第74話 大阪喧嘩會
文字数 3,022文字
『おい、お前ら白狐知っとるな?今すぐ連れてこいや』
『だ、か、ら、よぉ、つい今も知らねぇって言ってたとこなんだよ!ちなみにオメーらハリネズミみてーな頭の奴かオタクっぽい女知らねぇか?』
玲璃がまたそのフレーズかと頭をかきむしりながら逆に質問で返すと、衝撃の言葉が返ってきた。
『あぁ、そいつやったら知っとるぞ』
捻れた茶色い短髪の女がうすら笑いを浮かべて言った。
『知ってる?そいつどこにいた?』
『ハリネズミっぽい頭の奴はどっかのゴミ置き場に捨てられとったぞ』
それを聞いて思わず旋が前に出ていく。
『何それ、どーゆーこと?まさかそれあんたたちがやったなんて言わないでよね』
『あぁ、やったわ』
『数はどこ?今すぐ答えて』
『さぁ、どこやったかなぁ』
『ふざけないで!早く答えろ!』
旋が声を荒らげ珠凛は一気に顔を険しくさせた。
『みんな気ぃつけてや!こいつら般若娘(はんにゃむすめ)の奴らや!』
『般若娘?』
『うん。大阪喧嘩會(おおさかけんかかい)言う、ちょっとイカれた連中の集まりや。暴走族でもチーマーでもない、ケンカする為だけに生きとるような奴らや。多分さっきの奴らとは全然違う。だからあいつらも逃げたんや。さっきの奴が言うてたのは藺檻槐言うて、今のそこの頭の奴や』
『さすが、よぉ知っとるのぉ。侍咲薇』
できることなら関り合いになりたくないという咲薇の思いと裏腹に般若娘の女たちは動き出した。
『5対5なら丁度えぇやんか、マンツーで』
『じゃ、あたしこいつ』
『ウチピンクの奴行くわ』
まるでゲームかスポーツでもするように決めた相手の前に立ちはだかり、般若娘とのマンツーマンが始まってしまった。
『なんや、そしたらあたし1人やないか。風矢咲薇はターゲットやないねんから』
藺檻槐はガードレールによっかかるとタバコに火をつけた。
『えぇやん。さっきは槐えぇとこ持ってったやろ』
『せやな。ほんならえぇわ』
先程の不死鳥の人間たちとは確かに違うようだ。般若娘の4人はケンカ慣れしているのもそうだが、殴り合い蹴り合うことを楽しんでいるようだった。
玲璃が押され、麗桜が攻められずに苦しんでいる。旋も珠凛もさっさと倒して数の所へ行きたかったがなかなかそうはさせてくれそうにない。
藺檻槐は味方がやられれば手を叩いて笑い、逆にやり返せば「おぉっ!」と声をあげ完全に観戦を楽しんでいた。
『藺檻、この子らは違うねん。白狐の仲間なんかと違う、ホンマにただの被害者なんや。やり合ってもなんの解決にもならんのやで?なんでそんなにこの子らを狙うねん』
『はっはは!何か、勘違いしとるみたいやけどな、そんなんはウチらには関係あれへん。これはゲームなんや』
『ゲームやと?』
真剣に訴える咲薇を見て槐が嘲笑う。
『あぁそうや。他の奴らがどんな理由で白狐を狙っとんのかは知らんけどな、みんながそうやって必死になって捕まえようとしてるターゲットをウチが先に捕まえてしばく。そういうゲームや。せやからこれは白狐というラスボスを倒すまでのただの過程ということや。他のチームはおそらく余計なもめ事は起こすなと言われとるのやろうな。だがウチは出会う敵は全て倒す。それだけのことや』
大阪喧嘩會とは咲薇たちの1つ上の代が結成したチームで、単車は乗るが集会はせず、ギャングやチーマーのように群れでたむろすということもしない少し変わったタイプのチームだ。
だがそこに集まる人間はまず喧嘩を愛し腕っぷしに自信のある者ばかりで、人数は少数ながら周りからはかなり危険視されている。
中でも初代の隊長は関西一強い女と歌われるほどの人物で、「その女にだけは手を出すな」と大阪のみならず周辺の地域のチームからも恐れられていた。
