第24話 あの日の答え

文字数 2,335文字

 殺された鏡叶泰と咲薇は幼馴染みだった。歳は咲薇が1つ下だが家もすぐ近くで親同士も付き合いがあり、2人は小さい頃からとても仲がよかった。

 咲薇の覚えてる限りでは叶泰が死ぬまで少なくとも1日1回は必ず顔を合わせていた。今日はまだ会ってないなと思えばどちらかが会いにくる位の関係ということだ。

 そんな家族のような2人だが咲薇は小さい時から密かに叶泰に思いを寄せていた。だが咲薇はそんなこと口にしなかった。

 叶泰が咲薇の気持ちに気づかない程叶泰はモテた方だったし、咲薇もただの幼馴染みとして聞き役に徹していた。だから叶泰はそんなこと知るよしもなかったのだ。

 こんな女と付き合ってる。あの子可愛いな。あいつとやってしまったなど。叶泰が笑って話す胸に突き刺さるようなその言葉を、咲薇はいつもうんうんと聞いていた。

 叶泰は中学の頃から不良で、卒業後そのまま地元の暴走族に入ったので高校には行かず建設業に就いた。

 そんな姿も咲薇には輝いて見えていて、咲薇は剣道の部活もあったのでずっと真面目にやっていたが中学最後の大会が終わったのを機に髪を染めたりして目立つようになっていった。誰に迷惑をかける訳でもなかったが不良の先輩にも声をかけられるようになり、高校生になってから地元のレディースに入ることが決まった。

 突然暴走族に入れと言われたらほとんどの女の子が断るだろう。だが咲薇はそれでよかった。叶泰と同じ環境、目の届く所にいれることが咲薇にとって1番の望みだったからだ。

 集会などで並んで走ったり同じ景色を見れることが嬉しかった。男と女で入るチームは違うが、だいたいどこの地域も周辺の暴走族が全て集まって走るので、同じ集会に参加できるどころか特攻服姿の叶泰を間近で見ることができる。

 彼女としていれた訳ではなかったが、それでも咲薇は幸せだったのだ。

 しかしそんな日々も長くは続かなかった。

 叶泰から話があると呼び出された咲薇はそれを聞いて愕然とした。

『結婚しようと思うんや』

 付き合っている彼女がいるのはいつものことだったが、その言葉を聞いた時咲薇は動揺を隠せなかった。

『どうしたん?なんでそんな急に…』

 その彼女というのが事情が複雑らしく、とても傷つきながら生きてきた人という話だった。今のままでも付き合って側にいることはできるが、いっそ全部やめて彼女の為だけに生きてみたい。その彼女を幸せにしてあげたい。そう思ったと叶泰は言った。いつもなら叶泰の相談にちゃんと考えて答えることができたのに、この時咲薇はそれができなかった。

『そうやって、せっかく同じ景色見れると思てたのに、またあたしの手の届かない所へ行ってしまうんやね。なぁ叶泰。あたしあんたのことが好きなんよ。知ってた?』

 いきなりの告白に何も言えずにいる叶泰の背中を叩くと咲薇は寂しげに笑った。

『彼女幸せにせんかったら知らんからね。』

『咲薇…』

 もうこれで自分が叶泰の恋人になれることはない。完全に。こんなことなら1度でも思いを伝えるべきだった。あの時も、どの時も…

 たとえそれで少し顔を見るのが気まずくなったとしても、こんな風に後悔が残るよりはよかった。咲薇はそう思っていた。

 しかしそこからまた話は動き始めるのだった。

 その後日、咲薇はまた叶泰に呼び出された。

『今からウチ来てくれ』

『なんや、ケンカでもしたんか?』

 いつも通りのことだと思い彼の部屋を訪れると、予想通り叶泰は浮かない顔をしていた。

『咲薇。あのな、今すっごい迷ってんねん』

 今度は何があったのか聞こうと思った時、突然咲薇は叶泰に抱きしめられた。

『ちょっと、何してんの?こんなんされたら見損なうやろ』

 腕をほどこうとしたが叶泰はもっと強く抱きしめてきた。そして…

『んっ』

 咲薇はされるがままに唇を奪われていた。それが咲薇のファーストキスだった。

 驚いたし信じられなかった。でも死ぬ程嬉しかった。どんな形であれ、ずっと好きだったという思いが叶った瞬間だった。

 叶泰はそのまま咲薇を押し倒すと何度も口づけしながら次々に着ている物を取り払っていく。少し慣れた手つきでどんどん先へ進んでいってしまう。そして咲薇は何もかも許し受け止めてしまった。全てを体で受け止めた。

 肌が触れ合うことがこんなに気持ちいいことだとは知らなかった。初めての痛みも全然怖くなかった。今誰よりも彼の近くにいるから他の物なんて何1ついらないと思えた。

 それからも2人は何度も愛し合った。会う度に体で溶け合い心を重ねて混ざり合った。

 それが良いことじゃないのは分かっていた。ひどいことも理解できた。でも2人は止まれずただ堕ちていった。

 結局叶泰はどうするのか決められないまま暴走族をやめる日を迎えてしまった。その時もケジメをつけに行くその直前まで叶泰は咲薇と一緒にいた。

『あのな、咲薇。全部終わったら連絡する。後で俺の答えを聞いてほしい』

『うん。分かった、待ってる』

 そう言って咲薇と叶泰は別れた。しかし彼から連絡が来ることはなく、それ以来叶泰は戻らなかった。

 咲薇は次の日ニュースで叶泰の死を確認するとひざから崩れ落ちた。

『え?え?』

『なんで?』

『嘘や…』

 消えてしまいそうな弱々しい声でオロオロするだけだった。

 結局咲薇はあの時の答えを聞けないまま生きている。

 その後咲薇は叶泰の家族にお願いして叶泰の乗っていた単車をもらうことにした。それが今のCX650である。

 あの時叶泰はなんと言うつもりだったのだろう。その答えは見つからないまま彼女は今も走っている。

(あの事件につながりが?無差別やないてどーゆーこと?戦争が始まるやて?何言うてんねん…)

 そう思いながらも咲薇は胸騒ぎが治まらなかった。
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