第101話 超えたいのなら

文字数 999文字

 伴がまず向かったのは神楽絆の自宅だった。横浜のとあるマンションに彼女は1人で住んでいる。

 伴はエントランスを入っていく人の後をついていき勝手に神楽の部屋の前まで来るとインターホンを押した。中から玄関に向かってくる足音が聞こえるとガチャとすぐにドアが開いた。

 伴はこの前もそんな風にしてここにきた。なので神楽もおそらくはと思っていたのだろう。

『…なんだ如月、いきなり』

『突然で悪いのだけど今から私と一緒に大阪に行ってもらいたいの。すぐに準備をしてもらえる?』

『は?は?いきなり来てとんでもないことを全然当たり前のように言うんじゃないよ。何考えてんだい?』

 神楽は訳など知らずとても迷惑そうな顔をした。

『みんなが大変なの。あなたの力をどうか貸してほしいのよ』

『ジョーダン言うなよ。今度はなんだい?また戦争でもしようってのかい?あのね、あたしゃあんたたちの友達じゃないんだよ。他当たってくれ』

『何を言ってるの?あなたの代わりなんている訳ないじゃない。あなたの、神楽絆の力が必要なのよ』

『あたしを仲間扱いするのはよしてくれ。なんで自分の兄貴殺した奴の妹なんか助けなきゃいけないんだ?勘弁してくれ』

『…そう。やっぱりあなた、お兄さんの死を引きずってるのね』

『気に障る言い方だねぇ。お前あたしを怒らせたいのかい?』

 神楽は今のでかなり機嫌を損ねただろう。これでは一緒に行ってくれどころではない。

『あなたにしか分からない気持ちや悲しみがあるのは分かるわ。だけど仲間なら側で支えることができると思ってる』

『へぇ…ご立派なことで』

『でもあなたは、まだ全部人のせいにして受け止めることから逃げてる。そうでしょ?』

『…なんだと?』

『でなければ、あんな言葉は出てこないはずだわ』

『帰れ。消えな』

『そう思うのは、もし私があなたと同じようにして逆に今あの人を失ったら、きっと同じことを言うと思ったからよ。私はあなたにはなってあげられないけど、少しでも分かってあげられたら私でも何かの支えになれるかと思ったの。ごめんなさいね、きっと気を悪くさせてしまったわね』

 神楽は怒りよりも憎しみの込もった目を向けている。

『もちろん、あなたの力も借りに来たわ。でもね、あなたがもし超えたいのなら私は手を貸したいわ。ねぇ一緒に行きましょうよ、仲間の所へ』

『何が仲間だ』

『…そう。まぁ、無理にとは言わないわ』

 伴は仕方なく1人で駅に向かった。
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