今回イデアや浬も大阪喧嘩會とは関わるな、とチームの人間に伝えていた訳だ。
やはりなんとしても逃げておくべきだったと咲薇が思った時だ。
『…じゃあテメーのゲームはここで終わりだな』
槐が振り向く前にボコボコにされ気を失っていたはずの数が後ろからがっしりとつかみかかった。そして一気にバックドロップした。怒りの鉄槌だ。
だがここまでふいを突かれたのに槐は打ちつけられる前に自分だけ地に手を着き、バク転のようにして逃れてしまった。なかなかの運動神経と身体能力だ。
『しつこい奴や。おとなしく寝てたらえぇものを』
『うるせぇ!』
数はボロボロでかなり息を切らしている。今のもダメ押しの一撃だろう。
『まぁえぇ。丁度相手がおらんかったとこや。今度こそお前は再起不能やぞ』
槐が数の方に歩きだすとその間に咲薇が立った。
『なんや風矢咲薇。お前があたしの相手してくれる言うんか?』
槐がそうやって咲薇を威圧すると、彼女の頭にソフトクリームが真っ逆さまに押しつけられた。
『冷たっ!!な、なんやぁ!!』
振り返るとそこには鬼のような形相をした緋薙豹那が立っていた。そして誰が何を思うよりも速く豹那の拳が叩きこまれ槐は勢いよくふっ飛んでいった。
『おいガキ。遺書は書き終わったのかい?探しちまったじゃないか』
『豹那!』
真っ先に玲璃が声をあげた。
『玲璃。久しぶりに殴ってやろうか?先にお前からでもいいんだよ?もう少しあたしという存在を敬ったらどうなんだい?せめて「さん」を付けろってもう何回言った?全く、お前って奴は…』
玲璃がニカッと笑ってみせると豹那は呆れて口元を緩めた。
『まだや!!』
咲薇の声が響くのと同時に槐の反撃のパンチが豹那の顔面をとらえ弾いた。助走をつけ体重を乗せたおもいきりのいい一撃だ。だが豹那は足を1歩引かされただけで耐えた。その目はしっかりと獲物をにらみつけている。
それを見ていた般若娘のメンバーは衝撃を受け手を止めてしまった。
『あいつやりよるな。槐がふっとばされたん初めて見たわ』
『槐も今おもいっきしいったのにな。あの女普通に立っとるぞ』
般若娘たちは槐の心配をしているのではなく、豹那に興味を示している。
(今だ!)
ボクサーの麗桜はそういう隙を見逃さない。相手の腹に1発拳を打ちこんで相手がひざを着くと隣の旋に加勢した。
『やるじゃん麗桜ちゃん!』
『へへ、たたみかけるぞ!』
旋もそれに合わせて2対1で攻撃し見事なコンビネーションで2人目も倒してのけると二手に別れて玲璃と珠凛の助太刀に走った。
そしてふいを突かれ1発返された豹那だったが、さすがにそれだけではひるまず槐と向かい合い、遠い目で標的を捕捉していた。
『そういえば遺言も聞いてなかったね。なんか言い残したいことはあるのかい?』
『なんやお前…勝てる気でおるんか?おめでたい奴や。あんま舐めんなや?』
2人は互いに間合いに立ちながら殺気むき出しで鬼と般若のように妖しく笑いながらにらみ合う。
『ふっ!』
今度は槐が先にしかけた。飛びかかると大きく振りかぶり豹那の顔面めがけて鋭い拳を放った。
その動きを豹那は見えていたが彼女はそれをよけなかった。逃がさない為だ。豹那は殴られた反動を利用してカウンターの右フックを一気に叩きこむ。槐はまた殴り飛ばされアスファルトの上に転がされた。
『ちっ、バカ力め』
この時すでに槐は、豹那の想像を超える強さを肌で感じていた。しかし逃げるつもりなど一切なく最後までやり合う気でいた。
そんな彼女の戦意をくじく人物がまさかここに現れようとは、槐も思っていなかった。
『みんな大丈夫!?』
