第125話 真犯人
文字数 3,301文字
『疎井冬。余計なことしやがって。お前なんてあの男を追っかけて自殺でもなんでもしちまえばよかったんだ。この亡霊女め』
キョロキョロしだしたと思ったら数秒黙りこんでしまい、かと思えば急に喋り始めた咲薇を見て誰もが目と耳を疑った。
『咲薇…ちゃん?』
『今、喋ったの咲薇ちゃんだよね?』
愛羽も掠もほんの数秒前との変わり様に驚きを隠せなかった。
そして咲薇であるはずの女は言葉を返した。
『私は咲薇じゃない。そして鏡叶泰を刺したのは咲薇じゃない。この私だ。そしてそれは誰も知ってはいけないはずの真実だった』
咲薇は再び刀を抜き、刃を冬に向けて凶悪な笑いを見せた。
『よって、お前ら全員ここで死ね』
咲薇は冬に向かって走りだした。
『疎井冬。まずはてめぇからだ!!』
冬が1歩も動けない内に咲薇は一気に斬りかかった。
「ガキィィン!」
刀と刀が激しくぶつかり合う音が響くと、もう1本の刀を手に風雅が咲薇の刀を食い止めていた。
『風ちゃん!』
『みんな離れて!!僕がなんとかするから絶対側に寄らないで!!』
風雅は相手の刀を弾き返すと距離をとり改めて刀を構えた。
『鞘真風雅。邪魔するなら先に死ぬことになるぞ』
『それならそれで構わない。君を助けることができるならね』
『助けるだと?笑わせやがって』
咲薇は殺気だらけで風雅に襲いかかっていった。刀と刀が弾き合う度に火花が散る。
『風ちゃん危ない!!逃げて!!』
刀を持てない愛羽は助けに入ろうにも入っていけず、2人の間合いの外をウロウロするだけでどうすることもできなかった。
『愛羽、どきなはれ』
イデアが愛羽を自分の後ろに退けた。
『イデア…さん?』
『愛羽。あんさんを信じられへんかったこと、すまんかったな』
イデアはそう言うと短刀を手に歩いていった。
完全に殺す気でかかってくる咲薇に対し、風雅は攻められずにいた。
『死ね!!』
咲薇が風雅に対しおもいきり刀を振り払うと横から短刀がそれを防いだ。
『ちっ…イデア、てめぇも邪魔するのか』
『これ以上ここで流す血になんの意味もないことは、誰もが分かっていることでっしゃろ?』
『ふざけるな。てめぇらを殺して咲薇にもう2度とあの男に関わるものを近づけずに生きていくんだ。全員死んでもらう』
『そうやってその娘からまた大切なものを奪うんどすか?』
咲薇は刀を大きく振り回したが風雅とイデアはかわして少し離れた。
『奪うだと?』
『そうや。その娘から最愛の人を奪って、大切な仲間まで奪おうと言うのやろ?貴様、えぇ加減にしなはれや』
今度は横から萼が木刀で殴りかかっていく。咲薇はそれを刀で受けると萼を蹴り飛ばした。
萼は浬とのタイマンでかなりダメージを受けていたが黙って見ていられなかった。初恋の、そして今も心の奥底では忘れられずにいる人を殺した本人が目の前にいる。
しかもそれはその幼馴染みだった。そしてもっと重大な、悲しい事実が明らかになったのだ。
『…お前も2人やったということやな。咲薇やないんやったらお前は誰やねん!名乗らんかい!…そこの女のように、2つ名前があんねやったらな』
『名前などない。私は咲薇を守る者だ。だがそうだな、真実を朧に葬るとするなら真朧(まぼろ)でどうだ?風矢真朧でいい。これから死ぬ貴様らが知った所で意味のないことだがな』
自分の大切な人を自分の中のもう1人が殺してしまった。それはあまりにもむごく悲しい真実だった。
『おい咲薇!!逃げてへんで出てこいドアホ!こんな訳の分からん奴に何負けとんねん!あたしはそんな弱い奴に負けたんちゃうぞ!!』
『椿原、てめぇまだ分かってねぇらしいな。私は咲薇を守ってるんだよ』
『嘘や!!そいつはなぁ、侍桜言うてあたしがどんだけ挑んでも勝たれへんかった女や。お前みたいなもんに守られるような奴ちゃうねん。おい咲!!お前あたしとあいつが一緒におった頃いっつも笑てたやないか!』
あの萼が珍しく感情的になっていた。
