へ歩いていき誘い出すことにした。相手はそんなに近くもなく遠くもない距離を保ちながら後を追ってくる。
風雅たちはもう十分だろうという位置で立ち止まった。振り向くとそこにいたのは意外な人物だった。
『まさか敵をまんまと招き入れ一晩共に過ごしてしまうとは、この人生で最大の失態やったわ』
『あなたは…』
『風雅はんやったな。何も聞く気はありまへん。白狐の所へ案内しなはれ』
不死鳥、鳳凰イデアが黒い着物に身を包みそこに立っていた。まるで葬式帰りのような格好だがそうではないだろう。どちらかと言えば殺気で満ち溢れている。
『なんだ?知り合いか?』
『まぁ、一応…』
『あまり仲は良さそうじゃないな』
『あぁ…どうやらそうみたいだね』
望みは薄かったが風雅は言うだけ言ってみることにした。
『イデアさん。僕たちは白狐の仲間なんかじゃないんだ。信じてくれ』
『聞かんと言うたはずや!!』
イデアは走りだし襲いかかってきた。懐から出した短刀の柄で風雅の腹を勢いよく突くと掌でアゴを突き上げた。そのまま右肘を顔面めがけて振り回し直撃させると足をかけ、風雅をそのまま後ろに押し倒し踏みつけた。
風雅はその一瞬でこの人物があの神楽絆級、もしくはそれ以上の実力を持っているということを確信した。京都で自分たちが見たイデアとは全くの別人だということもだ。
『え?まだ言われへんのどすか?あんた死ぬえ?』
イデアが踏みつける足に力を込めると千歌が助けに走った。
『その足どけな!』
おもいきりパンチを打っていったがイデアはそれを鞘で受けると短刀を抜いた。千歌も両手にナイフを構えた。
『そんな物でこのわたくしに張り合うつもりどすか?』
武器の腕は分からないが威圧感では圧倒的にイデアが上。風雅の見立てだった。
『でやぁー!!』
イデアは短刀を逆手に持ちしかけた。右から左から短刀をものすごい速さで振り回してくる。
千歌はそれをなんとか受けるのがやっとで、あっという間にナイフを弾き飛ばされ追いつめられる。
『できることなら無駄な血ぃは流しとぉありまへん。早よぅ白狐の居場所を言いなはれ』
風雅は立ち上がり2人の間に入っていった。
『イデアさん。僕たちも仲間を斬られてるんです』
『あの金髪か…その辺の事情はよぉ知りまへんが白狐が湘南ナンバーの単車で走っとるのも湘南ナンバーの単車と一緒に走っとるのも全て聞いとります。それが動かぬ証拠やろが!!』
『愛羽は今、斬られた子に輸血するのに自分が足りなくなる程血を抜き、今は熱で寝こんでしまっています』
『…』
イデアは一晩中一緒に過ごした愛羽の顔を一瞬思い出してしまった。
『…それがなんどすか?』
『あなたとこれ以上争ってしまったら僕は愛羽に顔向けできません。お願いです、話をしましょう。みんなで協力した方がいい』
『協力やと?何が協力や!!こっちは可愛い妹分の命取られかけとんのやぞ!!何故白狐の仲間言われとる者どもと協力せなあかんのや!!潔白が証明できんのなら信じることなどできまへん!!』
『そうか…あなたの仲間も』
風雅は黙って左腕をイデアに向けて伸ばした。
『…なんの真似どすか?』
『あなたが信じてくれるなら僕は腕を1本差し出すよ』
『なんやと…』
そう言われイデアは風雅を見つめ風雅もまたイデアの目を見つめ続けた。イデアは刀を差し出された腕に突きつけた。だが風雅は微動だにせず目をそらさなかった。
イデアはこの時ただならぬ悪寒を感じていた。
自分が本気なのは分かっているはずだ。だが彼女はよけない。それが分かった。
(このガキ…)
理解ができなかったのは相手が丸腰なのは見えているのに何故か斬れば自分もただでは済まないような気がしたことだった。
イデアは風雅の腕を斬れなかった。
『興ざめどす。そこまでして言いたくないのであれば斬った所で同じこと。他の人間の口を割った方が早い。…ただあんさんらがどうしても邪魔立てするのであれば、次こそ容赦なく斬る。潔白を証明できんのであれば、それは愛羽とて同じことや。そう伝えとくとよろしい』
イデアは刀を鞘に収めると、また人混みの中へ消えていった。
2人は少し前から誰かにつけられていることに気がついていた。