豹那に遅れてそこに雪ノ瀬瞬が到着した。
『だ、か、ら、よぉ、つい今も知らねぇって言ってたとこなんだよ!ちなみにオメーらハリネズミみてーな頭の奴かオタクっぽい女知らねぇか?』
玲璃がまたそのフレーズかと頭をかきむしりながら逆に質問で返すと、衝撃の言葉が返ってきた。
『あぁ、そいつやったら知っとるぞ』
捻れた茶色い短髪の女がうすら笑いを浮かべて言った。
『知ってる?そいつどこにいた?』
『ハリネズミっぽい頭の奴はどっかのゴミ置き場に捨てられとったぞ』
それを聞いて思わず旋が前に出ていく。
『何それ、どーゆーこと?まさかそれあんたたちがやったなんて言わないでよね』
『あぁ、やったわ』
『数はどこ?今すぐ答えて』
『さぁ、どこやったかなぁ』
『ふざけないで!早く答えろ!』
旋が声を荒らげ珠凛は一気に顔を険しくさせた。
『みんな気ぃつけてや!こいつら般若娘(はんにゃむすめ)の奴らや!』
『般若娘?』
『うん。大阪喧嘩會(おおさかけんかかい)言う、ちょっとイカれた連中の集まりや。暴走族でもチーマーでもない、ケンカする為だけに生きとるような奴らや。多分さっきの奴らとは全然違う。だからあいつらも逃げたんや。さっきの奴が言うてたのは藺檻槐言うて、今のそこの頭の奴や』
『さすが、よぉ知っとるのぉ。侍咲薇』
できることなら関り合いになりたくないという咲薇の思いと裏腹に般若娘の女たちは動き出した。
『5対5なら丁度えぇやんか、マンツーで』
『じゃ、あたしこいつ』
『ウチピンクの奴行くわ』
まるでゲームかスポーツでもするように決めた相手の前に立ちはだかり、般若娘とのマンツーマンが始まってしまった。
『なんや、そしたらあたし1人やないか。風矢咲薇はターゲットやないねんから』
藺檻槐はガードレールによっかかるとタバコに火をつけた。
『えぇやん。さっきは槐えぇとこ持ってったやろ』
『せやな。ほんならえぇわ』
先程の不死鳥の人間たちとは確かに違うようだ。般若娘の4人はケンカ慣れしているのもそうだが、殴り合い蹴り合うことを楽しんでいるようだった。
玲璃が押され、麗桜が攻められずに苦しんでいる。旋も珠凛もさっさと倒して数の所へ行きたかったがなかなかそうはさせてくれそうにない。
藺檻槐は味方がやられれば手を叩いて笑い、逆にやり返せば「おぉっ!」と声をあげ完全に観戦を楽しんでいた。
『藺檻、この子らは違うねん。白狐の仲間なんかと違う、ホンマにただの被害者なんや。やり合ってもなんの解決にもならんのやで?なんでそんなにこの子らを狙うねん』
『はっはは!何か、勘違いしとるみたいやけどな、そんなんはウチらには関係あれへん。これはゲームなんや』
『ゲームやと?』
真剣に訴える咲薇を見て槐が嘲笑う。
『あぁそうや。他の奴らがどんな理由で白狐を狙っとんのかは知らんけどな、みんながそうやって必死になって捕まえようとしてるターゲットをウチが先に捕まえてしばく。そういうゲームや。せやからこれは白狐というラスボスを倒すまでのただの過程ということや。他のチームはおそらく余計なもめ事は起こすなと言われとるのやろうな。だがウチは出会う敵は全て倒す。それだけのことや』
大阪喧嘩會とは咲薇たちの1つ上の代が結成したチームで、単車は乗るが集会はせず、ギャングやチーマーのように群れでたむろすということもしない少し変わったタイプのチームだ。
だがそこに集まる人間はまず喧嘩を愛し腕っぷしに自信のある者ばかりで、人数は少数ながら周りからはかなり危険視されている。
中でも初代の隊長は関西一強い女と歌われるほどの人物で、「その女にだけは手を出すな」と大阪のみならず周辺の地域のチームからも恐れられていた。