『あたしはお前が悔しがる顔が見たかったんや。叶泰いつも言うてたで、咲薇はホンマにえぇ奴やって。だからあたしと仲良くしてほしいて口癖のようにな…お前それがなんやねん!!その女の言うてることが真実やとしても、それがショックで引きこもって顔も見せれんってか?そんなんやったらなぁ!最初から悔し涙の1つでも見せたらよかったやないか!お前はアホや。いっつもいい人強い人、頼れる人を装ってずっとずっとそうやったんやろ!?お前は人に弱さ見せれへんだけのアホや!!なんとか言うてみぃよ!!』
『うるさい犬だ。お前から先に消してやるか』
真朧は萼の方に向き直り斬りかかろうとしたが今度は槍が飛び出してきて真朧を殴りつけた。
『お前で…間違いないんやな?よかったわ…ちゃんと確信を持てる奴に会えて…お前は許さんぞ。絶対に…』
浬の目は赤く潤み、しかし瞳の奥で静かに炎を燃やしていた。
風雅、イデア、萼、浬の4人で真朧を囲む形になった。
『ふん。こざかしい奴らだ。いいだろう、かかってこい。一瞬で殺してやる』
4人はそれぞれ真朧の出方を窺っていた。
一撃目。日本刀相手に短刀、木刀は不利。そう思った風雅が自らかかっていった。刀を折れるか弾き飛ばせれば理想的。もしくは自分が斬られ刀を止めることができれば、あとは3人がなんとかできる。
だが刀に狙いを定めることなど真朧は分かりきっている。
「カキィン!」
真朧の一撃で風雅の刀は逆に折られてしまった。すかさず真朧は風雅を斬りにいく。
「キィン!」
半分に折られた刀でそれをなんとか防ぐと、後ろから浬が槍で真朧を殴りつけた。風雅が崩れた時に斬りにかかる踏みこむ一撃が唯一の隙とそこだけに集中していた。
『ぐっ…くそ共がぁ~!!』
真朧は浬の方へ向きを変え刀を振り払った。
「ガキィン!」
今度はイデアの短刀がそれを食い止めた。
『お見事…この勝負、斬られる覚悟を決めた風雅はんの勝ちどすな』
『黙れ!!』
真朧がまた刀を振りかぶる前に萼が木刀を真朧の刀を持つ手に渾身の力を込めて振り下ろした。
『あぁっ!!』
真朧の手から刀が落ちるともう拾わせないようイデアがそれを蹴飛ばした。真朧はもう丸腰だ。
『終わりや…観念しなはれ』
イデアと浬に萼が3人で真朧を追いつめる。無力化しなければ何をしてくるか分からない。
『ちょっと待ってくれよ』
そんな中綺夜羅が出ていった。
『わりぃんだけどさ、あたしにやらせてくれねーか?話がしたいんだ、そいつと…』
少し悔しそうに残念そうに歩み出た綺夜羅を見てイデアは短刀を鞘に収めた。萼も木刀を下ろし1歩下がると浬も不服そうだが下がってくれた。
『なぁ咲薇。あたしバカだからさ、まだちょっとこの状況理解すんのに頭がついてってねぇんだよ。疎井っつったか?あいつみてーにこうやって喋ってんのがお前の方に聞こえてんなら聞いてくれよ』
綺夜羅は真朧の方に1歩踏み出した。
『失せろ月下綺夜羅。お前なんぞに何が分かる』
『お前だって分かってんだろ?咲薇とあたしは盃交わした姉妹なんだってよ』
綺夜羅はまた1歩、また1歩と近づいていく。
『何が姉妹だバカめ。誰が悲しくてお前みたいな奴の姉妹になんかなるか。いい加減むしずが走るよ』
綺夜羅は指で挑発した。
『文句があんならタイマンはれよ。真朧、だったよな?遠慮しねーでいいからよ、あたし黙らせてーならかかってこいよ』
『このガキ!!』
真朧はおもいきり殴りつけた。
『綺夜羅!!』
掠が飛び出しそうになるのを愛羽が止める。
『…おら、全然効かねぇぞ。そんなヘナチョコパンチ。あたしのことも殺す気でかかってこいよ』
綺夜羅はまた向かっていき真朧はまた殴り飛ばした。あろうことか綺夜羅はノーガードだ。痛くない訳もダメージがない訳もなかったが何を考えているのか彼女はノーガードのまま殴られ続けた。1発もやり返さずに。
『なんの真似だ。姉妹には手ぇ出せねぇってか?カッコつけてんじゃねぇぞ!』
真朧は綺夜羅が棒立ちなのをいいことに腹に連続で拳を叩きこんだ。綺夜羅は真朧のサンドバッグ状態だった。
