第77話 神楽縁
文字数 2,179文字
神楽絆には縁(えにし)という3つ上の兄がいた。
そして神楽縁は暁龍玖の親友であり同じ暴走族の仲間だった。
神楽兄妹に親はいなかった。両親共若くして他界し神楽兄妹は2人暮らしで、兄の縁は中学を卒業する前からすでに働いていた。
選択肢などなかったがそれをちゃんと自分で受け入れ、妹を食わせることに必死でお金を稼いだ。
そんな縁のことを分かってくれたのが龍玖だった。龍玖の母は健在だったが子供のことなど見るような親ではなく、父がいなくなってから妹の面倒は龍玖が見ていた。
2人にはそんな共通点があり、お互いの苦労がよく分かった。
そして地元では名前の売れた不良で中学卒業後2人は暴走族に入ったのだ。龍玖がチームの総長で縁は副総長になり、2人を慕う仲間でチームは形成された。
愛羽が兄のことを大好きなように神楽絆も縁のことが大好きだった。暴走族で不良だが真面目でよく働き妹思いの自慢の兄だった。
それは龍玖が愛羽の為に親から離れ地元を出て2人で生きていくことを考えた時だった。
1番始めに縁に相談をした。
正直龍玖はチームを辞めると言ってどんな顔をされるか分からなかった。どちらかと言えばいい顔はしないと思っていた。
『素敵な話だなぁ、妹を連れて町を出るなんてさ。暴走族よりやりたいことが見つかったなんて羨ましいよ。お前はやっぱりカッコいい男だよ、龍玖』
縁は予想もしなかった温かい言葉をかけてくれた。
『縁…』
『愛羽ちゃんのことバッチリ守っていつも笑わせてやれよ』
龍玖は自分の勝手な理由でやめるのだからケジメを取ってやめたいと申し出た。
『バーカ。チームのことなんか気にするな。ケジメつけようと思うのならいつか必ずお前たちの幸せな姿を報告に来いよ。もう俺が頭なんだからな。俺の言うことが絶対だ。まぁ、どっちにしても…お前が決めたことに文句つける奴なんかウチにはいねぇよ』
龍玖は思わず胸が熱くなった。
『縁、ありがとう。俺はお前と一緒にやってこれて本当によかった』
そう言って頭を下げると縁は笑って言った。
『よしてくれよ、気持ち悪い』
そしてその後、龍玖がいなくなってから敵対していた暴走族と抗争になった。
それは何日にも渡って続き、相手チームの人間を見つけては互いに潰し合い、街のあらゆる所で昼夜問わずケンカが起こった。
そうして収まりがつかない状況になってしまったのだ。
『もう…やめよう』
考えた結果、縁はそう言い出した。
『この争いに意味はない。ケガ人と悲しむ人が増えるだけだ』
仲間たちと相手チームにもそう伝えたが相手チームの答えはこうだった。
『今更そんなんで収まる訳ねーだろ。収まりつけたいんならテメー1人でこっちにケジメつけに来い』
周りの仲間はそんなのはおかしいと反対し止めたのだが縁は聞かなかった。
『もうこれ以上犠牲者が出る前に俺は終わらせたいんだ。それが今俺にできる唯一のケジメなら俺はそれを受け入れる。だからみんなも、もうやめよう』
そう言って縁は1人敵の所に出向いていき、それがあろうことか帰らぬ人になってしまった。
ケジメという凄惨なリンチが何時間にも渡って行われた結果だった。
龍玖がそのことを知ったのはそれがニュースになったからだった。縁はそんな時でも龍玖には連絡すらしようとしなかった。
地元を出て携帯の番号を新しくした龍玖だったが縁にだけは連絡先を伝えていた。
だが縁は連絡しないどころか、万が一龍玖に会ってもあいつをもう関わらせるなと仲間たちに強く念を押していたのである。
龍玖は信じられなかった。
横浜の暴走族の総長が暴行を加えられた後に死亡しているのが見つかったと、テレビがその日のニュースで大きく取り上げていたからだ。
縁に電話しても電源は入っておらず、家を訪ねても誰かいる気配はなかった。家を知っている他の仲間たちを訪ねても誰1人としてつかまらず、龍玖は何も聞くことができなかった。
そして数日後警察がやってきて、龍玖は任意で事情をということで連れていかれたが話の内容はこうだった。
相手チームのメンバーは抗争の末ケジメを取ったと話したらしいのだが、龍玖の仲間たちは誰1人として何1つ語らなかったのである。
これに困った警察は今はもうチームを離れているとは知っていたが龍玖の元を訪れるしかなかったのだ。
仲間たちの悔しさや悲しみが聞かなくても分かった。
考えた結果龍玖はこの戦争は自分が始めたことで、全て自分が指示し仲間に抗争をさせ相手を巻き込み、その挙句縁にケジメを取って終わらせるようにさせたのだと言ってしまったのである。
それが自分にできる償いだと思っていた。
自分は何も知らないまま、自分と愛羽を温かく新しい人生に送り出してくれた親友を死なせてしまった。
そんな自分を許せるはずがなかった。
そして5年の実刑を受けることになったが気がかりなのは自分と縁の妹たちだった。
龍玖は弁護士を通して神楽に生活費としてお金を送ったのだが、彼女は1度も受け取らなかった。
だから出所したらまず神楽の所へ行き謝罪することを決めていた。
たとえ殴られようと刺されようとそれがまず第1で、そんなことが務まるともさせてもらえるとも思えなかったが、自分の命がある限りは縁の代わりに尽くしていきたいと思っている。