今回イデアや浬も大阪喧嘩會とは関わるな、とチームの人間に伝えていた訳だ。
やはりなんとしても逃げておくべきだったと咲薇が思った時だ。
『…じゃあテメーのゲームはここで終わりだな』
槐が振り向く前にボコボコにされ気を失っていたはずの数が後ろからがっしりとつかみかかった。そして一気にバックドロップした。怒りの鉄槌だ。
だがここまでふいを突かれたのに槐は打ちつけられる前に自分だけ地に手を着き、バク転のようにして逃れてしまった。なかなかの運動神経と身体能力だ。
『しつこい奴や。おとなしく寝てたらえぇものを』
『うるせぇ!』
数はボロボロでかなり息を切らしている。今のもダメ押しの一撃だろう。
『まぁえぇ。丁度相手がおらんかったとこや。今度こそお前は再起不能やぞ』
槐が数の方に歩きだすとその間に咲薇が立った。
『なんや風矢咲薇。お前があたしの相手してくれる言うんか?』
槐がそうやって咲薇を威圧すると、彼女の頭にソフトクリームが真っ逆さまに押しつけられた。
『冷たっ!!な、なんやぁ!!』
振り返るとそこには鬼のような形相をした緋薙豹那が立っていた。そして誰が何を思うよりも速く豹那の拳が叩きこまれ槐は勢いよくふっ飛んでいった。
『おいガキ。遺書は書き終わったのかい?探しちまったじゃないか』
『豹那!』
真っ先に玲璃が声をあげた。
『玲璃。久しぶりに殴ってやろうか?先にお前からでもいいんだよ?もう少しあたしという存在を敬ったらどうなんだい?せめて「さん」を付けろってもう何回言った?全く、お前って奴は…』
玲璃がニカッと笑ってみせると豹那は呆れて口元を緩めた。
『まだや!!』
咲薇の声が響くのと同時に槐の反撃のパンチが豹那の顔面をとらえ弾いた。助走をつけ体重を乗せたおもいきりのいい一撃だ。だが豹那は足を1歩引かされただけで耐えた。その目はしっかりと獲物をにらみつけている。
それを見ていた般若娘のメンバーは衝撃を受け手を止めてしまった。
『あいつやりよるな。槐がふっとばされたん初めて見たわ』
『槐も今おもいっきしいったのにな。あの女普通に立っとるぞ』
般若娘たちは槐の心配をしているのではなく、豹那に興味を示している。
(今だ!)
ボクサーの麗桜はそういう隙を見逃さない。相手の腹に1発拳を打ちこんで相手がひざを着くと隣の旋に加勢した。
『やるじゃん麗桜ちゃん!』
『へへ、たたみかけるぞ!』
旋もそれに合わせて2対1で攻撃し見事なコンビネーションで2人目も倒してのけると二手に別れて玲璃と珠凛の助太刀に走った。
そしてふいを突かれ1発返された豹那だったが、さすがにそれだけではひるまず槐と向かい合い、遠い目で標的を捕捉していた。
『そういえば遺言も聞いてなかったね。なんか言い残したいことはあるのかい?』
『なんやお前…勝てる気でおるんか?おめでたい奴や。あんま舐めんなや?』
2人は互いに間合いに立ちながら殺気むき出しで鬼と般若のように妖しく笑いながらにらみ合う。
『ふっ!』
今度は槐が先にしかけた。飛びかかると大きく振りかぶり豹那の顔面めがけて鋭い拳を放った。
その動きを豹那は見えていたが彼女はそれをよけなかった。逃がさない為だ。豹那は殴られた反動を利用してカウンターの右フックを一気に叩きこむ。槐はまた殴り飛ばされアスファルトの上に転がされた。
『ちっ、バカ力め』
この時すでに槐は、豹那の想像を超える強さを肌で感じていた。しかし逃げるつもりなど一切なく最後までやり合う気でいた。
そんな彼女の戦意をくじく人物がまさかここに現れようとは、槐も思っていなかった。
『みんな大丈夫!?』
豹那に遅れてそこに雪ノ瀬瞬が到着した。