第34話 JOKER

文字数 1,622文字

『へぇー、なるほどね。離れ離れになった2人の恋を演出した訳ね』

『やるな、愛羽』

 蓮華と麗桜は感心しているが、愛羽がやるというよりは全てを明かした伴が突然積極的になったのが大きいのだ。

『早く帰ってくるといいわね』とか

『寂しいでしょう?』とか

 愛羽のことを気にしてくれることも、もちろんあるがそれ以上に

『もうすぐね…待ち遠しいわ』

 と独り言をつぶやいてみたり、空を見上げて黄昏ながら

『やっと会えるのね…』

 なんて言っていたりと、とにかく会いたくて会いたくてしょうがないという伴の気持ちがにじみ出てしまっているのを愛羽は何度も見てしまっていたので、愛羽が演出したというよりは伴が自らその役を勝ち取ったのだ。


『伴さんって、なんか寂しそうなとこあるなって思ってたんだよね。何年も何年も寂しいの我慢して頑張ってきたんだろうなってすごく分かるから、お兄ちゃんにしても伴さんにしても良い方向へ変わるきっかけになってくれればいいなと思って』

『へっ、オメーが1番寂しいくせによ』

 玲璃は玲璃で愛羽の寂しそうな顔をずっと見てきた。そして今は愛羽の顔色をじっとうかがっている。ババ抜きをしているのだ。

『これだ!』

 引いたのはJOKER。

『げっ!』

『でも愛羽も2人がくっついてくれたら嬉しいんでしょ?』

 蓮華がすかさず玲璃から引いていく。見事ペアを引き当て残りは1枚。

『そしたら伴さんのことお姉さんって呼ぶのか?複雑だなぁ』

 麗桜が引いて蓮華は上がり、麗桜もそれでペアができて上がり。

『愛羽はいつもそうやって人のことばかり考えてるのね。あなたのいい所だけど、自分のことも、もっともっと優先していいのよ?』

 蘭菜は最初に上がった。配られゲームが始まった時点で2枚しか手になく、それを2ターンで上がった。

『まぁでも伴さんがどうするかも気になるね。あの人も多分奥手な気がするし』

 ここで風雅の登場だ。前2人がポンポンと上がってしまったので風雅は玲璃から引く。

『玲璃…どっちだい?』

 玲璃の手札は2枚。どちらかがJOKERだ。

『…さぁな…』

 玲璃は顔で悟られないようにそっぽを向いた。だが風雅は訳なくペアを作り愛羽に引かせて終わり、その愛羽もそれで上がり。

 玲璃の手の中では仮面の女が笑っていた。

『ちっくしょう!もう1回だ!』

 しかし間もなく新大阪に着く所だった。

『玲璃、大阪だぞ』

『玲璃、降りるわよ』

『忘れもんしないでよね』

『ババ抜きはまた後でだね』

『玲ちゃん行くよ~』

 もう5人でそうやってからかうので玲璃はふてくされていた。

『どーせあたしは切符も買えねーバカですよ…』

『ほら玲ちゃん、大阪着いたらガイドするって言ってたじゃん。元気出して行こうよ』

 今回、玲璃がどうしてもということで、どこに向かってどこに泊まるのか、その交通手段まで玲璃が担当して調べていた。

 1日目はホテルを満喫し、2日目は食べ歩き、3日目ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行き、4日目で咲薇に会いに行こうという話までは決まっていて玲璃が

『あたしがもう地図見なくても行ける位覚えた』

 と自信満々にみんなを案内するはずだった。

 だが切符の件で完全に自信を失い、いじけている。そのしょぼくれた姿があまりにもかわいそうなので、ここから改めて玲璃に指揮を取らせることにした。

『隊長!』とか

『お願いね、ガイドさん』

 などとおだてられるとすぐに元気を取り戻し

『あたしに任せろ!』

 と得意気になって歩いた。

『あ!まずあのバスだ!』

 と玲璃が調子を取り戻してきたのでみんな安心しバスに乗り込んでいった。

『このバス乗ったら後はもう完璧よ。何個目で降りるとか方向も全部分かってんから』

 みんなその言葉を少しも疑わなかった。

『今度は大丈夫だよ。あたしは道も覚えられねーようなバカじゃねーから!』

 玲璃のそのセリフを聞いて爆笑していた。

 走りだしたバスの中、愛羽は街並みを眺めながらつぶやいた。

『伴さん。ちゃんと会えたかなぁ…』
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