『風雅、分かるか?』
『あぁ。誰かつけてるね』
2人は人通りの少ない方へ歩いていき誘い出すことにした。相手はそんなに近くもなく遠くもない距離を保ちながら後を追ってくる。
風雅たちはもう十分だろうという位置で立ち止まった。振り向くとそこにいたのは意外な人物だった。
『まさか敵をまんまと招き入れ一晩共に過ごしてしまうとは、この人生で最大の失態やったわ』
『あなたは…』
『風雅はんやったな。何も聞く気はありまへん。白狐の所へ案内しなはれ』
不死鳥、鳳凰イデアが黒い着物に身を包みそこに立っていた。まるで葬式帰りのような格好だがそうではないだろう。どちらかと言えば殺気で満ち溢れている。
『なんだ?知り合いか?』
『まぁ、一応…』
『あまり仲は良さそうじゃないな』
『あぁ…どうやらそうみたいだね』
望みは薄かったが風雅は言うだけ言ってみることにした。
『イデアさん。僕たちは白狐の仲間なんかじゃないんだ。信じてくれ』
『聞かんと言うたはずや!!』
イデアは走りだし襲いかかってきた。懐から出した短刀の柄で風雅の腹を勢いよく突くと掌でアゴを突き上げた。そのまま右肘を顔面めがけて振り回し直撃させると足をかけ、風雅をそのまま後ろに押し倒し踏みつけた。
風雅はその一瞬でこの人物があの神楽絆級、もしくはそれ以上の実力を持っているということを確信した。京都で自分たちが見たイデアとは全くの別人だということもだ。
『え?まだ言われへんのどすか?あんた死ぬえ?』
イデアが踏みつける足に力を込めると千歌が助けに走った。
『その足どけな!』
おもいきりパンチを打っていったがイデアはそれを鞘で受けると短刀を抜いた。千歌も両手にナイフを構えた。
『そんな物でこのわたくしに張り合うつもりどすか?』
武器の腕は分からないが威圧感では圧倒的にイデアが上。風雅の見立てだった。
『でやぁー!!』
イデアは短刀を逆手に持ちしかけた。右から左から短刀をものすごい速さで振り回してくる。
千歌はそれをなんとか受けるのがやっとで、あっという間にナイフを弾き飛ばされ追いつめられる。
『できることなら無駄な血ぃは流しとぉありまへん。早よぅ白狐の居場所を言いなはれ』
風雅は立ち上がり2人の間に入っていった。
『イデアさん。僕たちも仲間を斬られてるんです』
『あの金髪か…その辺の事情はよぉ知りまへんが白狐が湘南ナンバーの単車で走っとるのも湘南ナンバーの単車と一緒に走っとるのも全て聞いとります。それが動かぬ証拠やろが!!』
『愛羽は今、斬られた子に輸血するのに自分が足りなくなる程血を抜き、今は熱で寝こんでしまっています』
『…』
イデアは一晩中一緒に過ごした愛羽の顔を一瞬思い出してしまった。
『…それがなんどすか?』
『あなたとこれ以上争ってしまったら僕は愛羽に顔向けできません。お願いです、話をしましょう。みんなで協力した方がいい』
『協力やと?何が協力や!!こっちは可愛い妹分の命取られかけとんのやぞ!!何故白狐の仲間言われとる者どもと協力せなあかんのや!!潔白が証明できんのなら信じることなどできまへん!!』
『そうか…あなたの仲間も』
風雅は黙って左腕をイデアに向けて伸ばした。
『…なんの真似どすか?』
『あなたが信じてくれるなら僕は腕を1本差し出すよ』
『なんやと…』
そう言われイデアは風雅を見つめ風雅もまたイデアの目を見つめ続けた。イデアは刀を差し出された腕に突きつけた。だが風雅は微動だにせず目をそらさなかった。
イデアはこの時ただならぬ悪寒を感じていた。
自分が本気なのは分かっているはずだ。だが彼女はよけない。それが分かった。
(このガキ…)
理解ができなかったのは相手が丸腰なのは見えているのに何故か斬れば自分もただでは済まないような気がしたことだった。
イデアは風雅の腕を斬れなかった。
『興ざめどす。そこまでして言いたくないのであれば斬った所で同じこと。他の人間の口を割った方が早い。…ただあんさんらがどうしても邪魔立てするのであれば、次こそ容赦なく斬る。潔白を証明できんのであれば、それは愛羽とて同じことや。そう伝えとくとよろしい』
イデアは刀を鞘に収めると、また人混みの中へ消えていった。