それが亡き親友への誓いだった。
そして神楽縁は暁龍玖の親友であり同じ暴走族の仲間だった。
神楽兄妹に親はいなかった。両親共若くして他界し神楽兄妹は2人暮らしで、兄の縁は中学を卒業する前からすでに働いていた。
選択肢などなかったがそれをちゃんと自分で受け入れ、妹を食わせることに必死でお金を稼いだ。
そんな縁のことを分かってくれたのが龍玖だった。龍玖の母は健在だったが子供のことなど見るような親ではなく、父がいなくなってから妹の面倒は龍玖が見ていた。
2人にはそんな共通点があり、お互いの苦労がよく分かった。
そして地元では名前の売れた不良で中学卒業後2人は暴走族に入ったのだ。龍玖がチームの総長で縁は副総長になり、2人を慕う仲間でチームは形成された。
愛羽が兄のことを大好きなように神楽絆も縁のことが大好きだった。暴走族で不良だが真面目でよく働き妹思いの自慢の兄だった。
それは龍玖が愛羽の為に親から離れ地元を出て2人で生きていくことを考えた時だった。
1番始めに縁に相談をした。
正直龍玖はチームを辞めると言ってどんな顔をされるか分からなかった。どちらかと言えばいい顔はしないと思っていた。
『素敵な話だなぁ、妹を連れて町を出るなんてさ。暴走族よりやりたいことが見つかったなんて羨ましいよ。お前はやっぱりカッコいい男だよ、龍玖』
縁は予想もしなかった温かい言葉をかけてくれた。
『縁…』
『愛羽ちゃんのことバッチリ守っていつも笑わせてやれよ』
龍玖は自分の勝手な理由でやめるのだからケジメを取ってやめたいと申し出た。
『バーカ。チームのことなんか気にするな。ケジメつけようと思うのならいつか必ずお前たちの幸せな姿を報告に来いよ。もう俺が頭なんだからな。俺の言うことが絶対だ。まぁ、どっちにしても…お前が決めたことに文句つける奴なんかウチにはいねぇよ』
龍玖は思わず胸が熱くなった。
『縁、ありがとう。俺はお前と一緒にやってこれて本当によかった』
そう言って頭を下げると縁は笑って言った。
『よしてくれよ、気持ち悪い』
そしてその後、龍玖がいなくなってから敵対していた暴走族と抗争になった。
それは何日にも渡って続き、相手チームの人間を見つけては互いに潰し合い、街のあらゆる所で昼夜問わずケンカが起こった。
そうして収まりがつかない状況になってしまったのだ。
『もう…やめよう』
考えた結果、縁はそう言い出した。
『この争いに意味はない。ケガ人と悲しむ人が増えるだけだ』
仲間たちと相手チームにもそう伝えたが相手チームの答えはこうだった。
『今更そんなんで収まる訳ねーだろ。収まりつけたいんならテメー1人でこっちにケジメつけに来い』
周りの仲間はそんなのはおかしいと反対し止めたのだが縁は聞かなかった。
『もうこれ以上犠牲者が出る前に俺は終わらせたいんだ。それが今俺にできる唯一のケジメなら俺はそれを受け入れる。だからみんなも、もうやめよう』
そう言って縁は1人敵の所に出向いていき、それがあろうことか帰らぬ人になってしまった。
ケジメという凄惨なリンチが何時間にも渡って行われた結果だった。
龍玖がそのことを知ったのはそれがニュースになったからだった。縁はそんな時でも龍玖には連絡すらしようとしなかった。
地元を出て携帯の番号を新しくした龍玖だったが縁にだけは連絡先を伝えていた。
だが縁は連絡しないどころか、万が一龍玖に会ってもあいつをもう関わらせるなと仲間たちに強く念を押していたのである。
龍玖は信じられなかった。
横浜の暴走族の総長が暴行を加えられた後に死亡しているのが見つかったと、テレビがその日のニュースで大きく取り上げていたからだ。
縁に電話しても電源は入っておらず、家を訪ねても誰かいる気配はなかった。家を知っている他の仲間たちを訪ねても誰1人としてつかまらず、龍玖は何も聞くことができなかった。
そして数日後警察がやってきて、龍玖は任意で事情をということで連れていかれたが話の内容はこうだった。
相手チームのメンバーは抗争の末ケジメを取ったと話したらしいのだが、龍玖の仲間たちは誰1人として何1つ語らなかったのである。
これに困った警察は今はもうチームを離れているとは知っていたが龍玖の元を訪れるしかなかったのだ。
仲間たちの悔しさや悲しみが聞かなくても分かった。
考えた結果龍玖はこの戦争は自分が始めたことで、全て自分が指示し仲間に抗争をさせ相手を巻き込み、その挙句縁にケジメを取って終わらせるようにさせたのだと言ってしまったのである。
それが自分にできる償いだと思っていた。
自分は何も知らないまま、自分と愛羽を温かく新しい人生に送り出してくれた親友を死なせてしまった。
そんな自分を許せるはずがなかった。
そして5年の実刑を受けることになったが気がかりなのは自分と縁の妹たちだった。
龍玖は弁護士を通して神楽に生活費としてお金を送ったのだが、彼女は1度も受け取らなかった。
だから出所したらまず神楽の所へ行き謝罪することを決めていた。
たとえ殴られようと刺されようとそれがまず第1で、そんなことが務まるともさせてもらえるとも思えなかったが、自分の命がある限りは縁の代わりに尽くしていきたいと思っている。
それが亡き親友への誓いだった。