第92話 告白

文字数 998文字

『冬ちゃん、どうしたんや?話って…』

 私は自分のこれまでの人生全て。

 生まれてすぐに捨てられたこと。

 いじめられていたこと。園長のこと。

 それでも施設を出て心ある姉妹と出会い、お世話になり今日まで生きてきたことを話した。

 それとアヤメのことも…

 彼は笑うわけでも、大きな声を出して驚くでもなく言った。

『…君がなんか、悲しい目をしとる訳が分かったわ』

『悲しい…目?』

『あぁ、そうや。知ってるか?人間て目に表れる生き物やで。喜んどる奴も怒っとる奴も、悪いこと考えてる奴も大抵目に出る。君は初めて見た時からなんか目が悲しそうやった。その理由が少し分かった気がしてな』

 私には自分がそんな目をしているのかは分からなかった。

『寂しかったやろ。誰にもずっと言えんまま生きてたゆーことやもんな。寂しくない訳がないな』

「ほら冬、頑張って!」

 アヤメが中からそっと声をかけてくれたが、私は心臓がバクバクで何から言葉にすればいいか分からなかった。そんな私をよそに叶泰くんは続けた。

『心配せんでも大丈夫や。君は心が綺麗やから、君のことを大切にしてくれる人たちにこれからもっと出会えるよ。ありがとうな、話してくれて。これからもなんかあったらいつでも言うてや。…あれ、でもなんでこんな大事なこと俺なんかに話してくれたんや?』

 体が熱くなった。体中を血がすごい早さで巡っているのが分かった。

『あの…あたし、叶泰くんが好きです。叶泰くんと出会って、よく会うようになってから、あなたのことを考えてることが多くなって。でも、どうしたらいいか分からなくて、だから…だから、伝えようって決めて…』

 叶泰くんもさすがに困った顔をしていた。

 それはそうだ。彼には美人でモデルのような彼女がいる。私のような女が何をしても無駄なのも迷惑なのも分かっていた。

『えっと…』

 彼が言葉に困っていたので私はやはり悪い気持ちになってしまった。

『ごめんなさい。気にしないでください。今日はありがとうございました』

 私は頭を下げてそそくさと立ち去ってしまった。

 自分の気持ちを言えたことは確かにスッキリしてよかったのだけど、彼を困らせてしまったことが心残りだった。

 このまま気まずくなって会えなくなるかもしれないなと思うと切ない気持ちになった。

 案の定叶泰くんはそれ以来花屋の前も通らなくなり、あんなに毎日のように顔を見ていたのに嘘のように消えてしまった。
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