第73話大人たちの相談は続く 元と奈穂美のデュオ

文字数 1,256文字

教会の談話室では、大人たちによる話し合いが続いていた。
中村
「元君の祖母、本多佳子さんの話では、元君を施設に預ける時と田中夫妻に預ける時は、児童売買はないとのことです」
「養育費は過分に施設に払ったけれど、との意味になります」
「書面に書いてあったとしても、それは施設長が勝手に書いただけとか」

マルコ神父は目を閉じた。
「いつかは、元君に真実を言わなければならない」
「本多家のこと、山岡氏のこと」
「田中夫妻との関係の整理も必要と思いますね」

シスター・アンジェラは、悩むような顔。
「元君が、素直に聞くでしょうか」
「誰だって、そんな話を聞かされて・・・はい、わかりました、とは言えないかと」

シスター・アンジェラは、少し間をおいて、また続けた。
「実の両親に捨てられた事実は変えようがなく」
「いくら、祖母が陰で見ていたとしても」
「実の両親は、何の音沙汰もない」
「無責任に、勝手に自分のしたい音楽をしているだけ」
「そのうえ、祖母の意向で、施設から出されて」
「田中夫妻に預けられたら、ご承知の通り、酷い虐待やネグレクトの限り」
「元君の身体と心を痛めて来た、その蓄積は、はかり知れませんよ」
「・・・元君に何の罪があって、こんなに苦しんで育ったのか」
「晴れがましい、賞賛されるべきコンクールの結果まで、酷い目に」
「全部、大人の身勝手の犠牲になって」

マルコ神父が、シスター・アンジェラを制した。
「とにかく、今は元君の身の安全を第一にしよう」
「そして、日曜集会の成功を確実なものにする」

中村が、マルコ神父に聞く
「本多佳子さんが、日曜の集会に来たいと申しておりました」
マルコ神父は、即答。
「私から早速、連絡をします、電話番号を教えていただきたい」
中村が、本多佳子の携帯の番号を教えると、マルコ神父はそのまま電話。
簡単な自己紹介と、当日のお迎えまでを伝えている。


さて、教会では。奈穂美が元に迫った。
「私も歌いたい」
元は、ぶっきらぼう。
「奈穂美さん、歌えるの?」
奈穂美
「春麗には負けるけどね、アルト」
元は、奈穂美の身体つきを見る。
「胸が厚い、脚もがっちり」
奈穂美は当然、春麗と美由紀も、これには怒るやら、呆れるやら。
奈穂美は、「セクハラ?蹴飛ばす!」と迫るけれど、元は涼しい顔。
「骨格の話、声を響かせるには、ある程度の骨格が必要」
「だから、奈穂美さんは大丈夫かなあと」
「肉の問題ではないよ」

奈穂美は、返事に困った。
「すると、私はセクシーではないってこと?」と思うけれど、ここは教会。
とても、そんなことを口に出せない。

元は、そんな奈穂美に気をつかわない。
そのまま、ロードオブザリングのテーマ曲の前奏を弾き始めてしまう。
奈穂美は、ここで「負けてはならない」と思った。
美由紀は当然、春麗も押しのけて、歌い始める。

その出だしで。元は「お?」と奈穂美を見た。
美由紀は焦った。
「ヴァイオリンは下手なのに」
春麗はうれしそうな顔。
「ここまで声が出れば、デュオできるかな」

奈穂美は、必死に深いブレスで謡い続けた。
そして、元と音楽ができる「至上の幸せ」を感じている。
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