第129話 さようなら友よ

文字数 1,315文字

『ダメだよ、咲薇ちゃん…バカなこと…しないで…』

 咲薇が自分に刃を突き刺す寸前で横から愛羽が自分の手をその間にすべりこませた。ナイフの刃先は愛羽の手のひらで止まり、その手を血だらけにした。

『なんでや…もうえぇねん。ずっと好きだった人を自分で死なせておいて、もう生きていける訳がないやろ?もう嫌や。死なせてくれ…それやなかったら誰かあたしを殺してくれ』

 咲薇は涙を流しながら言った。

 その時だ。

「ドーン!!!」と大きな音が鳴った。

 一瞬それに合わせて地響きが起こり一同は顔を見合わせた。

『何?今の…』

『花火?』

『いや、今の揺れはなんだったの?』

 それはすでに火の海と化した1階の内部に停まっていた単車のタンクに引火し起きた爆発だった。だがみんなそんなこと知るよしもなく何事か分からずにいると誰かが走ってきた。

『あっ!おったおった!お~い!こっちにおったぞ!』

 現れたのは眩だった。仲間たちがおそらくまだ知らずにいるはずだと瞬たちと協力し手分けして探していたのだ。

『眩…』

『冬!早よ逃げなみんな焼け死ぬで!1階からごっつい火が上がっとんねん!』

『えぇっ!?』

 愛羽たちは声を揃えて驚いた。

『みんなこっちや!非常口があんねん!』

 眩が走りだし、みんな急いでそれに続こうとしたが咲薇が動かなかった。

『おい咲薇!行くぞ!』

『みんな行ってくれ。あたしは残るから』

『なっ、バッ、いいからとりあえず行くぞ!早くしろよ!』

 綺夜羅は引っぱろうとしたが咲薇は動こうとしなかった。

『このままじゃみんな死んじまう!咲薇、頼むから行こう!』

 そこまで言われて咲薇はやっと動きだした。

 眩に続いてみんなまだ火の手の少ない非常口の方へ向かった。咲薇たちを最後に全員非常口から脱出できた。

 だがそう思った瞬間、咲薇は自分だけ中に残り内側から鍵をかけた。

『おい咲薇!何やってんだよ!おい開けろ!出てこいよ!』

『咲薇ちゃんお願い開けて!』

 綺夜羅に愛羽、他のみんなもドアを叩いたりノブをガチャガチャしながら中にいる咲薇を呼んだ。

『みんなごめん。もうえぇから逃げてくれ。あたしはこうなる運命やったんや。これでえぇねん。あたしはもう家にも帰れへん。叶泰のママや家族にも2度と会われへん。あたしはもうここで死んで終わりにしたいんや』

『バカなこと言ってんじゃねーぞ。おい早くここ開けて出てこい!』

『ねぇ咲薇ちゃん開けてよ!』

『月下さん!』

 しかし閉ざされた扉の向こうから返ってきたのは別れの言葉だった。

『綺夜羅、愛羽、瞬、ありがとう。君らに会えてホンマによかった。この何日間か色々あったけど楽しかった。あたしを仲間に入れてくれて、めっちゃ嬉しかったよ。ホンマにありがとう』

 みんな叫んだがもう咲薇の声は返ってこなかった。

『バッカやろう!!…死なせてたまるかよ…』

 綺夜羅はドアを殴りつけると辺りを見回した。だが近くに窓など見当たらず、見渡す限りに他の出入口はない。

 そして綺夜羅は上を見た。この上は屋上になっている。

 屋上へよじ登ると思った通り上にはペントハウスがある。出入りもできそうだ。

 綺夜羅に続き瞬が上がり、愛羽も瞬に引っぱり上げてもらい3人で急いで中へと向かった。
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