第1話 『夢』

文字数 1,258文字

『咲薇。聞いてくれるか?』

『うん。何?』

『あのな…』

 言葉の途中で咲薇は目を覚ましてしまった。

『…なんや、夢か…』

 夢か、というよりまたその夢かという所だろうか。あれからたまにその夢を見る。

 その夢を見ると、まず寝起きから気分が落ちるので本当は見たくないのに、彼を思い出すと何故か決まってその夢を見てしまう。今朝も目覚めは最悪だ。

『あぁ~~……』

 体を起こしはしたが下を向き両手でおでこを押さえると溜め息をついた。

 そんな風にしてもダメなのは自分が1番分かっている。テレビをつけ、とりあえず目に止まる物が出てくるまでチャンネルを回していった。

『なんもやってへんやんか』

 テレビが悪い訳ではない。丁度番組が終わった時間帯なのだ。

 仕方なく咲薇はリモコンを置くとタバコを手に取り火をつけた。するとニュースが始まった。

 どこぞの大統領と大統領が会談をするとかしないとか、制裁がどうとかという聞き飽きたフレーズが聞こえてくる。

『もうみんなしてやめたらえぇねん。なぁ、カナ』

 カナというのは体の小さな猫で、1年前から一緒にいる咲薇の可愛い家族だ。

『おはよぉ。お腹減ったやろ』

 ご飯を用意してやるとカナは待ってましたと食べ始めた。

 カナとの出会いは、去年咲薇が落ちこんでいた時バイト帰りにペットショップの前を通ると、サイズの小さい可愛らしい猫がこっちを見ていた。

 目が合った時には買うことを決めていた。すぐに予約だけ済ましバイト代をはたいて次の日にはカナを連れて帰った。

 今ではとても懐いていて咲薇がいる時はだいたい彼女にくっついている。

 だから咲薇はそんなカナが好きで仕方がなかった。

 そんな風にカナに癒されていると耳にはっとするワードが飛びこんできた。

『続いてのニュースです。昨夜、京都市内の県道で、無人の自転車に走行中のバイクが衝突する事故がありました。』

 そこまで聞いて咲薇はテレビの方に振り向いた。

『昨夜午前0時頃、京都市内の県道で無人の自転車にバイクが衝突し転倒する事故がありました。バイクに乗っていたのは市内に住む17歳の少女で、少女はまだ意識が戻っていないということです。尚警察では、去年から同様の事故が相次いでいることから関連を調べており、これまでの調べで少女が市内の暴走族に所属していることが分かっていることから、暴走族同士のトラブルに巻きこまれた可能性もあると見て捜査を進めています』

 咲薇は鳥肌が立ってしまった。

『またや…もう、これで何回目や』

 去年から大阪やその周辺の地域で暴走族が襲われるという事件や事故が続いていた。

 今回のように突然誰も乗っていない自転車が飛び出してきたり、あらかじめタイヤにオイルが塗られブレーキを壊されていたりして事故らされた者もいた。

 明らかに殺意すら感じられる犯行だが犯人は捕まっておらず。今、関西の暴走族の間ではとても有名な不気味な話として知られている。

 それは、咲薇にとって他人事とは思えない話で、そんな事件が起こる度に思い出す過去と癒えることのない傷があるのだった。
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