第114話 第2ラウンド

文字数 1,494文字

 槐はそのまま愛羽を絞め落とすつもりでヘッドロックする腕に力を込めた。

『あたしがあの女に比べて大したことないやと?もう1度言うてみぃや。病院通り越して墓に送ったるわ』

『っ…何回でも言うよ…あんたなんか豹那さんの…足元にも及ばないよ…』

 愛羽は苦しくて声にならなかったが強い意志で言い返した。

『くくっ、よう言うたわ。お望み通りお前は墓送りや!』

 槐が腕に更に力を込めようとした時、首の後ろにチクッと針で刺されたような痛みを感じた。しかしそれは針の痛みなどではなく思わず飛び上がってしまう程の焼けるような熱さだった。

『熱ぅ!!なんやぁ!!』

 槐は驚いて手を放し、その場から飛び跳ねて離れ後ろに振り向いた。愛羽はその場に崩れ落ちるようにして座りこんでしまったがなんとか気を失わずに済んだ。

『あれぇ?痛みは感じないくせに火は熱いのかい?ふふ、役に立たないねぇ。それじゃあお前、灰皿になれないじゃないか』

 押しつけられ火が消えかけたタバコを片手に、緋薙豹那が槐を見下ろすように微笑んでいた。

『おい愛羽。人のこと出し抜いといてやっとあたしという存在の尊さが分かってきたのかい?残念だったじゃないか、そいつの墓に連れてってもらえなくて』

 愛羽は呼吸を整えながらそのボコボコの顔で微かに笑ってみせた。

 そしてやってきたのは豹那1人ではなかった。

『おい愛羽、ひでぇじゃねぇか』

 驚いて振り向くとそこには綺夜羅たちが立っていた。

『綺夜羅ちゃん…』

『全部聞いたぞ。咲薇はどこだ?』

 愛羽がまず何を言おうか考えたその時、単車の大群が走ってくる音が響きだした。だんだんと近づくにつれ爆音になり、姿が見え始めるとあっという間に工場の中まで突っこんできた。

 先頭を走って真っ赤な特攻服姿で堂々と現れたのは愛羽たちもよく知る人物、京都不死鳥の鳳凰イデアだった。

 愛羽たちの前で1度停まり辺りを見回して状況を確認すると後続の人間に向かって叫んだ。

『暴走侍を潰し風矢咲薇及び総長の椿原を引っ捕らえや!!』

 イデアが言って不死鳥の人間たちは単車のまま中へと押し寄せていった。

『イデアさん!』

 愛羽は叫んだがその声は届かなかった。いや、最後に目は合ったのにイデアは何も言わず行ってしまった。もう交わす言葉もないということなのかと愛羽はツラい現実に肩を落としかけた。

『おい愛羽。このクソはあたしに任せてお前はお前の仕事をしておいで』

 豹那は背中を向けたまま愛羽に言った。

『豹那さん…うん。分かった!』

 愛羽は走ってイデアを追いかけた。

『愛羽!僕も行く!』

 その後ろを風雅が走っていった。

『おい、お前らもあたしらに任せて代わりな!』

 残った麗桜と蘭菜、蓮華のやられ具合を見て綺夜羅は言ったが麗桜は笑い返した。

『ジョーダンじゃねぇ。ここまでやられてこんな所で代われるか』

『同感だわ。悪いけど、私も遠慮させてもらうわ』

 蘭菜もボロボロながら引く気はないようだ。蓮華は一瞬露骨に嫌そうな顔をしたが麗桜と蘭菜が顔を見ると代わってほしいと言えなくなった。

『もう!あたしがやられそうだったらちゃんとフォローしてよね、2人共』

 文句を言いながらも続行を決めたようだ。

『綺夜羅、先行っていいぜ。こいつらに借りがあんのはあたしだ。咲薇んとこ早く行ってやれ』

 風雅がいなくなった穴を埋めるのに数が名乗り出た。

『よし、あたしらは咲薇を探そう!行くぞ!』

 綺夜羅たちも先を目指し走りだしていった。

『と、いうことだ。第2ラウンドといこうじゃないか』

『はっ!死に損ないが!えぇで。そんなに死にたいんやったらすぐに殺したるわ!』

 豹那対槐の因縁の対決が始まった。
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