第118話 現れた白狐

文字数 1,896文字

 咲薇は手に持った刀を抜いた。

『本物や…』

 刀を見てビックリしたがもうそのまま風雅とイデアの間に入った。

『なんやその刀。やはり貴様が白狐やったという訳どすな…よろしい。これで心置きなく貴様を殺せる』

 イデアは短刀を1度鞘に収め構え直した。対する咲薇も同じようにした。

『2人共お願いやめて!』

 愛羽が横から言っても咲薇もイデアも耳を貸すことはなかった。

 じっと構え合う2人を見ながら風雅が息を飲んだ刹那、2人は動いた。

 ほぼ同時に刀を抜くと目にも止まらぬ早さで刀が振り回された。

『でやぁ!!』

『ふっ!!』

「カキィン!」「カキィン!」とまるで時代劇のドラマでも見ているかのような音が響き渡った。

 イデアは確かにかなりの使い手ではあるが同じ土俵に立った咲薇の剣には1歩及ばなかった。

 互いに刀をぶつけ合うとイデアは短刀を弾かれ、無防備になったイデアを咲薇の刀が襲おうとした。

『だめぇ~!!』

 咲薇とイデアの間に愛羽が飛びこんでいった。刀はあと少しで愛羽を斬りつけていたであろう所で止められた。

『愛羽…』

 咲薇は何故愛羽が今止めに入ったのか理解するのに時間がかかっていた。

『咲薇ちゃんもイデアさんももうやめて。そんな物で傷つけ合ったらダメだよ…』

『あたし…今…』

 咲薇は色んなチームから狙われ、実際今この場でも命の危険を感じていた。仲間を斬られたことも重なり、白狐を憎む気持ちとそれが混ざり合い真剣を握った死と隣り合わせの命のやり取りに正直かなり興奮もしていた。

 元々咲薇は悪くなんてないし狙われる理由だってないのだ。

 だが今愛羽が間に入らなければ確実に咲薇はイデアを斬っていた。

『あたしは…なんてことを…』

 自分が無心で人を斬ろうとしていたことが恐ろしかった。あと少しで刃が愛羽に直撃していたと思うとゾッとした。

 仮に今斬っていたにしろ斬らなかったにしろ全ては白狐が仕組み仕向けたことだが咲薇はショックを隠せなかった。咲薇は刀を下げ鞘に収めた。

 その瞬間を1匹の狐が待っていた。

『咲薇!危ない!』

 何かが物陰から走ってきた。風雅が気づいて叫んだ時にはもう咲薇のすぐ後ろまで迫っていた。このタイミングを待っていたとでも言うように白狐がとうとうその姿を現した。

 白狐は真っ直ぐ咲薇に向かっていき横一文字に刀を振り抜いた。しかし咲薇は突き飛ばされ刀は服をかすめただけで済んだ。

 その代わりにイデアが腕を斬られてしまった。イデアは反射的に咲薇をかばっていた。

『イデアさん!!』

 すかさず愛羽が駆け寄っていく。

『くっ…どーゆーことや?やはり風矢咲薇は白狐ではなかったんか?』

 イデアは血を流し痛みに顔を歪ませていた。バッサリと裂けているらしいがなんとか致命傷にはなっていないようだ。

 咲薇への狙いを外してしまった白狐だったが、直ぐ様また構え直し咲薇に向かった。

『白狐。お前の狙いはなんや。何故あたしを狙う』

 白狐は言葉など返さない。咲薇は再び刀を抜き白狐とにらみ合った。

 その勝負は一瞬だった。

 白狐が先にしかけ刀を一気に振り払ったが咲薇はそれを見切り見事白狐の刀を弾き飛ばした。刀と刀では白狐と咲薇には圧倒的な差がある。だが白狐は刀を失くしても尚拳を構えた。諦めるつもりはなさそうだ。

『白狐…どうしてもあたしを殺りたいみたいやな』

 白狐は無言でじりじりと間合いを詰めてくる。

『覚悟せぇ!綺夜羅の仇や!』

 咲薇は1歩踏みこみ刀を振り上げた。

『待て咲薇!!』

 声が聞こえて咲薇は思わず手を止めてしまった。その声がここにいるはずのない姉妹の声だったからだ。

『…綺夜羅?』

『仇なんていいからよ、お前とりあえずその物騒なもん下ろせよ』

 咲薇を落ち着かせるように声をかけた後、まず周りの掠たちに指示した。

『おい!その辺に落ちてる危なっかしいもん全部集めろ!』

 言われて掠、燃、旋が落ちていた千歌のナイフと白狐の刀、イデアの短刀を集めた。

『よぉ、狐の面の奴。もうやめようぜ?この状況じゃなんもできねーだろ。あたしらも手は出さねーからよ、ちょっと話そうぜ』

 綺夜羅の言葉に隣で争っていた萼と浬も手を止めた。目を向けると2人も白狐の存在に気づいた。

『あれが、白狐か?』

 浬は咲薇と白狐が向かい合っているのを見て改めて咲薇が白狐などではなかったことを知った。

 白狐はポケットから隠し持っていたナイフを取り出すとすぐ近くにいた愛羽を捕まえ人質に取った。

『おい、やめろ!話をしようって言ってんじゃねぇか!』

 愛羽の顔にナイフを突きつけると綺夜羅たちと少しずつ距離を取っていく。

 そして白狐は誰もが思いもしなかったことを話し始めた。
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