第22話 事件

文字数 1,391文字

 事件は1年前の8月大阪で起きた。

 当時17歳だった鏡叶泰(かがみかなた)という少年がいた。叶泰は地元でそこそこ名の知れた不良で暴走族だった。

 その叶泰がある日死体で発見されたのだ。

 その前日、彼はチームを抜け暴走族をやめる為にリンチを受けていた。いわゆるケジメというやつだ。

 叶泰がチームを抜ける理由は彼女と結婚する為で、一般的に暴走族をやめる理由としては認められてもよさそうな話だったが、チームの少年たちはそんな人間性など持ち合わせていなかった。当然のようにケジメは行われることになり、1時間程暴行を受け続けると叶泰は倒れ、ケジメはそこで終了した。

 その次の日、ニュースで叶泰の死亡が報道された。

 チームのメンバーはそれを見て震え上がった。叶泰が死んでしまったからではない。叶泰の死因が暴行によるものではなく、刺し傷にによる失血死、つまり刺殺と発表されたからだ。

 前日自分たちがケジメを取り終えた時は確かにまだ生きていた。それに、誰1人ナイフや刃物、その他なんの道具も持たずにやったことだったのだ。さすがにその後気を利かして救急車を呼んだりはしなかったが、それでも全員が生きていることは確認していた。

 だからもしニュースが嘘を言っていないのであれば、あの後倒れていた叶泰に刃を突き刺し、とどめを刺しに行った者がいるということになる。

 だが何故?誰がなんの為に?それは誰にも分からなかった。

 それから程なくして叶泰からケジメを取っていた少年たちが傷害の疑いで逮捕されたが、誰1人刃物の使用や殺意を認めなかった。

 警察も裁判所も世間もそれを信じなかったが、証拠は出ない上やはり全員暴行は加えたが絶対に死んでいなかったし刃物も使わなかったと最後まで意見を変えなかった。

 結局それ以上捜査に進展はなく、逮捕された少年たちも暴行はしたということで傷害の罪だけに留まり鑑別所を経て保護観察処分となり、ほんの2ヶ月で家に帰された。

 警察の捜査は完全に行き詰まり、鏡叶泰の殺人事件は事実上迷宮入りとなってしまった。

 本当の問題はこの後だ。叶泰のいた暴走族のメンバーが襲われるという事件が次々に起こったのである。

 走っていたら自転車だけが飛び出してきて突っこまされたり、走っている所をめがけて建物の上から植木鉢が降ってきたり、ブレーキが壊されていたりタイヤにオイルが塗られていたり、殺意すら感じる何者かに少年たちは次々に襲われていった。

 中にはその姿を見た者もいる。自転車に突っこみ転倒し何事かと辺りを見回すと、恐ろしい狐の面を被った白い人影が刀を持って自分の方に歩いてくるのが見えたので、恐怖のあまり少年は倒れた単車もそのままに全力で走って命からがら逃げ出したということだった。

 さすがに少年たちも警察には助けを求められなかったが、次々にケガ人が出るとその噂はすぐに広まり警察でも問題視されていた。

 だがこちらも犯人の目星は誰にもつかず、最初は死んだ叶泰が復讐に来たなんて言われていたのだが、それ以降から最近にかけては標的がレディースになっているらしく、その被害は大阪周辺のチームにまで及んでいる。

 叶泰の亡霊なら女は関係ないはず。この一見無差別に見える襲撃が謎を呼び、関西の暴走族たちを恐怖に震え上がらせ今も犠牲者を増やし続けている。

 その謎の襲撃犯を暴走族たちは「白狐」と呼んで噂していた。
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