第8話元は大学に登校する(2)

文字数 1,039文字

「おい!何だ!てめえ!」
トランペット男が、また大声。
「俺の女に何をする!」

元は、とにかく面倒で嫌そうな顔。
抱きかかえたヴァイオリン女子を離す。
「転んで怪我しそうだったから」
「後は、ご勝手に」
「二人で決めて」
と、そのまま歩き出す。

トランペット男は、まだ怒りながら近づいて来る。
「この馬鹿野郎、余計なことをしやがって」
そして、またヴァイオリン女子に迫った。
「おい!さっさと来い!」
「怪我してえのか!」

元にとって不可解なことが、また起きた。
ヴァイオリン女子が、後ろからしがみついて来た。
「あの!助けて!お願いします!」

元は、嫌そうな顔。
「二人で決めてって、言ったでしょ?」
「俺には関係ないって」
しかし、ヴァイオリン女子は元の袖を掴んで離さない。
身体も元の後ろに、トランペット男には対面しない。

トランペット男は、また激高。
「おい!この野郎!」
「さっさとどけろ!」
「俺の女に何をする!」
「言うこと聞かないと!」

元は、トランペット男を一旦、手で制した。
そして、周囲に、よく通る声。
「言うこと聞かないと?何をする?」
「殴るのか?蹴るのか?」
「おい!言って見ろ!」
「いいか、みんな見ているぞ!」

トランペット男は、ようやく周囲を見回す。
周囲の数多い視線を理解したようで、途端に青い顔に変わる。

元は、トランペット男を、厳しく見据えた。
「いいか?さっきも言ったけれど」
「俺はこの女が転んで怪我をしそうだから、手を出しただけだ」
「こんな場所で血を見たくないから」
「それから、俺は、この女は顔も名前も知らない」
「だから、二人で勝手にすればいい、と思うけれど」
「よくわからないが、女が袖を掴んで来た」
「それが全てだ」

大学職員も騒ぎを聞きつけたようだ。
校舎から二人、小走りに走って来て、一人がトランペット男の腕を掴む。

大学職員のもう一人が、元とヴァイオリン女子の前に立った。
「学生証を見せて、それから、君たちは知り合いではないんだね」

元は、頷く。
「はい、その通り」
「このまま授業に出たいのですが、よろしいでしょうか」
ヴァイオリン女子は、困ったような顔。
「あの・・・お礼をしたい」
「それから、知り合いです」

元は、首を傾げた。
「誰?そんなこと言っても、俺は知らないよ」
ヴァイオリン女子は、元の脇腹をつつく。
「同じクラスです、フランス語の」

大学職員は、少し呆れ顔。
「じゃあ、元君、頼むよ、この子が落ち着くまで」
「トランペットの彼は、学生課で厳しく対応する」

元は、仕方なく、ヴァイオリン女子と一緒に歩くことになった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み