『白狐が誰とか…二重人格とか…よく分かんねぇけどよ…』
キョロキョロしだしたと思ったら数秒黙りこんでしまい、かと思えば急に喋り始めた咲薇を見て誰もが目と耳を疑った。
『咲薇…ちゃん?』
『今、喋ったの咲薇ちゃんだよね?』
愛羽も掠もほんの数秒前との変わり様に驚きを隠せなかった。
そして咲薇であるはずの女は言葉を返した。
『私は咲薇じゃない。そして鏡叶泰を刺したのは咲薇じゃない。この私だ。そしてそれは誰も知ってはいけないはずの真実だった』
咲薇は再び刀を抜き、刃を冬に向けて凶悪な笑いを見せた。
『よって、お前ら全員ここで死ね』
咲薇は冬に向かって走りだした。
『疎井冬。まずはてめぇからだ!!』
冬が1歩も動けない内に咲薇は一気に斬りかかった。
「ガキィィン!」
刀と刀が激しくぶつかり合う音が響くと、もう1本の刀を手に風雅が咲薇の刀を食い止めていた。
『風ちゃん!』
『みんな離れて!!僕がなんとかするから絶対側に寄らないで!!』
風雅は相手の刀を弾き返すと距離をとり改めて刀を構えた。
『鞘真風雅。邪魔するなら先に死ぬことになるぞ』
『それならそれで構わない。君を助けることができるならね』
『助けるだと?笑わせやがって』
咲薇は殺気だらけで風雅に襲いかかっていった。刀と刀が弾き合う度に火花が散る。
『風ちゃん危ない!!逃げて!!』
刀を持てない愛羽は助けに入ろうにも入っていけず、2人の間合いの外をウロウロするだけでどうすることもできなかった。
『愛羽、どきなはれ』
イデアが愛羽を自分の後ろに退けた。
『イデア…さん?』
『愛羽。あんさんを信じられへんかったこと、すまんかったな』
イデアはそう言うと短刀を手に歩いていった。
完全に殺す気でかかってくる咲薇に対し、風雅は攻められずにいた。
『死ね!!』
咲薇が風雅に対しおもいきり刀を振り払うと横から短刀がそれを防いだ。
『ちっ…イデア、てめぇも邪魔するのか』
『これ以上ここで流す血になんの意味もないことは、誰もが分かっていることでっしゃろ?』
『ふざけるな。てめぇらを殺して咲薇にもう2度とあの男に関わるものを近づけずに生きていくんだ。全員死んでもらう』
『そうやってその娘からまた大切なものを奪うんどすか?』
咲薇は刀を大きく振り回したが風雅とイデアはかわして少し離れた。
『奪うだと?』
『そうや。その娘から最愛の人を奪って、大切な仲間まで奪おうと言うのやろ?貴様、えぇ加減にしなはれや』
今度は横から萼が木刀で殴りかかっていく。咲薇はそれを刀で受けると萼を蹴り飛ばした。
萼は浬とのタイマンでかなりダメージを受けていたが黙って見ていられなかった。初恋の、そして今も心の奥底では忘れられずにいる人を殺した本人が目の前にいる。
しかもそれはその幼馴染みだった。そしてもっと重大な、悲しい事実が明らかになったのだ。
『…お前も2人やったということやな。咲薇やないんやったらお前は誰やねん!名乗らんかい!…そこの女のように、2つ名前があんねやったらな』
『名前などない。私は咲薇を守る者だ。だがそうだな、真実を朧に葬るとするなら真朧(まぼろ)でどうだ?風矢真朧でいい。これから死ぬ貴様らが知った所で意味のないことだがな』
自分の大切な人を自分の中のもう1人が殺してしまった。それはあまりにもむごく悲しい真実だった。
『おい咲薇!!逃げてへんで出てこいドアホ!こんな訳の分からん奴に何負けとんねん!あたしはそんな弱い奴に負けたんちゃうぞ!!』
『椿原、てめぇまだ分かってねぇらしいな。私は咲薇を守ってるんだよ』
『嘘や!!そいつはなぁ、侍桜言うてあたしがどんだけ挑んでも勝たれへんかった女や。お前みたいなもんに守られるような奴ちゃうねん。おい咲!!お前あたしとあいつが一緒におった頃いっつも笑てたやないか!』
あの萼が珍しく感情的になっていた。
