第93話 幸せの日

文字数 1,026文字

 それからまた少し時間が進んで思いもよらないことが起きた。

 あれ以来やはり連絡も来なくなってしまっていた叶泰くんからまさかの電話がかかってきたのだ。

 私は一瞬出るのをためらってしまったがなんとか電話を取った。

『…はい』

 私がそうさせてしまったのか彼はいつになく喋りだすまでに間を挟んだ。

『……冬ちゃん。時間あったら、ちょっと会ってほしいんやけど…』

 なんの用かは分からなかったが、でも、もし会えるのなら会いたかった。

『…はい。時間はあります』

 私は叶泰くんと会うことにした。叶泰くんは私の家のすぐ近くまで来てくれ顔を合わせると彼はすぐ喋り始めた。

『あれからずっと考えとった。今の自分の気持ちをや。浬のことは好きや。あいつはホンマにえぇ奴やし、俺のこと分かってくれる大切な人や。でも…君の目を思い出したらな。いや、思い出したらというか忘れられへんかったんや。今俺が守ってあげたいんはどっちなんや。君の目を俺がもっと違う色に変えてあげられるんやないか。そんなことばかり考えてしまって、自分でもどうすればえぇか分からんかった。でも、もし俺が君の出した勇気に応えられないで終わらせてしまったら、君はまた1人で生きるんかなと思ったら、それは絶対させられへんと思った。この気持ちが好きからなのかどこからなのか分かってません。でも君のことをこれからずっと好きになっていけるのは分かってます。彼女とは先週別れてきました。俺が冬ちゃんのこと守って、笑わせてみせるから、まだ間に合うなら俺と…付き合ってもらえませんか?』

 私は聞こえてきた言葉が信じられなかった。

 だけど温かいものに貫かれていくような気分で嬉しさに涙した。

 彼を困らせ彼の彼女に嫌な思いをさせ、うしろめたい気持ちがあったがそれでも嬉しかった。

『よろしく…お願いします…』



 そうして叶泰くんと私は付き合うことになった。

 それからの私の毎日は変わった。この世界の全ての見え方が今までとは違って毎日が幸せだった。

 私のたった1人の妹アヤメのことも入れ替わってちゃんと紹介した。その事実を理解してくれるか、受け入れてもらえるかは不安だったが彼は分かってくれた。アヤメもそのことを気にしていたので、彼が理解力のある人で本当によかった。

 叶泰くんと生きる明日は私の希望で光だった。

 叶泰くんのいる今日が私にとっての全てだった。

 いつまでもこんな日々が続いていくことを願っていたし信じていた。

 あんなことが起こるまでは…
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