『あたしはお前が悔しがる顔が見たかったんや。叶泰いつも言うてたで、咲薇はホンマにえぇ奴やって。だからあたしと仲良くしてほしいて口癖のようにな…お前それがなんやねん!!その女の言うてることが真実やとしても、それがショックで引きこもって顔も見せれんってか?そんなんやったらなぁ!最初から悔し涙の1つでも見せたらよかったやないか!お前はアホや。いっつもいい人強い人、頼れる人を装ってずっとずっとそうやったんやろ!?お前は人に弱さ見せれへんだけのアホや!!なんとか言うてみぃよ!!』
『うるさい犬だ。お前から先に消してやるか』
真朧は萼の方に向き直り斬りかかろうとしたが今度は槍が飛び出してきて真朧を殴りつけた。
『お前で…間違いないんやな?よかったわ…ちゃんと確信を持てる奴に会えて…お前は許さんぞ。絶対に…』
浬の目は赤く潤み、しかし瞳の奥で静かに炎を燃やしていた。
風雅、イデア、萼、浬の4人で真朧を囲む形になった。
『ふん。こざかしい奴らだ。いいだろう、かかってこい。一瞬で殺してやる』
4人はそれぞれ真朧の出方を窺っていた。
一撃目。日本刀相手に短刀、木刀は不利。そう思った風雅が自らかかっていった。刀を折れるか弾き飛ばせれば理想的。もしくは自分が斬られ刀を止めることができれば、あとは3人がなんとかできる。
だが刀に狙いを定めることなど真朧は分かりきっている。
「カキィン!」
真朧の一撃で風雅の刀は逆に折られてしまった。すかさず真朧は風雅を斬りにいく。
「キィン!」
半分に折られた刀でそれをなんとか防ぐと、後ろから浬が槍で真朧を殴りつけた。風雅が崩れた時に斬りにかかる踏みこむ一撃が唯一の隙とそこだけに集中していた。
『ぐっ…くそ共がぁ~!!』
真朧は浬の方へ向きを変え刀を振り払った。
「ガキィン!」
今度はイデアの短刀がそれを食い止めた。
『お見事…この勝負、斬られる覚悟を決めた風雅はんの勝ちどすな』
『黙れ!!』
真朧がまた刀を振りかぶる前に萼が木刀を真朧の刀を持つ手に渾身の力を込めて振り下ろした。
『あぁっ!!』
真朧の手から刀が落ちるともう拾わせないようイデアがそれを蹴飛ばした。真朧はもう丸腰だ。
『終わりや…観念しなはれ』
イデアと浬に萼が3人で真朧を追いつめる。無力化しなければ何をしてくるか分からない。
『ちょっと待ってくれよ』
そんな中綺夜羅が出ていった。
『わりぃんだけどさ、あたしにやらせてくれねーか?話がしたいんだ、そいつと…』
少し悔しそうに残念そうに歩み出た綺夜羅を見てイデアは短刀を鞘に収めた。萼も木刀を下ろし1歩下がると浬も不服そうだが下がってくれた。
『なぁ咲薇。あたしバカだからさ、まだちょっとこの状況理解すんのに頭がついてってねぇんだよ。疎井っつったか?あいつみてーにこうやって喋ってんのがお前の方に聞こえてんなら聞いてくれよ』
綺夜羅は真朧の方に1歩踏み出した。
『失せろ月下綺夜羅。お前なんぞに何が分かる』
『お前だって分かってんだろ?咲薇とあたしは盃交わした姉妹なんだってよ』
綺夜羅はまた1歩、また1歩と近づいていく。
『何が姉妹だバカめ。誰が悲しくてお前みたいな奴の姉妹になんかなるか。いい加減むしずが走るよ』
綺夜羅は指で挑発した。
『文句があんならタイマンはれよ。真朧、だったよな?遠慮しねーでいいからよ、あたし黙らせてーならかかってこいよ』
『このガキ!!』
真朧はおもいきり殴りつけた。
『綺夜羅!!』
掠が飛び出しそうになるのを愛羽が止める。
『…おら、全然効かねぇぞ。そんなヘナチョコパンチ。あたしのことも殺す気でかかってこいよ』
綺夜羅はまた向かっていき真朧はまた殴り飛ばした。あろうことか綺夜羅はノーガードだ。痛くない訳もダメージがない訳もなかったが何を考えているのか彼女はノーガードのまま殴られ続けた。1発もやり返さずに。
『なんの真似だ。姉妹には手ぇ出せねぇってか?カッコつけてんじゃねぇぞ!』
真朧は綺夜羅が棒立ちなのをいいことに腹に連続で拳を叩きこんだ。綺夜羅は真朧のサンドバッグ状態だった。
『白狐が誰とか…二重人格とか…よく分かんねぇけどよ…』